第五話 犯人も受験生?
夏休みもあと三日を残すばかりとなった月曜日のこと。
僕はイタズラを仕掛けて、午後三時のトイレに立つ。
席を外している間に、あの女の子がトラップに引っかかってくれることを期待しながら。
そしてトイレから戻って来ると、案の定、あの女の子が僕のノートの前に仁王立ちしていた。
彼女は戻って来た僕をギッと睨みつける。
「ちょ、ちょっと! 何、これっ!?」
ノートを指差す女の子。その腕はプルプルと震えていた。
「これって盗撮じゃない! 盗撮は犯罪よっ!」
実は、彼女が写っている動画からほっこりとした表情の彼女の顔写真を切り取って、ノートに貼りつけておいたのだ。『三角比、大好き!』という素敵なセリフを付け足して。
――やっぱり、三角比嫌いは当たりだったか。
あまりにも予想通りの反応に可笑しくなった僕は、天井を見上げながらとぼけてみる。
「えっと、別に盗撮してたわけじゃないんだけど……。ただこの天井を観察してたんだけどなぁ。そしたら写っちゃった人がいるみたい。偶然にしてはありえない角度だけどね」
「キミね、女の子を観察することを盗撮って言うのよ。これは私を観察してたとしか思えない」
彼女も引き下がらない。
でも、頭に血が上っている時がチャンスだ。今の彼女なら簡単にボロを出すだろう。
「君が僕のノートに落書きなんかするから、仕方なくやったんじゃないか」
「仕方なくってなによ。キミが三角比なんか勉強してるからいけないんじゃない。あれはその報いよ、って、あっ……」
彼女も気付いたのだろう。
自分が落書きの犯人であると自白してしまったことを。
でもよかった。
僕に個人的な恨みがあるわけではなくて。
彼女は純粋な三角比反対派だった。
「まあ、座りなよ。僕も悪かったよ、君の写真を勝手に使って」
そう言いながら僕はカウンター席に座る。
「私だって……ごめんなさい……」
煮え切らない表情のまま、彼女も渋々、僕のとなりの席に腰掛けた。
「いや、でも、やっぱりキミの方が悪い。なによ、毎日毎日掌をヒラヒラさせて。あれって、すっごく目障りなの。気が散るの。やめて欲しいの」
えっ、やっぱり個人的な恨み?
集中の儀式を毎日観察されていたとは恥ずかしい。
「それで、何をやってるんだろうとキミの席を見に行ったら、私の嫌いな三角比じゃない。三角比なんて、地球上から無くなっちゃえばいいんだわ。というか、教えて。全然わからないの。困ってるの。ピンチなの。お願いします」
挙げ句の果てに、涙目で懇願されてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます