第三話 誰っ!?

「誰っ!?」

 すかさず僕は周りを見回す。

 長いカウンター席には、僕と同じように参考書を広げている人達が五人くらい。しかし彼等彼女等は、いずれも勉強に集中していた。


 家族用のテーブル席にも、ポツリポツリと十人くらいが参考書を広げていた。が、勉強に夢中でこちらを見向きもしない。

 すると、近くのテーブル席に座る子供連れのお母さん達の一人と目が合った。コーヒー片手に、席に座ろうともせずキョロキョロしている僕を不審に思ったのだろう。


 ――あの、お母さん達が犯人?


 いやいや、それはないだろう。

 この落書きをするためには、僕が解いている問題が三角比であることを知る必要がある。うちの母親なんてこの間、「サイン、コサインって昔やったわね」と遠い目をしていた。広げた問題集の内容から判別できるとは思えない。

 そもそも、あそこにいるお母さん達が、わざわざこんな落書きをする理由はないだろう。


「となると……」

 三角比の存在を身近に感じている者の仕業。

 手っ取り早く言えば、犯人は僕と同じ高校生だろう。

「でも、動機が分からない」

 三角比の勉強を止めろ、という警告なのか? 

 それとも単なる嫌がらせ? 

 まさかの三角比反対派……とか!?

「ちぇっ、全く誰だよ、こんなことするのは……」

 結局その日は、勉強に集中することはできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る