第4話 なんで見れなくなっちゃったの?

「えっと、なになに……」

 俺はヤギにも聞こえるように記事を読み上げる。


『2011年の地上デジタル放送の開始で……』


 そうか、地デジ開始は2011年だったか。

 そういえば、地デイジンとかいうキャラがテレビに登場したりして、しきりに宣伝してたっけ。

 あの頃はまだ小学生だったけど、地デジ開始とか難しいことはよく分からなかった。


『首都圏のテレビの電波は、ムサシタワーから発信されることになりました』


 ——ムサシタワー。

 首都の東の方にできた新名所だ。

 高さが634メートルなので、そう呼ばれている。


「へぇ〜、ムサシタワーって眺めを見るだけじゃないんだね」


 ヤギがぽつりと呟いた。

 いやいや、さすがに俺は知っていたぞ。あのタワーの機能が眺めだけじゃないってことは。

 だって親父が『地デジアンテナをムサシタワーに向けなくちゃ』と言っていたのを思い出したからだ。


 ん? 待てよ。

 アンテナをムサシタワーに向けるってことは……。

 なんだか謎が解けそうな高揚感を覚えながら、俺は記事の続きに注目する。


『アンテナをムサシタワーに向けた場合、一部の地方局が映らなくなることがありました』


 そうか、そういうことだったのか!

「わかったぞ、ヤギ!」

「ちょ、ちょっと、いきなり大声を出さないでよ」

 耳に指を突っ込んで顔をしかめるヤギ。

 放課後の教室は、もう俺たちしか残っていなかった。

 だから俺は、興奮気味に答えを口にする。


「家のアンテナの向きが変わっちゃったんだよ、2011年に!」

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