第2話 立夏祭(2)

「変わってないな」

つい、独り言が心からこぼれた

この言葉に誰かが「急になーに、言ってんだよ。」などと反応してくれれば独り言にならないで済むのだが、漏らした言葉が独り言になるというのは隣を歩く人が居ないからである

僕は昔から人と必要以上に関わることなどないのだ。だから今日もこの町の一大イベントでさえ僕は一人で道を歩く

僕はたまにこんな自分を客観視するのだが、別に可哀想だとか、青春を棒に振ってるとか思わない


僕が小学六年生の時だ。僕のクラスには矢澤というリーダー的存在な子を中心とした七名のグループがあった。その頃矢澤はクラスの中では一二を争う長身で矢澤の言うことにわざわざ逆らったりするヤツは居なかったのである

うちの小学校では男子は給食をとにかく早く食べ終え、昼休みは校庭でサッカーをやる、というのが小学校の頃の当たり前であった。だが校庭にはゴールが二つしかなく毎日のように学年間やクラス間で取り合いになったのだった

そこで矢澤率いる七人のグループは絶対にサッカーゴールを確保できるある方法を見出したのである。それはゴール係というのを毎日ローテーションで回し、いただきます。の合図とともに教室を飛び出しサッカーゴールを確保するという作戦だ。ちなみにゴール係は給食など食べない

なんだそれ、と思った人も居るだろうが、そこまでしてでもあの頃はサッカーゴールを確保したかったのだ

ある日、給食に唐揚げが出た

そう、小学生なら誰もが好きであろう唐揚げなのだが、こんな日にもゴール係は我慢してサッカーゴールを取りに行かねばいけないのである。そしてここで役が回ってきたのがS君(誰かは分かると思うがここで名前はあえてふせるとしよう)なのだった。

そのS君は唐揚げを我慢してまで役を果たそうと席を立った時だった。給食を食べる時僕の目の前になる子、クラスの中で1番の美女と呼ばれていた葵ちゃんに話しかけられたのだった

「S君ってさ、筆箱にでんでんのストラップつけてるんだね」

「なっ…」

でんでんとはあるマイナー漫画に出てくるカタツムリのようなキャラなのだがこれがたまらなく可愛いくて、当時S君は一人はまっていたのだ。しかし、ここで同士に会うとは思いもしなかった。しかも相手はクラス一の美女だ

そして、S君と葵ちゃんは意気投合し、二人の会話は三十分続いた

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