ながれぼし
伊野論河
孤独
彼の星には光が無い。
彼はそれに気付いた時から指を鳴らし始めた。
いつしかその指には光が灯るようになり、彼の歩いた後には仄かで暖かい光の粒が残るようになった。
彼の星には彼しかいなかった。
彼はそのことを知っていた。
なので彼は暗い宇宙に広がる遠くの星をずっと眺めていた。
青い星があった。
歪な形の星があった。
燃えあがる星もあった。
彼はいくつもの星を眺めた。
ある時、キラキラと煌めく星を見つけた。
小さな光がその星にはいくつもあり、それ自体が銀河のようだった。
彼はその小さな光の一つに彼女を見つけた。
それから彼は星ではなく彼女を眺めるようになった。
彼は彼女を眺めて笑い、そして泣いた。
彼は彼女を眺めるのが好きだった。
彼女を眺めているとき、彼は彼しかいない星で、しかし孤独ではなかった。
それでも彼女の星が暗くなると、彼女は星の隙間や明るい穴に入ってしまって、彼は彼女を眺められなくなってしまう。
そんな時、彼は彼しかいない星で彼女を知らなかった時より強く孤独を感じるのだった。
ある時、彼女が泣いているのが見えた。
彼は彼女のところに行かなければと思った。
暗い宇宙を歩くのは彼にとってその上ない孤独だった。
指を鳴らして足元を照らしながら彼は歩いた。
後ろを振り向いて彼は彼の星の遠さを感じ、前を見て彼女の星への遠さも感じる時、彼はその宇宙で誰よりも孤独だった。
ある時彼は走り出した。
彼の走った後には仄かな光が連なった。
彼はとても早かった。
そして熱かった。
彼は自身が燃えていることに気づいた。
彼は彼の星で見たいくつもの燃える星を思い出していた。
星になって彼は、彼女の星めがけて一直線に飛んだ。
彼女のとても近くに来た頃、彼女は彼を見つけた。
泣いていた彼女は彼を眺めて微笑んだ。
彼は来て良かったと思った。
彼は彼女の星に落ちると燃え尽き塵になった。
そして風に吹かれながらその星を巡った。
彼女の星には、たくさんの人がいた。
彼の知らない世界だった。
そこには孤独など存在しないように思えた。
ながれぼし 伊野論河 @inolonger
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