第5話 理由が分かったぞ
「それってどういうこと?」
ヤギの疑問に俺は答える。記事の内容を参考にしながら。
「つまりだな、地デジ放送の開始と同時に、電波がムサシタワーから発信されるようになったんだ」
「それはさっき聞いた」
「するとどうする? ムサシタワーからの電波を捉えようとするだろ? だから、俺の家では親父がアンテナをムサシタワーに向けてた。きっとヤギの家でも、そうしたんだと思う」
「ふーん……」
分かってるのか分かってないのか分からないような相槌をヤギが漏らす。
今までの経験上、彼女がこんな返事をする時は分かっていない場合が多い。
「アンテナの向きが変わり、ムサシタワーを向いた。もしかしたら、その方向はテレビ神玉の方向じゃないんだよ。ということは……」
ここまで言ってやっとヤギにも理解できたようだ。
ぱっと彼女の表情が明るくなる。
「電波を受信できなくなって、テレビ神玉が見れなくなる!」
こんな大事なことに今まで気づかなかったとは!?
それだけ長い間、テレビ神玉を見ていなかったということだ。
それはなぜなんだろう?
中学生の頃は部活が忙しかったし、その後は高校受験があった。
高校入学と同時にスマホを手にして、それ以来動画ばかり見ていた。
つまり、俺たちは、今までずっとテレビ神玉をほったらかしにしてたんだ。
「そういうことだったのね……」
噛みしめるようにヤギが呟く。
そのトーンの低さから推測して、彼女も俺と同様、テレビ神玉を大切にしなかった自身の愚かさを悔いているに違いない。
「解決策は二つだ」
俺はヤギの前に指を二本かざす。
「一つは地デジアンテナを新たに買って、テレビ神玉へ向けること」
ヤギは素直に頷く。まあ、これは誰もが考える方法だ。
「もう一つはワンセグで見ること。ヤギのスマホは対応してたっけ?」
俺は手にしている彼女のスマホを見た。
これが使えればすべては解決だ。しかし――
「ダメ。私のはアイポンだから……」
「俺と一緒か……」
二人はうなだれた。
そう、アイポンはワンセグを見ることができないのだ。部品を買えば見れないこともないらしいが、その値段が結構高いと聞いたことがある。
「だったら道は、地デジアンテナしかないな……」
俺が腕組みをすると、勝ち誇ったようにヤギが鼻を鳴らす。
「だから最初から言ってるじゃない、地デジアンテナを作ってって。新しいのなんて買う余裕、ないんだから……」
おいおい、金がないからって勝ち誇るなよ。
そして俺は気が付いた。彼女の依頼を自ら肯定してしまったことを。まさに墓穴。
俺は観念するしかなくなった。
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