第42話 東太平洋大海戦六 逆襲

 米軍の第二波攻撃隊が過ぎ去った後、早急に被害報告が纏められた。

 沈没『赤城』駆逐一隻

 大破『利根』

 小破『翔鶴』『榛名』

「無事である空母は、我らと『瑞鶴』だけか……」

 山口中将はそう現状を纏める。『翔鶴』は小破とはいえ、甲板に直撃を受けており、発艦は不可能である。

「はい。こう言っては何ですが、『赤城』に攻撃が集中したおかげで、空母が三隻も無傷でした。十分に打撃力はあります」

 参謀長の言葉に、しかし山口中将は首を振る。

「しかし、『赤城』と『翔鶴』が使えないとなると、攻撃力は半減だ。敵機の機数を考えると、敵空母は四隻以上だろう。苦しい戦いだ」

「いえ、もう第一次攻撃隊が帰投します。それを考えると、十分に……」

「第一次攻撃隊は迎撃に会っている。撃墜されたのは少数だが、被弾した機体もあるだろう。機数もどれだけ残っているか」

 山口中将がそう低く唸ったところで、新たな知らせが艦橋に飛び込んできた。

「偵察機より入電!敵機発見!」


「随分と近くにいたものだな……」

 敵空母との距離は二〇〇浬にも満たなかった。

 草鹿少将はそれを受け、思わずそう言った。

 現在三艦隊司令部は沈没した『赤城』から『長良』に将旗を移している。三艦隊司令部の面々は軽傷を負った物こそいたものの、重傷者や心臓が止まった物はおらず、その機能を失ってはいなかった。

「もっと早くに見つけておければ……偵察機は何をしていた!」

 源田中佐は奥歯が割れるほど歯がみをしつつ、そう声を絞り出した。

 いまや三艦隊の空母は三隻にその数を減じている。やられたのが大型空母ばかりである事を思えば、三艦隊の攻撃力は半減しているといっても良い。

 しかし、第一次偵察機が敵艦隊を見つけられなかったのにも、理由がある。彼らは航続距離や、敵艦隊に被発見されることを避けるために、雲上飛行を行っていた。しかし、敵艦隊上空には丁度雲がさしかかっており、彼らは自らの身を守ってくれるはずの雲に遮られ、米機動部隊を発見できなかったのである。

「過ぎたことをいても、仕方ない。それよりも、今残っている空母だけでも攻撃隊を発艦させるべきです!」

 草鹿少将がそう意気込む。南雲中将も大きく頷いて言った。

「よし、二航戦と『瑞鶴』に当て通信を送れ、第二次攻撃隊、発艦せよ、だ」

 まだ現地時刻は八時三〇分であり、太陽は空に昇っている最中である。攻撃を行うには格好の時であった。


 時間は少しだけ巻き戻る。

 第一次攻撃隊が今正に敵基地に襲いかかろうとしている時である。

「むっ!」

 上空にキラリと光る物が見えたかと思うと、突如それが二三の点に増える。

「あれは……」

 迎撃機か!

 彼はそう判断すると、即座にバンクを振るい、敵機発見を僚機に知らせた。

「参ったな。数が多い」

 このサンディエゴは確かに米海軍の一大基地である。だが、此所までとは思ってはいなかった。まるで、この攻撃が先に知られていたかのように……

「考えている時間は、ないな」

 敵機の群れは直ぐそこにまで迫っていた。

 彼らが操るのは、新型の零戦三二型である。多少相手の数が多かった所で、大した問題にはならないだろう。零戦隊の猛者達はそう判断した。


「くっ!」

 敵機はワイルドキャットおよびP-40が主流となっていた。しかし、それらは零戦にとっては大した相手ではなかった、はずであった。

 しかし、このサンディエゴ上空で交戦した相手は違っていた。格闘能力や搭乗員の技量は確かに勝っている。しかし、中々撃墜できなかった。

 航空機には降下制限速度というものがある。零戦は極端に重量を切り詰めた為に、これに大幅な制限がかけられていた。その為に、ワイルドキャットは零戦が後方に着いたと見るや、急降下に移り、逃れていった。零戦もそれに追いすがろうとするのだが、如何せんその能力の限界のため、易々と逃げられる羽目になってしまった。

 確かに優位に立っているはずなのに、まったく撃墜できない。それは、悪い冗談のようであったが、確かな現実であった。

「しまった!」

 おまけに連携もしっかりと取れており、深追いでもしようものなら、いつの間にか後ろに別の敵機が張り付いている。その為に、動きに制限がかかってしまい、それもまた零戦隊をじらしていた。

「だが……」

 爆撃隊はもう飛行場上空に到達していた。あとは、爆撃を行うだけである。


「どういうことだ?」

 第一次攻撃隊隊長淵田中佐は改めて眼下の飛行場を見下ろした。

 そこには本来あるはずの航空機の姿はなく、だだっ広い飛行場があるだけであった。

「ふむ……しかし、ない物はしょうが無い。攻撃機は飛行場を、爆撃機は周囲の施設を狙え!」

 やむを得ず、淵田中佐はやむを得ず、そう命令するより他になかった。


「とっとと直せ!航空機が着艦出来ないぞ!」

 帝国海軍機が飛び去った後のサンディエゴ飛行場では、早急な機能の回復が図られていた。作業はおおむね順調に進んでいたが、ブルドーザーが爆撃の直撃を受け、一部に滞りが生じていた。

 しかし、それも致命的なものでは無く、午前中には一応の機能回復を図れそうであった。

「追撃が来ないという事は、ジャップの奴らはこの飛行場が完全に破壊されたと思っているに違いない。そこを攻撃する」

 それがニミッツ大将の考えであった。

 しかし、その航空機は何処にあるのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る