第十話 夏の終わり

 それからの僕は、勉強に疲れると一服代わりに裏ワザ冊子作りに打ち込んだ。

 時にはあまりにも没頭してしまい、受験勉強との時間配分が逆転してしまうこともあった。


 ――輝く彼女の瞳を、もう一度見たい。


 その一心は、僕をどこまでも突き動かす力を持っていた。

 しかしあの日から、彼女は僕の前に姿を現すことはなかった。フードコートを見回してみても、彼女の面影を見つけることはできなかった。



 夏休みが終わると、フードコートでの受験勉強は放課後の限られた時間だけになってしまう。


 ――あの時の約束、忘れられちゃったんじゃないだろうか。


 そんな不安が心を支配する日は、勉強が全く手につかなかった。

 ずっと彼女の動画を眺めている時もあった。

 それでも、フードコートのあの席に座ることだけは続けていた。だってそこは、彼女と出会える唯一の場所だから。

 この期に及んで、僕は彼女の名前すら聞いていなかったことに気付く。どこの高校に通っているのかも分からない。


 ――何で姿を現してくれないんだよ……。


 夏休みに急上昇した僕の成績は、九月になって下降に転じてしまった。



 十月になると、僕は約束の冊子作りを中断した。

 他人の受験勉強のために自分が犠牲になるのはあまりにも悲し過ぎるから。

「夏休みの宿題、ついに受け取ってもらえなかったな……」

 こうなることは二人の運命だったんだ。

 自分に言い聞かせる言葉とは裏腹に、僕はいつまで経っても約束の冊子をバッグの中に入れ続けていた。

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