第13話 OH作戦九 陸戦

 日本軍が市街地に入ってからは、米軍の攻撃は大人しいものとなった。数人以内で現れては一過性の攻撃を行い、逃走するのである。部隊には大した被害は無かったが、煩わしいことこの上無かった。しかし市街地には、市民の姿は見えないでいた。

 総指揮官の今村均大将は、必ず何処かに敵兵は潜んでいるに違いない。と確信していた。先の上陸時は機銃での攻撃已であり、組織化されていた。つまりは指揮する者がいたという事である。また、街の随所で小規模な攻撃が行われていることも、今村大将の考えを強めていた。この様な攻撃ばかり行うという事は、ある程度組織化されていなければ行えないものである。


 これは何が目的だ?

 そう思案し続けていた今村大将であったが、遂にある結論へと辿り着いた。

 今村大将はそれを確かめるべく、斥候兵を一〇人見繕い、敵陣深くへ偵察に行かせた。


「この先に米軍が集結している地点があります。中戦車と思われるものも、多数揃えられています」

 そう、報告を受けた今村大将は合点がいった顔をした。

 米軍は、ゲリラ戦術で足止めを行い、日本軍の進行が遅れらせる。その隙にオアフ島の残存兵力を集め、攻撃を行う予定であろう。

 それが分かったからといって、対処法は限られている。


 今村大将は咄嗟に三つの案を考え出した。


 一、全部隊で攻勢をかける。今なら米軍の戦力は揃っていない筈である。ゲリラ部隊は相手にせず、全速力で進めば、或いは揃いきる前に攻撃を仕掛けることが出来る。しかし、この案は敵の主力軍と直接矛を交えることとなるので、部隊の損害が多くなり過ぎる。


 二、部隊の中から射撃の上手い者を幾人か選び、狙撃を行い敵を撹乱する。これは一見魅力的な案であるが、問題点も孕んでいる。米軍側に気付かれないように兵を動かす必要があり、必然的に狙撃における米兵の被害も多くは望めなくなる。


 三、海軍に依頼し、艦砲射撃を行わせる。これは一般市民にも被害が出る可能性がある。それが無くとも、親しみのある街を壊された住民感情を考えると、占領後に悪影響を及ぼしかない。そして何より陸軍側の面子の問題がある。海軍が依頼を素直に聞いてくれるとも限らない。


「それはそれで構わないのではないかと。仮に一般人が死亡しても、海軍が行ったことですから」

 今村大将は、戦力温存の観点から、三番が最もマシだと思ったが、参謀の総意はそんなものである。今村大将を信じているといえば聞こえが良いが、言い方を変えれば他人事なのだ。無闇に断ってくるよりは良いが、今村大将としても、何かしら意見を言って貰った方が好ましくはある。


「ふん、陸軍め早速泣きついて来たか」

 豊田中将はそう毒突きながらも、即座に命令を下した。

「六戦隊に砲撃を行わせる。観測機を飛ばさせよ」

 連合艦隊からは、陸軍側から要請があった場合には可能な限り答えよ、との命令が来ている。豊田中将としても砲撃を行わないわけにはいかなかった。


「砲撃開始せよ」

 第六戦隊司令官後藤存知少将は、そう告げた。それは、オアフ島の米兵へのトドメの一撃が開始される言葉であった。


 この時、最新式のM3中戦車は欧州へ優先的に配備されていた。しかし、ハワイにも十分な数が揃っていた。

 だがそれも、空爆や艦砲射撃によって、数を減らしていた。

 そこに第六戦隊の砲撃である。

 重巡の主砲口径は八吋ある。それに対して、M3中戦車の装甲は最も厚い部位で五一粍である。耐えられる道理は無い。また、直撃せずとも、至近弾になったものは、履帯が外れたり横転したりしていた。

 また、人的にも多大な被害をくらっていた。


 そこに日本軍が雪崩れ込んで来た。米軍はなすすべもなく、敗れ去り、これでハワイ陸戦の大勢は決まった。

 結果として、米陸軍の損害の半分は日本海軍によるものとなった。


 その後、ハワイは二週間の戦闘の後に日本軍の手に落ちたのであった。

 ハズバルト・E・キンメル大将を始めとした米陸海軍の主要人物は捕虜となった。



 ハワイ陥落。この報告を受け、ルーズベルト大統領は目眩を起こしそうになった。彼の顔は敗北者のそれであった。

 ルーズベルト大統領は思う。二週間前までは良かった。

 そう、二週間前までは思い通りだったのだ。欧州での戦役に介入する為に、独伊と三カ国同盟を結んだ日本を狙う。外交的に、貿易的に締め上げ、向こうからの開戦を手招く。

 ハワイに攻撃を仕掛けたというのは意外であったが、幸いにもコロラド級の次級戦艦も就役している。その次級戦艦も建造は進んでいる。その日は久し振りに心底からホッとしたものである。ぐっすり眠ることも出来た。

 そこからの四八時間のメディア・キャンペーンも上手くいった。『レキシントン』の沈没、『エンタープライズ』の敗退も大した損害にはならなかった。上手く国民の怒りを煽る方向に持っていった。

 しかし、ハワイ占領はダメだ。正式な州では無いが、準州である。国民も自分達の土地であるとの心情が大きい。元々は米軍が侵略した土地なのだが、国民もそんな事はスッカリ忘れていた。それにそれを言うなら、合衆国United Staitsそのものが侵略によって先住民から奪い取った土地である。ルーズベルトは恐れていた。国民の意思が再び反戦に傾くのではないかと。

「あの醜いションベン猿が余計な事をしてくれたものだ」

 ルーズベルトは忌々しく吐き捨てた。

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