K.T

第1話 立夏祭(1)

花火の音がする

毎年この音を聞くと本格的な夏が来たな、と思う。一夜限りの祭りで、夏の始まりを地域で祝う。わりとここらじゃ有名なお祭りで隣町からだけでなく、隣の県からもこのお祭り目的で沢山の人が来る

僕の住む町の真ん中に大出湖という湖があるのだが、その湖上で花火が盛大に上げられる。そして屋台はその湖をぐるっと取り囲むようにして並んでいる

「お祭りか……」

窓から外を眺めると湖の周辺で屋台が鮮やかな光を放っているのがわかる、そして湖上では言うまでもなく綺麗な花火が花を咲かす

僕の町では夏の始まりと終わりに二度お祭りが開かれる。この祭りは昔から行われているらしく、古くから言い伝えがあるらしいが詳しいことはよく知らない

今の時期はまだ初夏だから今日は夏の始まりを知らせる立夏祭が開かれている。立夏祭は夏の到来を祝うため盛大に、華々しく、煌びやかに行われるのだが、夏の終わりに開かれる終夏祭はこれとは逆に夏を静かに送り出す、終夏祭の方は立夏祭のように人が大勢来ることはなくこの町の人しか知らないようなとてもマイナーなお祭りだ

僕はこれから夏休みの課題をするつもりだったが、やはりこういうものはどうしても抑えられない衝動にかられるものだ。僕はお祭りに行きたいという気持ちが抑えきれず、一人お祭りに行くことにした

「母さん!お祭りに行ってくる!」

居間でテレビを見ていた母親に僕は叫んで、廊下をかけてその勢いのままサンダルを履いて玄関を出た。そして少し遠くに見えるお祭りの明かりを目指して歩いた

僕のほぼ真上で大きな花火が開いて闇夜に消えていく。また開いては、消えていく

「…っと」

あまり上を見ていると道路の脇にある用水路に落ちそうで危ない

僕が住む家から大出湖までの道は安い光を放つ外灯が一定の間隔でぽつぽつとあるだけだったが、今はあまり暗さの心配はいらないようだ、それよりも用水路に落ちないように下を見て歩かねば

「懐中電灯いらなかったな」

去年も今日のようにこの道を歩いてお祭りに行ったことを思い出した、その時も確か懐中電灯を持って行ったにも関わらず使わなかったんだった

「変わってないな」

つい、独り言が心からこぼれた

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