Last NAME 閃光の英雄と闇の奏者 第十三章

精霊玉

未来への布石と未来の黒白の一族たち

凛珠は不意に昔を思い出した。

「紅藍と、天珠はそのあと黒白の一族の初代長になったな。……俺たちがなったころよりも増えていたから」

紅藍と天珠は生まれつきの黒白の一族だった。あのころはそういったものたちがどんどん増えていったころだった。そう、そして黒白の一族は本拠地となる世界を創造主から授けられ、基本そこで生活することとなった。(凛珠の蒼天華一族から二つに分かれた天吹一族と蒼神一族は別として)

そして、天吹と蒼神が黒白の一族であるということは秘されたまま長い歳月が流れた。そう、あの二人が生まれるまでは。

「紅藍の後の確か……1767代目だったか。破洸の子供として凛樹と凛伽が生まれたのは……」

たのにさらに『魂』の力さえ強大で。あの二人はそのことで悩んでいた。いまもまだ。……ただ、その力は持っている本人たちだけではなく、彼らにかかわりのあったものたちすら巻き込むこととなった。


その後彼らは神風抄国界消滅のその瞬間に立ち会った。

どんな気持がしたのだろうか?自らの生まれた世界が消滅することを見たということに。凛珠はそのときはいなかったけれども、彼らの味わった思いは、想像してなお有り余る。

凛珠にとってはかつて自分が救った世界が消えたのだから。

黒白の一族の総本山、天陽城より見て北西の方角にある創造主を祀る天地宮。そこの広間に三人の人影があった。

「……あの方がああいってたのかよ。それ、ほんとうなんだな、夢?」

紅藍が向かいに座る妹の夢に尋ねた。

「はい。あの方はこうもおっしゃられていました。近いうちに修一は姿を現すと」

その言葉に紅藍は隣に座る兄をちらりと見た。兄は目を閉じ、胡坐をかいて板張りの床に直接座っている。

「あの方がそうおっしゃったのならばそうなのだろう。……具体的に『誰』が見つけるのかということはおっしゃっていたか?」

天珠の言葉に夢は首を振った。

「いいえ……。とくには何も……」

「そうか」

天珠は素っ気なく返した。そもそも今の黒白の一族ではごくごくわずかなものたちを除いて黒白の一族の主たる『創造主』の姿を見ることもできず、また声も聞くことすらもできない。……それは、仕方がないことなのだ。今の黒白の一族のほとんどは『神』にすらあったこともないのだから。

「……予想だが、あのイレギュラー達のうちの誰かが見つけることになるだろう。あのふらふら問題児集団が今の黒白の一族の中で一番世界をめぐっているからな」

天珠は半分呆れ、半分諦めが混じった声音で言った。

今の黒白の一族内のイレギュラーと呼ばれる者達は癖者ぞろいで、おまけにここ、黒白の一族の本拠に寄り付きもしないでどこか別の世界をふらふら回っている。そのせいか、いち早く異変を察知するのだが。

「ははは……確かにあいつら、本当にふらふらしてるもんな。でも、見つけるとしたら……一番可能性が高いのは、あいつら、か」

紅藍が言った。修一を見つけられるほどの力の持ち主など、そうそういなくなった。昔はもっと大勢いたのだが、度重なる戦いでそのほとんどが死んだ。

「……私たちがここを離れられない以上、彼らが見つけると思います。お兄様方、この考えに異存はありますか?」

夢の問いに二人は首を振った。二人もそう思っているからだ。彼ら三人がここから離れることができない以上。

彼ら三人がここを離れることができないのはとある事情からである。今現在、黒白の一族に『長』がいないため(正確に言うならば『長』二人が死んで後任がいないため)紅藍と天珠がその役目を担っているからである。そもそもあの12人には『長』の役目をすることができない特殊な事情がある。それが関係しているのかどうかはわからないが、あの12人はめったに帰ってこなくなった。(というよりも本人たちがここを毛嫌いしているせいもあるかもしれないが)

「まあ、あいつらのことだ。多分何かに巻き込まれてそれで陛下の探し人を見つけるとは思うけどね。それじゃ、俺たち行くけどさ―」

そういうと紅藍は立って固まった体をほぐした。

「はい、わかりました」

夢がそういうと紅藍と天珠は広間を出て言った。



「……『創造主』か、いったい何を考えているのやら」

千尋は忌々しげに言った。先ほどの紅藍たち三兄妹の会話を聞いていたのだ。

千尋にとって、『創造主』は憎い相手でしかない。あれはたしかに千尋の願望をかなえたが、それ以上にとんでもないことをした。



それは、凛珠や修一、千尋の存在……強大な『血統』の力を持ち、さらに強大な『魂』の力を兼ね備えたものを再び生み出そうとして光と闇の創造神が創り上げた13の魂を解き放つのを許してしまったこと。おかげでとんでもないことが次から次へと出てきて、こちらとしては多大なる被害をこうむった。しかも(こう言い方でいいのだろうか?)本人にはその自覚が全くない。挙句の果てにはトラブルが起きることを事前に知らせてパニックに陥らせるということまでしてくるようになった。(これに関しては対処法が確立)

「本当に自分勝手だな―。私だったら、そんなことなんぞ、一切したいとは思わんが」

千尋が不機嫌そうな様子で言った。

「それにしても……本当に愛紀那の『先見』でみた通りの未来になっているな。確か、この先選択次第では最悪なことになるな」

 千尋がぼそりと言った。愛紀那は当時としてはかなり珍しい『先見』の異能を持っていた。その異能を使い、物事を事前に察知することでそれがとんでもないことになるのを防いでいた。


 そして彼女が最後に『視』た光景が、『現在(いま)』なのだ。


彼女はこう言っていた。

『多分、陛下は選択を迫られることになるでしょう。とてつもなくつらい選択を。でも、しなければあの方の望みは果たせず、セカイはすべて闇へと堕ちる』


『あの方の子孫と、……具体的にはわかりませんが、強大な力を持つものたちが陛下の重荷をおろしてくれるでしょうね。彼らは自分の意志を貫くと思うわ。たとえあなたたちが何を行ったとしても』


愛紀那はそう言っていた。そして、こうも言っていた。


『いつか、本当にいつかになるとは思うけれど、あなたたちは黒白の一族から解放される日が来ると思う。でも、そこへ至るには二つの道があるわ。すべての望みをかなえられる道と、すべてを捨て去ることになってしまう道とが』



その言葉の本当の意味はあの時より遥かなる未来で、凛珠たちは知ることとなる。


  未来で、凛珠がになっている役目を、代わりに引き受けるものが現れるかで、凛珠の選ぶべき道が決まる。



あの日より遥かなる未来で『コスモス』の血を受け継ぎし者と、『カオス』の血を受け継ぎし者は再び相まみえる。


 

残暑厳しい秋のとある日

イリュージョン・タロットワークは冷めた目で丘の上から人間たちの争いの様子を見ていた。はじめて外に兄たちに連れられて見たあの光景とちっとも変らない。

「人間はいつまでも争い続ける、か。凛姉の言葉は正しいな」

イリュージョンはぼそりとつぶやいた。自分は黒白の一族の中では若い方だが、人間の性質には辟易していた。いつまでも争い続け、己が世界を破壊する人間には呆れていた。……そう、自分の妹も『破壊』の力を持っていたが。彼女はもういない。

そのとき後ろでサクッと草を踏む音がした。

「イル、璃音たちが捜していたけど。あのバカ弟はどこに行ったとかね」

イルがその声に振り向くとそこにはアルヴィン・Jクリップがいた。黒白の一族の中でもひときわすぐれた炎使いである彼は、常に任務で世界中を飛び回っているため滅多に会うことはない。

「なんだ、アルヴィンか。で?凛姉たちは何のようで俺を捜しているんだ?」

その言葉にアルヴィンが言った。

「話があるとかいってましたよ。ところであなた、ここで何をしているんですか?」

アルヴィンのその言葉にイルは言う。

「人間の好戦的な性質について考察してる」

「はあ?」

アルヴィンが呆れたように言った。

「そんな無駄なことするくらいなら、とっとと行ったほうがいいと思うけど。怒らせると怖いじゃん、あの人たち」

アルヴィンの言葉のあの人たちとは、例の11人たちである。黒白の一族の中でも最強クラスの能力の持ち主である彼らは怒らせると何をしでかすかわからないという厄介な性質を持っていた。

「まあ、そう言われたらそうだけど。……今度はあの人たちどこを根城にしてるんだ?」

「えーと、確か今は……どっかの古城を根城にしてたな。場所は知らないけど」

その言葉にイルは眉を挙げた。

「古城?て……また?」

どうやらまた彼らはどこかの打ち捨てられた古城を見つけ、住みやすくしてそこを根城にしたらしい。彼らは黒白の一族の城は嫌いだが、打ち捨てられた城とかは好きらしい。(あるとき本人たちはそうほのめかしていた)

「そうらしいよ。まあ場所は白夜か、苑春が知っているらしいから訊いてみれば?」

「ああ、そうする。……なあ、アルヴィン」

不意にイルが問いかけた。

「お前は、人間とかについてどう思う?」

その言葉にアルヴィンは考え込んだ。どうといわれても返答に困る。

「問いが漠然としすぎていると思うけどね。……性懲りもなく争い続ける人間にはほとほとあきれる。……オレたちの存在を時の彼方に置き去りにして、オレたちが苦心して維持している世界を平気な顔をして破壊する。人間って嫌いだな」

アルヴィンは言う。

「……俺もだな。いつまでも何故争うことをやめない。どうして自らの利益ばかり考えてセカイを破壊するのかが理解できない」

イルのその言葉には黒白の一族の大半の者たちの思いが入っていた。何故?どうして争うことをやめない?彼らには人というものが理解できない。自分たちが人ではない分なおさらかもしれないが。

「もう、その話はやめにしましょう。オレ、この後、任務入っているし。それじゃ、もういくから」

そう言ってアルヴィンはコートを翻して去っていこうとした。

「ちょっと待て!!」

イルが不意に声を挙げた。それに対してアルヴィンは機嫌が悪そうに振り返る、

「まだ、何かある?」

声にも不機嫌が出ている。イルはそれに対して少しビビったが、意を決して言った。

「おまえは、陛下の秘密云々に対してどう思う?」

その問いにアルヴィンはこう言った。

「気にくわないね」

そして彼は任務へ向かうべく姿を消した。




 とある世界の古城にて。そこには六人の男女がいた。てんでバラバラにお茶を飲んでいたり、チェスで対戦していたり、ソファで昼寝をしていたり、本を読んでいたり。

「イルのやつ、遅ーい!!」

そのうちの一人が大きな窓を開け、身を乗り出して外に向かって叫んだ。

「叫んでくるのなら、誰も苦労はしないと思いますが」

ノクト・ヴィルセルトが言った。

「む―……なんでノクトは正論しか言わないわけ?信っじられない!!」

文句を言った彼女は天吹 凛伽。天吹 凛樹の妹で、蒼神璃音の姉に当たる人物だ。

「信じられなくても結構です。それよりもアルヴィンが今言いに行ったばかりですよ?そんな早く来るほうがおかしいと思いますが」

ノクトの言葉に凛伽は黙りこくった。

「ノクト、いじめ過ぎ」

チェスをしていた片方の女性、蒼神 璃音が言った。彼女は少し癖のある青銀色の長い髪に、青空の色をした瞳の外見である。そして、彼女は今の蒼神家の当主である。

「正論だからこそ何も言えなくなると思うがな」

もう片方の人物、天吹家当主、天吹 凛樹が言った。うなじでくくった白銀の長い癖のない髪に、銀を散らした藍色の瞳。

「同感ですね。ノクト、あなたの正論攻め癖はどうかと思いますよ」

カップを置き、桜花 亮は言った。金髪に黄緑の瞳をした青年。当代随一の実力を持つ神術師。

「……亮まで、ひどいですね。ですが、この人はここまで言わないと身にしみませんからね。これぐらいがちょうどよいと思いますよ」

三人の言葉にもどこ吹く風といった様子でノクトは言った。

「だとしたとしても、言いすぎだとは思うけどな。お前、ついつい言い方きつくなるだろうが」

昼寝をしていた、銀髪に銀の目、青い中国風の格好をした青年は言った。蒼刻 真。時間と空間を自在に操れる青年。

「……さすがに四人の言葉は受け入れざるをえませんね。一応謝っておきますよ、凛伽」

そう言ってノクトは頭を下げた。

「まあいいけどさ―。……それにしても最近やけに小競り合いが多いよねー。アタシたちが出るほどでもないのがさ」

凛伽の言葉にノクトも言う。

「確かに。……それに僕らが出て行こうとすると相手はひいてしまいますからね……」

その言葉に亮は言う。

「まるで……僕たちに彼らの正体を知られることを恐れているかのような」

「言われてみればそうかもね。で、凛樹と璃音はどう思う?」

凛伽は黒白の一族の軍事と内政を一手に握る二人に尋ねたが、二人はそろって微妙な表情をした。

「私としては多分そうだと思う。だってその相手、うちと天吹一族の『千里眼』じゃ視えないもの」

「視えない――――!?」

璃音の言葉に凛伽は驚いた。天吹と蒼神一族の『千里眼』は黒白の一族内で最高レベルの異能だ。それに視えないものなどないはずなのに。ちなみに凛伽は持っていないが

「私も、兄様も視えない。……これは妙だと思ったからあのもと軍師に訊いたら、こちらの『千里眼』を妨害する術がかけられているんだろうっておっしゃっていたね」

「はあ?なんだそれ?そんな術があるのか?」

真がソファから起き上がって尋ねた。

「あるらしいな。俺も聞いた時は耳を疑ったが、どうやら実在しているらしい。ただしかなり特殊な術で使い手が限られるらしい。……その使い手について訊いたらだんまりだ」

「だんまり?なんか訊かれたら不都合ってこと?」

凛樹の言葉に凛伽はいった。

「おそらくはな。……あの方々の秘密主義は今に始まったことではないが、こういう時に困るからちゃんと説明してほしいよな」

その言葉に五人は頷く。

「こういう時に困る云々よりもあの方々の秘密主義にはもううんざりしますね。いい加減にしてほしいです」

ノクトが心底うんざりした顔で言った。

「確かにそうね。……あら、イルがきたみたいね」

璃音のその言葉に五人が窓を見ると、そこにはイルが立っていた。

「いきなり呼び出して何?」

イルは単刀直入に尋ねた。それに対して凛伽がむっとした様子で言う。

「ちょっと、遅れてきたくせにそう言い方ってないでしょ?」

その言葉にイルは言った。

「いきなり呼び出したのはそっちじゃないか。こっちはあんたたちの居場所知らないから苑春に訊きに行く羽目になったんですけど」

アルヴィンと別れた後、この六人の居場所を知る苑春を探すのにも時間がかかったのだ。居場所を知らせることのないこの六人に文句を言いたくなるのももっともだろう。イルの表情からそれを読みとった璃音は謝った。

「それは悪かったね、イル。さてと、今回君を呼び出したのはちょっと行ってほしいところがあるからなんだよね」

「……行ってほしいところ?」

璃音の言葉にイルは胡乱気に尋ねた。彼女がこんなことを言うのはめったにあることではない。

「そう。ちょっと気になるところが多すぎてね。……イル、キミにはヴァイハ―ルに行ってもらうよ」

その言葉にイルの眉がピクリと動いた。

「ヴァイハ―ル?あそこで何か起きてるってことか?」

その言葉に璃音は頷いた。

「そういうことになるな。……俺たちだけじゃ正直手が回らんし、かといって苑春たちだとやばすぎる。というわけで、お前に白羽の矢が立ったわけだ」

凛樹が言った。その言葉にイルは直感的にかなりヤバいことが起きていることを悟った。苑春たちだとやばすぎるということはとんでもない術者が現れたということ。

「俺ぐらいのレベルじゃないとやばいってことか?」

イルは念のため尋ねた。さすがにこれは自己判断だけでは危険だ。

「そういうことだな。では、すぐに行ってもらいたいのだが」

凛樹の言葉にイルは頷くと姿を消した。

「で?アタシたちはこれからどうするわけ?」

凛伽の言葉に璃音は少し考え込んでから言った。

「そうね……。前の打ち合わせた通りにするか。じゃあ、行こうか」

その言葉に五人は頷くとすっと姿を消した。



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