第1-7話 私を手放さなければ、きっとまた会える

初戦はガチガチな少女が出ることとなった。

聞けばこのゲーム自体の経験は殆ど無く、カード持たずに試しにやっていただけだったらしい。

内心、それなりの腕前であることを期待していた大吾にはガッカリする情報であったが、それを表に出したら余計に緊張させてしまうと思い、飲み込むことにした。

しかし、対戦相手はそういう所を突くことこそ戦い方でもある。


「おいおい。手震え過ぎじゃね? 今から手でコキコキする練習でちゅかぁ〜?」

「えっ、な、何で…」

「何でって、そりゃ負けたらお前も奴隷彼女だからっしょ? 何? 安全圏にいると思ってた?」


余計に緊張していく女の子、最早レバーさえ持てなくなっていた。

マズイ、と梓と大吾は視線を合わせたが、グズグズと泣き出してしまった彼女を慰める術などない。

勿論泣いて好転する訳でも無いので寧ろ梓はイライラしているようにも見える。

泣いたところで何も変わらないし、腹も括れない腰抜け、と言いたげであった。いや、寧ろ言う寸前まで来ていたが、それを遮ったのは他でもない由貴であった。


「お、オレがやる。まだ始まってないから問題ないだろ!」

「店員がしゃしゃり出てくるなよな。それとも奴隷彼女希望でちゅか〜? だったら大歓迎。寧ろ対戦しなくてもしてやるぜ」

「そんなものになりたくはない。けど、男3人に女の子2人じゃ釣り合わないだろ? だから交代を認めろ」

「くくくっ、良いぜ良いぜ。だが、あとで無しってのは出来ねぇからな」


啖呵を切った由貴の足は分かりやすく震えていた。

さすがに気の毒に思ったか、はたまたその勇気に先ほどのことを詫びようと思ったのか、大吾が声をかけようと一歩踏み出したのを梓は制止した。

不思議に思って彼女を見ると、まだ険しい目で由貴を見ていた。


「ねぇ。何勝手してるのかしら。私はまだ一考すると言っただけでメンバーに入れるとは言ってないわよ」

「それは良いよ。さっき言われたのでオレも甘ったれてたの分かったし。だからあくまでここの店員として、あの礼儀知らずを追い出したい、じゃダメ?」

「………はぁ。でも、貴方のヘタレで逃げるって言うのは本性なのだと知った以上、厳しいわよ私は」

「あははは、そこは、ここで結果出して緩くなること希望かなぁ」


梓は甘くは無い、と言いたいのだろう。

1度は失望させたのに、言われたから名乗り出ただけで気を許すほどでは無いと言い切ったようなものだ。

だが、大吾には別の印象を与えた。

ワザワザ梓が声に出して伝えたことだ。

梓は無駄に伝えたり言葉にはしない。

故に見放されたら構わなくなるタイプなのだと思っていたからだ。

それが伝えた、と言うことは望みは大いにあるのだと感じているのだ。


「さて、と。結果見せないと」

「覇王さん、頑張って」

「負けたら貴方のパンツを来場100人目の人にプレゼントして貰うわよ。あ、ダメだわ。それだとお客さんが罰ゲーム受けてるようなものよね。取り消すわ」

「そんな事ないから! オレのだって喜んでくれるから!」


そうツッコミ返す由貴の顔には強張りは消え、足も震えていなかった。

筐体の前に座り、100を、ワンコインを投入する。

カードを読み込ませると登録しているキャラクターが即座に選ばれた。

ポイントは8230。

大吾からしたらかなり高い数字に見えた。

だが、相手も乱入をしてきてカードを読み込ませると


「な、1万3000!?」

「そこそこやるようね」


このゲームは格下とやってもあまりポイントは稼げない。

故に貯めるには同じぐらい以上が必要となる。

1万を超えるのには時間が必要と言われるが、彼らはそれだけのものを持っていた、と言う事だ。

由貴が使うキャラはボーンテージな女王様ルックで、胸やお尻が大きく露出が激しい女プロレスラーのキャラクター、フライング・ピーチだ。

コマンド投げ、対空投げ、移動投げと投げに特化させたキャラで、起き攻めの択一女王として知られている。

対して相手は通称アレクサンドロス。

このゲーム随一の巨体を誇る投げキャラだ。

投げの間合い自体が広く、起き攻めの女王と称されるピーチに対し、アレクは投げ殺しと称される。

起き攻めとはまた違った起上がりの攻防があり、強さで言えば立回りさえ見誤ることさえ無ければ殆どのキャラに勝つ可能性があるキャラクターだ。

最も、どのキャラも戦い方さえ自分のを行えれば勝てる可能性を持っているのでアレクだけとは限らないのだが。


「アレクで1万3000だなんて。戦い方が分っていなければ到達出来ない領域ね」

「どういうこと?」

「アレクは立回り、投げ間合の把握ぐらいで勝てるようになるキャラなのだけれど、だとしてもそれ以外は難しいし、各キャラ全てに1つずつ対応させないとならないから1万を超えるのは難しいキャラクターの1体なのよ」

「・・・・・・それって、滅茶苦茶強いってことじゃないか!」


そのことは由貴も知っているのだろう。

だからこそ、より緊張の面持ちを見せている。

同じ投げキャラでも比較的打撃を見せながら起き攻めの択を押しつけるピーチと投げ間合の広さと立回りで投げ落していくアレクでは相性の面で言えば悪いのだ。

投げ間合が広いアレクとの投合いではピーチが不利、打撃を混ぜても起き攻めの択で投げ返される可能性があるので他のキャラ相手よりもリスクを背負わなければならないこともあって戦い辛い相手なのだ。


「すぅー、はぁーー」


大きく深呼吸を行い首を左右に曲げて準備体操を行う。

相手はまだゲスな笑みを浮べているようだ。

由貴のポイントは8230。

キャラの相性にポイント差から余裕なんだと感じているのだろう。

だからこそ、その後が楽しみでしょうがない、と考えているようだ。


「でもそうね。覇王や大吾さんがちゃんと戦えるのなら、勝てない相手じゃないわね」

「何を根拠に・・・」

「今までの戦い方よ。覇王の戦い方は状況を考えずにコンボをやってしまうのが悪癖なのだけれど、その代りあのキャラ選択は間違いじゃないの。起き攻めは自分が壁を背負っても関係無くなるから。そしてコンボを喰らい続けるってのは、意外と苛々が溜るものなのよ」


苛々が溜るからなんだ? と思った大吾であったがそれを効く前に画面からFIGHT!の声が聞えてきた。

画面の巨大な男とボーンテージ姿の女性の2人が一斉にバックステップ、後ろに軽く飛んだ。


「始ったわね。まあ、見所は、どちらがどう近付くか、よね」


お互いに近距離の投げキャラクターを使う為、遠距離ではやることが何も無いのだ。

いや、何も無いというのは語弊があるが、やれることは少ない。

少なくとも相手を攻撃して殴ることは無理だ。

故に近付かなければならないが、近付けば必然的に相手の攻撃も自分に届くようになる。

その為に必要なのが近付き方が問題なのだ。

基本的には牽制と呼ばれる飛び道具、若しくは攻撃範囲が広いものを出したりしながらジリジリと寄せる。

若しくはチャンスを窺って一気に飛込むこともある。


「〜♪」


鼻歌交じりにアレクを使う男が動いた。

滑るように前へ大きめに移動したと同時に大きくジャンプし、その巨体を寝かせてドロップキックをぶちかました。

由貴の使うピーチの顔の目の前を落ちた、のだが、ピーチは当り判定があったのか仰け反ってしまった。


「あら、キャラのオッパイが大きいせいで当り判定が少し前にあったのが災いしたわね」

「そ、そんな所まで違いがあるの!?」

「それはこのゲーム特有。大抵の格闘ゲームには当り判定はキャラクターの大きさで大まか違うけど、そんな細かな違いまで出してるのはこれぐらいよ」


キックがヒットしてしまったピーチは仰け反っている間に再度滑るような移動で前に出てきたアレクが密着、とは呼べないような微妙な距離を開けて近付いた。


「ぐっ!」


由貴は動けるようになると同時にジャンプを行い逃げようとしたが、アレクは合わせてジャンプし、飛上がったピーチを掴むと抱えて頭を下にして地面へと叩付けた。

ライフは大きく減ると倒れ込む。

起上がるタイミングを狙ってアレクは大きく振りかぶり、緑色のオーラを纏ったビンタを放った。

起上がったピーチはガードをしたが、その後動き出すことが出来ずに攻撃も移動も出来なくなった。


「慎重になりすぎているわね。1度の失敗で恐れて動けないでいるなんて」

「えっと?」

「1度ジャンプをして逃げようとしたのに失敗して投げられたじゃない。だから覇王の潜在意識にジャンプはダメだと勝手に思い込んでしまっているのよ」

「でもジャンプしたら投げられちゃうんだから辞めた方が良いんじゃ無いの?」

「でも択一にジャンプが無くなる方が危険なのよ。特に投げキャラにジャンプの選択をしないなんて、自殺行為にも程があるわ。寧ろ自殺志願者。きっと覇王はあの男の誰かが好みなのでしょうね。ホモだわ」

「・・・・・・覇王さんは女性だって自称してるんだからホモ扱いはしないであげなって」


動けなくなってしまった由貴のピーチに距離を詰めるとアレクは大きく押倒す形にすると片手で足を掴んで1回転、2回転、3回転して放り投げるジャイアントスイングを行った。

また大きくライフが減ると倒れ込んだピーチに向って滑る移動を繰返して距離を詰めていく。

そして起上がったピーチを見ると由貴は慌てたようにレバーを動かした。

が、ピーチの投げモーションを行ったのだが、投げコマンドが成立したが、投げ間合いの外でヒットしなかった時に出るスカモーションになってしまっていた。

それを見てからアレクは再度ジャイアントスイングを行い、ピーチのライフは殆ど無くなってしまった。


「間合い勝負となると固まったりする側は不利よね。固まるってことは間合いを詰めることも自分から出来ないし、全てが後手後手」

「覇王さん、ピンチだけど良いのか梓さん。勝算があったんじゃないの?」

「普通に戦ってれば、ね。今のあの子じゃ無駄よ」

「今の? どういうこと?」

「こういうことよ」


そう言って梓はスタスタと由貴の真後ろまで来ると、遠慮なくその後頭部をパチコーンと叩いた。

いきなりのことに前につんのめった由貴は後頭部を押さえながら、若干涙目の状態で振り返った。


「な、何!? 負けたからって」

「違うわよ。貴女、こんなことで萎縮して声優としてもグラドルとしても成功すると思っているの? 貴女の持ち味は何だとかインタビューに答えてたでしょ。ほら、始まるわよ」


梓が言い終わると同時に、FIGHT!の音が響いた。

慌ててレバーを握る由貴だが、そのやり取りが見えていて尚止める気もなくアレクは襲いかかって来た。

『貴女の持ち味はは何だとかインタビューに答えていたでしょ』の言葉は、由貴に刺さり、迷い、苦悩し、そして吹っ切れさせた。

否、開き直らせた。


「おりゃ!」


滑るような前ステップで近づいて来たアレクをピーチがアレクにチョークスリーパーを決めると、そのまま回転し出して遠くに投げ飛ばした。

アレクのライフは大きく削れ、相手の男から舌打ちが聞こえる。

しかし、ピーチの猛攻は止まらなかった。

起き上がりの投げを嫌ったのか立ち上がりと同時にジャンプをしたアレクを逃さず対空投げのブリングで相手の頭を胸で押しつぶすボディプレスの体制で撃ち落とした。

さらに起き上がりに下段キックから数発当て、ラリアットをしてジャーマンスープレックスを決める打撃投げまで決めると、アレクのライフは目に見えて残りわずかとなった。


「それで良いのよ」

「どう違うの? いや攻めてるのは分かるけどさ」

「まさしくそれ。この覇王はガン攻め、つまりはひたすら攻め立てるスタイルなのよ。ガードは不得手なぐらいに。なのに後手後手に回るし、固まるし、勝てる要素は無くなるわ」

「でも格上相手にそれでかてるのか?」

「格ゲーはトータル力で測られるけど、攻めだけを見れば覇王は2万ポイントクラスよ。ガードがヘッポコだから今の2万ポイントの人間にはカモられるけど、多少は勝てるでしょうね」


話しが終わるとピーチがお尻からアレクの顔を潰す用に圧迫して倒すところだった。

これで1ラウンドずつ取り合ったことになる。

次が勝つか負けるかが決まる最終ラウンドだ。

由貴は指を鳴らして深く息を吐いた。

緊張しているのか、うっすら汗を額に滲ませている。

対して相手の男は先ほどの負けが悔しいのか暴言を吐きながら仕切りに由貴を威嚇している。

それでも由貴は気にもせず、聞こえていないかのようであり、余計に相手は怒り狂っている。

FIGHT!の声が響くと同時にアレクはその巨体を震わせて飛び上がり、慣性の法則を無視するかのように空中にいたのにボディプレスの形で落ちて来た。

バックステップをしていたピーチだが、アレクの巨体とピーチの当たり判定がある大きな胸のせあで頭の先がヒットしてしまった。

アレクは続けざまに大きく振りかぶってビンタをまた出して来たが、ピーチはダメージ硬直が切れていたのでガードが間に合う。

そこにピーチはお返しと言わんばかりにソバットを繰り出すと背を剥いたアレクを、その身長差見た目では60cmぐらいはありそうな二人であるが見事にジャーマンスープレックスを決めた。

続けて起き攻めの女王の由来を見せつけようと距離を詰めてアレクの秋あがりに合わせてコマンドを入れようとした… 刹那


ドンッ!!


筐体がズレるぐらいの衝撃が撃ち込まれ、それによって由貴はラバーから手を放してしまい、コマンドを起き攻めをやろうと距離を詰めていたのが災いして逆に足を掴まれてジャイアントスイングを決められてしまう。


「い、今あの対戦相手たち、全員でゲーム台を蹴ったよな」

「…ゲーマーとしてクズね。いや、あんなのを人としてカウントしていたことの方が恥ずかしいわ」


由貴も分かってはいるが、今抗議しても知らないの一点張りだろうし、何より席を立つ訳には行かない。

梓に肩で小突かれた大吾が彼ら側に来たが、1人が立ち塞がるように立ってニマニマしている。

台を蹴るのに2人いれば出来なくもないからこそ、1人は足止めなのだろう。

大吾は口を開いて今のことを注意したのだが、知らないの一点張りで追い返されてしまった。

こんな状況でも他の客は遠巻きに見ているだけで店員を呼ぶことさえしてくれないが、梓はそんなことを気に掛けていなかった。

今ので由貴の表情に焦りと怒りが出はじめたのだ。

また冷静さを欠いてしまうのではないか、と言う心配をしているのだ。

そして梓の悪い予想通り、由貴は足払いで転ばせた後、距離を詰めずに中距離を保つ行動を取った。


「これじゃダメね」

「で、でもダメージ的には大差無いし」

「ピーチが起き攻めの女王って呼ばれるのは、逆に言えば起き攻め以外の勝ち筋はあまり無いのよ。打撃も、投げも、特殊攻撃も、全て起き攻めに持っていくための布石のようなものだから」

「なら、起き攻めを辞めた覇王さんは…」

「これで相手が中距離以上が得意なキャラが相手なら近距離で戦えば望みはまだまだあるけど、間合いが一緒、いや相手の方が少し長い今じゃ不利以外何でも無いわよ」


梓の言葉通り、間合いの外からパンチが飛んで来る状況で辛く、無理矢理距離を詰めようとすると投げられる。

そんな悪循環を繰り返し、気付けばライフは殆ど無くなっていた。

余計に焦る由貴は前に出ることも、下がることも出来ない中途半端な位置で固まってしまう。


「(やっぱりダメだ。オレのせいで木辛やあの女の子までが…)」


ボタンから手が降りかけた由貴だったが、背中に痛みの衝撃が走り、思わずつんのめって我慢に鼻を強打しそうになった。

慌ててレバーを握り直した由貴の隣に視線を合わせるように姿勢を落として中腰になる梓が横目でジトッと睨むように見ている。

瞬間、由貴は少し唇を噛むと、視線は画面へと戻った。

そのまで確認した梓は立って由貴の後ろ、画面を見ていた位置に戻って来た。


「何も言わなくて良いのか?」

「充分よ。一々教えてあげないと忘れちゃうなんて、調教し甲斐のある人だことで」

「何だかんだ信じてるんじゃないか」

「飼い犬に手を噛まれたら、次は徹底的にやるのは趣味なのよ。おかげで我が家の忠犬はどんな時でも私の声に反応するわよ」


ニタァと効果音が付きそうな笑みと言葉にゾッとしながら大吾はこれ以上踏み込まない為に意識を画面に集中させた。

ピーチは防戦一方だが、この数秒間は相手の攻撃を防ぎきっている。

相手の男は完全に舐めた様子で勝利を確信しているようで、リーチの長いパンチと少し近づいたり遠ざかったり微調整しながら笑い声まじりに談笑しながらプレイしている。

対して由貴は全神経を集中させてタイミングを計っていた。

一発でも当たれば負け、その状況を打破するには攻め勝つしか無いと腹を括ったのだ。

逆に相手の男は当てれば勝ちの中、どう攻めるか考えていた。下手な攻撃でガードされて反撃を受ければラース状態故に逆転も考えられるからだ。

格闘ゲームは詰めを甘く見ると逆転されるゲームであるが故に、勝てそうな時ほど慎重になりやすいのだ。

試合が硬直気味になり、お互い牽制をしながあ様子を伺う。


「凄い緊張感だ」

「変な話よね。いつだって気を抜いて戦えないのに、尻に火が付くと余計に集中してしまうもの。本気だからこそなのよ大吾さん」


息がつまる思いで見ていた大吾には少しチクリとくる言葉だった。

人生において本気で何かをしたことなどないと思うぐらいに熱量を自分から発したことが無いからだ。

だからこそ、今の本気の由貴を見て本気で応援したくなっているのだ。

不意にアレクが前に滑るように移動をして来た。


「ガードされないように投げる気ね。虚をつくタイミングとしては及第点だけども、お粗末だわ」


ピーチはチョップを繰り出していたが、空振るとアレクが足を掬う前にジャンプをして回避。

アレクは投げスカモーションに入ってしまい、長めの硬直が発生してしまう。

ピーチは空中から一回転をしてお尻から落ちるとアレクの頭にヒット。続けざまに地面に降りたピーチはしゃがみキック、立ち上がりローキック、ラリアット風味のパンチでアレクの巨体を浮かすと飛び上がってアレクの顔に胸を埋めさせて地面に一緒に落ちるブリングまで決めた。

ライフは大きく削られ、アレクの方も殆どライフが残っていない。

ここでピーチは起き攻めのために距離を詰めた。

今度は衝撃に備えて構え、起き上がり側にコマンドを入れようとした。

が、

TIME UP!

アレクが起き上がる寸前に画面出て来た赤い文字は戦いの終了を告げていた。

Winner アレクサンドロス

赤い文字の裏ではアレクが両手を上げて喜び、ピーチが後ろを向いて地団駄を踏んでいる。


「殆どライフに差は無かったけど、ドット差って所かしらね」

「ドット差?」

「ドット絵とか見たことないかしら。1pixelのこと。殆ど見え無いってことよ」


見え無い差でもゲームはそれを感じ取り、それで優劣を付ける。

由貴は反対側で盛り上がる男たちを尻目に首を落とした。

梓や自分の今後よりも、今負けた悔しさを噛み締めて。

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