第3話 立夏祭(3)
そして、S君と葵ちゃんは意気投合し、二人の会話は三十分続いた
S君の頭の中には矢澤グループのことなどなかった。ただ、クラス一の美女とここまでも楽しく語り合え理解し合えたことに幸せを感じていた
S君が我にかえったのは、葵ちゃんが給食の食器を片付けに席を離れた時だった。S君はゴール係であったことを思い出したのだ
そして自分の周りを見渡すと矢澤を筆頭に矢澤グループのヤツ達がS君を睨んでいる
ゴール係の役を放棄しただけでなく話し相手がクラス一の美女だったのも悪かったのだろうか矢澤達の嫉妬心を煽ってしまったのだろう、S君はそれからというもの矢澤グループから無視され、さらに男よりも女が優先の女好きという噂まで流された
それからS君は普通に話したりはするもののグループとつるまなくなったらしい
もう分かっている人はいると思うが、この話ち出てくるS君は紛れもなくこの僕だ
普通ならこれをきっかけに人間不信になったとかなるのが正しいのだろうが、正直に言うとあの件以来僕は一人でいることの魅力というものに気づいてしまった。強がっているわけではない。そして別に人とつるむのが嫌いになったとかでは決してない。ただ、一人の良さというものをあの件をきっかけに知り、自分から好んで一人でいるのだ
グループのヤツ達の顔色を伺ったり、周りに気を使ったりする必要がないのも一人の利点だと思う
そんなことを考えていたら祭り会場に着いた。やはり多くの人がいる。僕は屋台を物色しながら全ての屋台を見終わる前にポケットにぐしゃっと入れてきた千円をからあげ、とりんごあめ、で使い切った
祭りは物価がとんでもなく高いな、と改めて思いながら屋台のある道を抜けた
僕の目的は屋台よりも花火だ。しきりなしに花火は湖上で打ち上げられているのだが、屋台の近くでは明る過ぎて花火がよく見えない
なので僕は湖から歩いて数分の明かりのない場所へ移動することにした。毎年僕はそこで花火を見ている
そこは縁結びの神様を祀っているとかいう神社らしいが僕はそういうことに興味がないので詳しくは知らない。ただここは小さな神社で地元の人しか知らないような神社なので落ち着いて花火を見ることができる、いわば秘密のスポットだ
「きっつ」
本堂は小さいクセにやけに階段が多い。地元民でもここまで苦労してわざわざここで花火を見るという人はそういない
「やっと着いた…ん?」
本堂付近の松の木の下にあるベンチにどうやら一人だけ座っている人の影が見えた
「珍しいな」
先客がいるとは思わなかった
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