第9話 方角は南!

「ヤギ、アンテナはこのモニターに繋げばいいのか?」

 俺は、彼女の勉強机に乗っているパソコンを見た。

 デスクトップパソコンに繋がっているモニターは、テレビ機能を兼ね備えた機種のようだ。側面にアンテナを接続するコネクタが見える。

「そう、これ。これでお願いっ!」


 俺はアンテナ線をモニターに繋ぐ。

 とりあえずハンガーを壁にかけ、モニターのスイッチを入れた。そしてリモコンを操作してチャンネルスキャンを開始する。

 これでテレビ神玉が出てくれれば成功だ。

 すると想定していた17chのところに、おぼろげながら画像が浮かび上がってきた。


「おおおおおっ! 本当に受信してるぞ」


 俺は興奮しながらヤギを見る。

 こんな自作アンテナで放送を受信できるなんて、実は半信半疑だったからだ。

 しかし彼女は不服そう。

「ちょっと、デンキ。受信したからって満足しないでよ。これじゃ、ちゃんと見れないじゃないっ!」

 確かに、この画像では映ったとは言えないだろう。

 タイムリミットの8時まであと数分。

 泣き出しそうなヤギを横目に、俺は解決策を口にした。


「簡単だよ、ヤギ。アンテナを南側に向ければいいんだ!」


 俺は今まで、無駄に過ごしていたわけじゃない。

 自動販売機のジュースを探していた時、時折空を見上げ、家々に付けられたアンテナを観察していたのだ。


 ——テレビ神玉を受信する方角を調べるため。


 新しい地デジアンテナはすべて東側を向いていた。これはムサシタワーの方向だろう。

 一方、古びたアンテナは、どれもこれも南側を向いていたのだ。

 きっとこの方角が、テレビ神玉の発信所の方角に違いない。


「南に向ければいいってホント!? だったらその窓よ」

 ヤギが示す窓際に、俺はアンテナを持って移動する。

 すると、ヤギが歓声を上げた。

「映った! さっきよりも良くなったよ、デンキ!」

 俺もチラリとテレビを見る。が、まだ画像は荒い。音声だってノイズ混じりだ。

「ヤギ、窓を開けてもいいか?」

「もちろん!」

 ネットの記事には書いてあった。アンテナを外に出した方が、受信状態が良くなる可能性があることを。

 俺は窓を開け、アンテナを持つ手を外に突き出す。

「おおっ、さらに良くなったよ。もうちょっと出してみて」


 ええっ? もうちょっとだって?

 あまり身を乗り出すと、窓から落ちちまうんだけど……。


 俺は転落しないように左手で窓枠をしっかりと掴み、アンテナを持つ右手を精一杯突き出す。

「完璧! デンキ、最高だよ!」

 ヤギの歓喜が部屋に響いた。

 タイムリミットギリギリの勝利。俺たちはついにやったんだ!


 しかし、どれくらい綺麗に映るようになったんだろう?

 確かめようと俺が体勢を戻すと、ヤギが絶叫する。

「コラ! 動くな、デンキ! 映らなくなる!!」

 俺は慌ててアンテナを窓の外に突き出した。


 って、ヤギさんよ。

 これじゃ、俺はテレビが見れないんだが……。

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