青い海、白い砂浜
「シゲキ様。フルーツなどいかがですか?」
そう言って俺に各種のカットフルーツが盛られたガラスの器を差し出したのは、ミレーニアさんだ。
彼女の肢体を包むのは、オーソドックスないわゆる三角ビキニ。カラフルなビキニの黄色が、青い海と白い砂浜に実に映えている。
ビキニのトップスにはひらひらとしたフリルがついていて、砂浜を吹き抜ける優しい風に緩やかに揺れていた。
合わせて、ミレーニアさんの結構豊かな双丘も一緒にぽよんと揺れる。
「あら、シゲキにはこっちの方がいいんじゃない?」
ミレーニアさんの反対側から差し出されたのは、青が眩しいトロピカルなドリンク。トッピングされているフルーツが、実に美味そうだ。
美味そうなのはドリンクやフルーツだけじゃない。ドリンクを差し出した彼女もまた、実に美味そ……いや、実に魅力的だった。
ミレーニアさんの反対側にいるのはセレナさん。彼女は何ともセクシーな黒のビキニ姿──かなり布面積が少なめ──で、にこやかに微笑んでいた。
黒いビキニの左胸には、白い染料で弾丸がプリントされている。もしかしてあれ、『
傭兵として鍛え上げられたセレナさんの身体は、引き締まりながらも柔らかそうで、それでいて大人の魅力に満ち溢れている。特に、黒いチューブトップの内側に秘められたその胸部戦闘力は、下手をしたら90の大台を越えているのではなかろうか。
更には胸だけではなく、布面積の少ない黒いボトムスに包まれたお尻は、きゅっと引き締まっていて実に素晴らしい。
セレナさんの場合、セクシーさと格好よさとが見事に両立している。うん、眼福。
「フルーツやドリンクもいいけど、私と一緒に泳がない?」
浜辺に設置されたチェアに寝転んでいた俺の手を引くのは、瑞樹だった。
彼女が着ているのは、赤のチェック柄のセパレートタイプの水着。スポーティなその水着は、スリムな瑞樹によく似合っている。
決してミレーニアさんやセレナさんに、身体のどこかが著しく劣っているからではなく、瑞樹にはスポーティな水着が似合うと思う。純粋に。
「ほら、折角こんな綺麗な海に来たんだし、泳がないと勿体ないじゃない?」
そう言う彼女の笑顔は、頭上で輝く太陽にも決して負けていない。
ホント、瑞樹っていつも元気だよな。そう言うと元気なだけが取り柄みたいだけど、彼女には元気な姿が一番だと俺は思う。
そんな瑞樹に腕を引かれて連れて行かれた波打ち際には、緑の髪の美女がいた。
その美女はミレーニアさんや瑞樹たちのように水着さえ身に着けず、生れたままの姿で物珍しそうに打ち寄せる波を見つめていた。
その彼女が、俺に気づいて振り返る。
「このとても大きな泉の水は、すごくしょっぱいのですね。こんな泉があるなんて、私、全く知りませんでした」
ちょっと興奮気味な様子で、フィーンさんが言う。
どうやら、フィーンさんは海というものを知らなかったようだ。まあ、エルフたちが住んでいるあの森の中に、海があるわけないもんな。知らなくても当然と言えば当然だ。
服さえ着る習慣のないエルフであるフィーンさんが、改めて水着を着るわけがなく。彼女はいつものように全裸で波と戯れていた。
確かに全裸だけど、そこにいやらしさはまるで感じられない。周囲の砂浜や青い空や海に、彼女の緑の髪は実に自然に溶け込んでいる。確かにフィーンさんたちエルフは植物だから、ある意味で存在そのものが自然なわけだけど。
波打ち際で楽しげにはしゃぐ、瑞樹とフィーンさん。気づけばミレーニアさんやセレナさんも海の中で気持ち良さそうに泳いでいる。
彼女たちの楽しそうな声を聞きながらその姿に見蕩れていると、突然海の中から巨大なモノが現れた。
その巨大なモノはぴかぴかと光る触手をにゅっと俺の方へ伸ばしてくる。
【おお、シゲキ! この巨大な水溜まりは何とも興味深いな! ほら、これを見たまえ! こんな生き物がいたぞ。ところでこの生き物、我らと実によく似ていると思わないか?】
あ、あの、ズムズムズさん……こ、これってダイオウグソクムシじゃないですか! 一体、どこまで深く潜ったんですか? ってか、海の中でどうやって呼吸していたんだ?
全身から海水を滴らせたズムズムズさんが、捕まえたダイオウグソクムシを様々な角度から観察している。それだけ見ると、何となく巨大なダンゴムシが子供を抱いてあやしているように見えなくもないな。うん、これはこれで実に興味深い。
そういや改めて考えれば、ズムズムズさんも全裸だよな。まあ、グルググはエルフ以上に服を着るなんてしないし、たとえ全裸でも嬉しくはないよな。本人には絶対に内緒だけど。
その後、ダイオウグソクムシを海へとリリースしたズムズムズさんは、ミレーニアさんたちと同じように海と戯れ始めた。
青い海と空、白い砂浜、そして色とりどりの水着を着た美女たち。中には水着を着ていない者もいるが、それはそれでいいじゃないか。
そんな目に優しい光景を、俺は緩んだ表情で眺める。うん、間違いなく、今の俺はだらしのない表情をしているだろう。
「……水野さんっ!! 水野さんってばっ!!」
怒ったような、それでいて焦っているような声が聞こえてきたのは、まさにその時だった。
思わず声がした方へと視線を向ければ、そこにも一人の少女が。
「……香住ちゃん?」
そう。そこにいたのは香住ちゃんだった。しかも、なぜか彼女が着ているのは学校で指定されていそうな水着……いわゆるスクール水着だ。
こんな開放的な海に来て、なぜにスクール水着を?
香住ちゃんの謎チョイスにちょっと首を傾げながらも、俺は彼女へと近づいた。
ぶすーっと頬を膨らませて、明らかに怒っている様子の香住ちゃん。それでいながら、なぜか彼女の両目の端には透明な雫が浮かんでいる。
あれ、涙だよね? 海で泳いだから、たまたま海水がくっついているだけじゃないよね?
どうして香住ちゃんが涙なんて浮かべているのか、と考えていたら、突然がくがくと身体を揺らされる感覚が俺を襲った。
「あ、あれ……?」
もちろん、誰も俺には触れていない。一番近くにいる香住ちゃんも、涙目で俺を見つめているだけだ。
だけど、身体が揺れる感覚はまだ続いている。もしかして、地震でも起きているのか?
周囲を見回すが、それらしい様子はない。
「な、何が起きているんだ……?」
どんどんと激しくなっていく身体の揺れ。
じーっと涙目で俺を見つめる香住ちゃん。
俺たちのことなど気にした様子もなく、ひたすら海で戯れるミレーニアさんやセレナさんたち。
と、突然ここで俺の意識が、まるで照明のスイッチを落としたようにぷつりと暗転した。
「水野さぁん……お、起きて……起きてくださいよぉ……」
うっすらと目を開ければ、俺を見下ろすようにしている香住ちゃんがいた。
あれ? 俺、どうしたんだ? 何か、すっげえ幸せな所にいたような気がするけど……よく思い出せない。夢でも見ていたのか?
「あ……あ、ああっ!! み、水野さん……っ!! き、気がついたんですね……っ!!」
頭上から降ってくる香住ちゃんの声。その声は明らかに涙声で、更にはぽつりぽつりと俺の顔に雫まで降ってきている。もちろん、その雫の発生源は香住ちゃんの両目だ。
「か、香住ちゃん……泣いて……?」
ぽとぽとと俺の顔に彼女の涙が落ちる。まだ半分頭が寝たままの俺は、よく考えもせずにその雨を受け止めようと手を伸ばした。香住ちゃんの頬へと。
涙に濡れた香住ちゃんの頬は、冷たくも温かかった。
「み、水野……ひゃん……っ!?」
びくっと一瞬だけ身体を震わせる香住ちゃん。だが、それ以上は嫌がる素振りもなく、俺の手を受け入れてくれた。
うん、すべすべした肌触りが心地いい……って、うぉぉいっ!!
お、俺、寝ぼけていたのをいいことに、香住ちゃんに何してんのっ!? し、しかも、香住ちゃんもそれほど嫌がっていないようだし……って、それは今はどうでもいいっ!!
俺は慌てて身体を起こす。どうやら香住ちゃんが今まで膝枕をしてくれていたようだ。ああ、だったらもうちょっと寝ていれば良かった……じゃなくてさ!
俺は慌てて周囲を見回した。何となく、香住ちゃんの泣き顔を見るのが気不味かったってのもあり、周りの様子を確認してみる。
この時、俺はようやく潮騒の音に気づいた。打ち寄せる波が立てる独特のリズム。その音を聞いているうちに、心の方も落ち着いてきた。
今、俺たちがいるのは海辺だった。どこまでも透き通るような蒼穹と、同じくどこまでも続く大海原。そして、その海原を縁取る白い砂浜。
あれ? どうして俺たち、こんな所にいるんだ?
確か、俺の部屋に遊びに来た香住ちゃんに、聖剣を見せていたはずだけど──あ。
お、思い出した! 香住ちゃんに聖剣を手渡した後、異世界へ転移する時に発生するあの眩しい光が生じたんだ。ってことは……俺はとあることを考えながら、いまだに砂浜に座り込んでいる香住ちゃんへと目を向けた。
「あ、あのさ、香住ちゃん。もしかして、聖剣の柄頭を押し込んだりした?」
「え? え? そ、そう言われてみれば……」
香住ちゃんは傍らに置いてあった聖剣を持ち上げた。俺の腰にないと思ったら、香住ちゃんが持っていたのか。
「ぼんやりと青く輝いていたので、思わず触っちゃったような気が……」
ああ、やっぱり、香住ちゃんが間違って転移のスイッチである柄頭を押し込んじゃったのか。
今更ながら思い出したけど、彼女が部屋に来る直前にパソコンで弄っていた設定画面で、「同行者」の欄に香住ちゃんの名前を記入したままだった。そのため、彼女が間違って発動させた転移に彼女自身も巻き込まれてしまったのだろう。
「……で、眩しい光が収まると、何故かこの砂浜にいて、水野さんは気を失って倒れているし……わ、私、本当にどうしたらいいか分からなくて……で、でも、水野さんが気づいてくれて良かったぁ……」
俺が気づいて取り敢えず安心したのか、いまだに涙に濡れたままの顔を柔らかな表情へと変化させた香住ちゃん。
まあ、来てしまったものは仕方がない。香住ちゃんには聖剣の能力に関して説明しなくてはならないだろう。
でも。
俺は改めて周囲を見回す。
どこまでも続く白い砂浜と、これまたどこまでも続く広い海。
うーん、つい最近、これとよく似た風景を見たような気がするんだが……あれ、どこだっけか?
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