第10話 OH作戦六 海戦三
淵田中佐率いる第一波攻撃隊の第一部隊は、三時一〇分にオアフ島上空に到達していた。
昨日の攻撃が効いているのか、対空砲火は疎らにしか上がって来ず、それも零戦の地上掃射によって沈黙していった。
要塞は非常に厚い
しかし、砲身の出ている正面からは十全に破壊出来る。
淵田中佐自身はバレット要塞に向かっていた。ウェーバー要塞と同じく四〇糎砲を持つ要塞である。
「てっ!」
その声と共に、八〇〇瓦爆弾が機体からはなれた。それは要塞砲の中に飛び込んでいった。と、同時に爆発音が響き、砲の中から焔が吹き出る。その後も誘爆したのか、爆発音は連続していった。
帰投しようとした淵田中佐であったが、その時新たな電文が入ってきた。
「被弾シタ者、燃料ノ無イ者ヲ除キ帰投ハ半刻ホド待タレタシ。何だこれは?」
淵田中佐は首を捻りながらも、それに従った。命令だからである。
その頃機動部隊はTF16の攻撃を受ける前であった。そして、『レキシントン』に向けて攻撃隊を放ってから、半時間程経った時のことであった。
草鹿少将が慌てた顔で叫んだ。
「大変です。このままでは、第一波攻撃隊と、第二波攻撃隊の帰投時間が、重なってしまいます」
樋端少佐はそれを聞き、答えた。
「でしたら、第一波攻撃隊に帰投を待つように電文を送りましょう。半時間程度でしたら、航続距離から考えてもなんとか持ちます。しかし、海上でしたら機位を見失う心配が有ります」
南雲中将は樋端少佐の言葉に同意し、先の電文を出したのであった。
「浦島太郎にでもなった気分だな」
四時〇二分、機動部隊に帰投した淵田中佐は、思わずそう呟いてしまった。彼の眼下には、俄かには信じられないような光景が広がっていたのだ。
六隻の空母の内三隻から黒煙が吹き出していた。その内の一隻からは、特にもうもうと出ており、助かるかどうかも定かではないようであった。
「『加賀』が爆弾を三発受け中破、『翔鶴』は爆弾一発受け小破、『瑞鶴』も同様に一発受け小破しました。
「『翔鶴』『瑞鶴』からは三〇分程で発着が可能になるとの報告が来ましたが、『加賀』は音信不通となっています」
南雲中将はその報告を聞き、深く目を瞑った。
「すぐに第一波攻撃隊が戻ってきます。使えるのは『赤城』『蒼龍』『飛龍』ですから、これらに振り分けなければなりません」
草鹿少将の言葉に源田中佐が続く。
「はい。それに敵空母への攻撃隊の準備も行わなければなりません」
「それは五航戦だけで行っても良いと思います。『赤城』『蒼龍』『飛龍』は第一波攻撃隊の回収に尽力し、『翔鶴』『瑞鶴』は復旧作業と並行して第三波攻撃隊の準備を行ってもらいます」
樋端少佐がそう言うと、源田中佐は頭を振りながら発言した。
「しかし、それで大丈夫なのか。敵空母を仕留められないのでは」
「いえ、当然『赤城』『蒼龍』『飛龍』にも攻撃の準備はしてもらいます。が、六隻分の航空機を三隻で回収するのですから、通常より時間がかかります。よって、攻撃隊の発艦準備が整うのは五航戦のそれより遅くなることが予想されます。そこで先ずは五航戦の攻撃隊で先制攻撃を与えます。その他の空母は準備がそれまでに整えば第三波攻撃隊に加えますが、間に合わなければ第四波攻撃隊にします」
機動部隊司令部の全員が、樋端少佐の言葉に声も発さず聞き入っていた。そして、草鹿少将の同意と共にこの案は了承された。
水偵より敵空母発見の報告が来たのはそれより四五分後のことであった。
樋端少佐の予想通り、『赤城』『蒼龍』『飛龍』の攻撃隊の準備は整っていなかった。更に、敵空母は一隻であるとの報告であった為に、『翔鶴』『瑞鶴』の二隻から攻撃隊が発艦することとなった。
第三波攻撃隊
艦戦二七機
艦爆一八機
艦攻九機
これらの機体が『翔鶴』『瑞鶴』より発進した。
「来たか」
敵機発見の報告が来た時、ハルゼー中将はそれだけを言った。この空襲への対処は艦長らに任せるしかなく、自分の役目はそれを切り抜けてからだ。彼はそう考えていた。
先程の攻撃で戻って来た機体は艦戦二機と艦爆六機已であり、『エンタープライズ』が現在保有している機体は僅か艦戦八機に艦爆六機になってしまった。
『エンタープライズ』はその内、艦戦の全てを直掩隊に上げていた。
「敵の数は四〇以上か。行くぞ!」
クラレンス大尉はそれだけを言うと、操縦桿を倒し、敵機の編隊へ突っ込んで言った。恐らく攻撃の機会は一度だけである。米軍側は明らかに劣勢であり、一旦空戦になれば瞬く間に撃墜されることは目に見えていた。
グングンと敵編隊が大きくなる。クラレンス大尉はその内の艦爆一機を標的に決めた。周りに多数の機銃が流れるが、クラレンス大尉は構わずに降下を続ける。
艦爆が照準器いっぱいに溢れた時、クラレンス大尉は機銃を撃った。放たれた弾丸は、艦爆の翼に当たり、それをもぎ取る。
敵編隊の下に抜けたクラレンス大尉は、上昇しようとした。しかし、機体は反応しなかった。見ると、自分の右翼も取れているではないか。
クラレンス大尉機は、錐揉み状態になりながら、海面へと墜ちていった。
「何とか被害は抑えられたか」
一〇機あまりの敵戦闘機が襲って来たが、撃墜された自軍の機体は艦爆二機に艦攻一機にすんだ。
そのことに兼子大尉は胸を撫で下ろしていた。
眼下の敵艦隊は空母を中心とした輪形陣を敷いていた。外郭の中には数隻の巡洋艦もあり、一際多くの対空砲火を放っていた。
敵戦闘機の姿は既になく、兼子大尉らの仕事は終わっていた。後は艦爆隊と艦攻隊の仕事である。
「後は任せたぞ」
兼子大尉は、彼らに向けてそう呟いた。
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