第12話 OH作戦八 上陸

 昭和一六年一二月一一日。

 赤い空の下、ハワイ南西に、戦艦二隻、空母二隻、重巡四隻、軽巡二隻、駆逐艦二四隻の艦隊が、オアフ島に向かって進んでいた。

 豊田中将率いる第一艦隊である。現在は第六戦隊もこの艦隊に含まれており、上記の隻数と成っている。

 オアフ島に行くまでにはジョンストン島が障害ではあったが、既に機動部隊により潰されている。

「いよいよか」

 豊田中将は『長門』艦橋にて、そう一言呟いた。彼の目は、未だ見えぬオアフ島を捉えていた。


 上陸地点は、ワイキキビーチに決定していた。また、付近にある要塞は、機動部隊の攻撃によって、これまた破壊されている。敵艦隊も既に撃退されている。豊田中将率いる第一艦隊の邪魔をするようなものは、ここには無かった。

「偵察によると、浜に面した西洋旅館hotel等建物の前には有刺鉄線が引かれ、容易に侵入出来そうに無い、という事です」

「急ごしらえの防御策か。三日もあればそれぐらいはしてくるだろうな。予定通り砲撃を行う」

 豊田中将がそう決定すると、艦隊は陣形を整えに入った。



 その時、米軍では上陸してくるであろう日本軍を今か今かと待ち構えていた。

 ワイキキビーチに上陸してくる敵を、側面から攻撃出来るルーシー要塞は、完全に破壊されたわけでは無く、米軍は必死に復旧作業を行っていた。と言っても、塹壕を新たにほり、機関銃と銃座を新たに設置しているだけである。しかし、これは要塞が無力化されているものと信じているであろう、日本軍に対して奇襲攻撃になる筈であり、十分な損害を与えると予想されている。

 ワイキキビーチに面する西洋旅館にも、機銃が設置される。これも日本軍の上陸を迎えうつ役割を担っている。

 おまけに市街地の奥には戦車隊も控えており、米軍は機銃で漸減された日本軍をこれで殲滅する心算であった。


 夕闇も濃くなり、夜に差し掛かろうかという時、陣地に突如轟音がしたかと思うと、巨大な穴が穿たれ、土煙が立つ。日本軍艦の砲撃であった。

 偵察機によって、要塞が未だ生き絶えていなかったことは既に日本軍の知る所となっていた。

 着弾した周囲の土嚢や塹壕は吹き飛ばさる。米軍の中にも被害は出ていた。即死するのはまだ良い方で、行き埋めになる者、手や足がちぎれる者、重度の火傷を負う者など生きながらにして地獄の苦しみを味わう者もいた。しかし、彼らを救う余裕は無い。次の弾丸がその直後に炸裂したからである。米兵達はうずくまり、この暴虐の嵐が過ぎ去るのをじっと待つ他に何も出来ないでいた。


 同様の光景はワイキキビーチでも見られた。砂浜には地雷でも埋め込まれていたのか、砲弾の炸裂とは別に爆発が見える。

 重巡の放つ二〇糎砲弾が多数命中した西洋旅館は無残にも崩れ落ちる。崩壊に巻き込まれた兵士達の叫び声は隣の西洋旅館にいた兵士の耳にも聞こえる。彼らは、それがほんの少し先の未来の自分の姿では無いかと、あらぬ想像さえ抱いた。

 ホテル街の銃座に配置された兵士達の心境も、ルーシー要塞に配置された者達と同じであった。自分のいる場所に当たらないでほしい。唯それだけをGODに祈っていた。


 漸く砲撃の雨が止んだ時は現地時刻の三時であった。生き残った者は安堵のため息を吐くと共に、愈々日本軍の上陸があるぞ。と気を新たにした。



 一二月一二日の未明。陸兵を運ぶ輸送船の上に、「上陸開始」を告げる軍用喇叭の音が響き渡った。彼らは上陸用舟艇の大発動艇に乗り込んだ。これは八節を出すことが出来、七〇人が乗り込める艇である。浜に直接乗り上げられる代物である為に上陸作戦には必須である。この中には九七式中戦車『チハ』の搭載も可能な特大発の姿もあった。


 大発が砂浜に乗り上げ、兵士達が上陸を開始すると、それを待っていたかのように、銃弾が砲煙弾雨、降り注ぐ。それは目の前の真っ黒になった西洋旅館からのものであった。

 大発の前方に据え付けられた二五粍機関銃で応戦するが、米軍の銃撃は猛烈であった。

 上陸した兵は何とか遮蔽物の陰に行こうと、懸命に足を前に動かすが、砂に足を取られて、思うようには進めない。銃弾の雨による洗礼には、多くの者が倒れ伏した。

 ある者は、心臓を撃ち抜かれて、倒れ伏した。ある者は、足を撃たれ、転倒した所を後続する兵に踏まれた。ある者は、弾丸が鉄兜helmetに命中し、その衝撃で首の骨が折れた。


 先程まで「いよいよだな」なんて言い合っていた戦友の亡骸を踏みつけて前に進む。そうしないと、自分も彼らと同じ運命になる。時折、未だ死に切れない者がいるらしく、呻き声が上がる。銃を持っている為、耳を塞ぐことも出来ず、苦肉の策とばかりに雄叫び声を上げながら走った。


 安全地帯に辿り着いた部隊が、重機関銃を組み立て、銃撃を初めてからは、日本軍側が優勢となってきた。米軍の銃座は一つ、又一つと沈黙していった。

 日本軍の優位は砲兵が、九二式一〇糎加農を組み立ててから確実となった。

 加農の威力は凄まじく、砲撃が直撃した階層は陥落し、そこにいた米兵は即死していった。程なくして、米軍の機銃は完全に沈黙した。

 日本軍は夜明けには完全に上陸していた。

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