第16話『妖術』
「ぐ、クソ……外にはアリシアが居るかもしれん! 一般人も巻き込ませる訳にはいかない! 回転の技術というのか、なんとかして倒してやる!」
レイジは立ち上がりソニアを慌てて追いかける。
「よし! 刺客はしっかり送り込んだぜ、あとはみんな任せた!」
パドラルはエネミーを召喚しつくしたのち扉を閉じ、その裏に隠れた。
これがパドラルの戦法というか防御法、強大なバトルに巻き込まれてしまったら元も子もないので、頑丈な扉、オーパーツタイプXの裏に隠れるのだ。
シンプルながら安全な戦法である。
一方ノドカとウツリ達、アナザーソニアが乱暴に撃ち出した弾丸の数々にパニクって、各自慌てふためいてしまった。
この狭い場所に居ては銃弾もまともによけれやしない、窓から全員が脱出し、外に出た。
するとその騒動の末、戦いの構成が微妙に変化。
「しまったウツリとはぐれてしまった……! しかし合流することは、叶わないらしいな」
ノドカの目の前に立つのは、頭部の装飾におふだをひらひらとたなびかせ、大鎌を構え殺意の表情でノドカを睨みつけるアナザーウツリ。
「私は誇り高き妖怪、ウツリ……! 私が扱うのは妖術……私がもつ4種類の妖術で殺してやるよノドカ、の偽物」
一方で対峙するはウツリとアナザーノドカ。
「あいったた……わ、ノドカが居ない!」
「俺ならここだウツリ、大丈夫か、しっかりしろ、ほらどうした、今なら俺を殺せるかもしれないぞ?」
アナザーノドカはウツリに寄ってきて、手を広げニヤリとしている。
「うおっ、きも! お前偽物のノドカだろ! 私のノドカはそんなヘラヘラしてないぞ! インテリだ、インテリでな、クールなんだ! 偽物どっかいけ!」
ウツリは鎌の刃を伸ばし、アナザーノドカに攻撃する。
アナザーノドカはハッとして、すかさずかわし、余裕のセリフを吐いていた。
「ほらあどうした当たらないぞ?」
「いやお前、足すくんでるよ……怖がりなのか?」
「うるせーやい!」
こいつはやはりノドカじゃない、どこかの馬鹿がノドカのかわを被っただけなんや……ウツリはそう思った。
戦況はいま。
レイジ対アナザーソニア。
ノドカ対アナザーウツリ。
ウツリ対アナザーノドカ。
世界線を超えたバトルが今始まる!
ここで、パドラルの能力の説明を簡単にさせていただこう。
パドラルが行き来できる世界の数は無限にあるわけではない、たったのふたつっきりである。
今オーパーツ使いたちと、五組の冒険者が因縁を繰り広げてる、基本世界。
そんな戦いなどは起きていない、別世界。
別世界にオーパーツは無く、オーパーツは基本世界にのみ存在する。
そして、どちらの世界にも共通してる事として"死んだ人間は生き返る事はない"
パドラルが別世界から助っ人として呼び出した人物が基本世界で命を落としたとき、もうその人物は存在しないので二度と助っ人として呼び出すことはできない。
「妖術……? 始めて聞く言葉だ、お前が持つ能力のなまえか?」
さて一方、ノドカ対アナザーウツリ。
前回彼女が発した言葉、妖怪、妖術、なんとも和風で霊風なその発言、初めて聞くことこの上なし。
「ふん、これから死ぬ愚者に何かを話すのはどうも気が引けるね。あと、そのお前って呼ぶのやめろ、私には名前がある、ウツリという高貴な名前がね」
「名前で呼ばないと不機嫌になるところはこっちのウツリに似ているかな(そんな乱暴な口調ではないがね)似ている……俺のウツリは金属を生成し形作る能力をもつ、手に持つ大鎌は刃を伸ばし攻撃することができる。であれば、その鎌の刃は」
「まず一つ目の妖術! 神妙刃!」
ノドカの読みはこうだった、性格的な特徴がやや似ているのを見るに。
その能力も基本世界のウツリと一緒である、と。
何より持ってる武器が同じだ、ノドカの読みは当たった。
アナザーウツリの鎌の刃がノドカを狙って伸びてきたのだ!
「やはり来たか! 俺にも能力はある、ので、使わせてもらう!」
ノドカは並外れたジャンプ力で神妙刃をかわす。
そしてそのままウツリへと距離をつめる。
このまま飛び蹴りをお見舞いするつもりだ!
「姿がウツリであろうと、敵意を向けるというのなら、容赦せん!」
「ハァー! やるね! でもその程度のジャンプ! こっちのノドカもできるんだよ。第二の妖術……追尾忍び足だ!」
アナザーウツリは額と肩のフダを剥がし、そのまま手から離す! するとフダは意思を持ったようにノドカの方向へと一直線に飛んで行く。
「む、誘導能力か? しかしただの紙になんのちからが……」
ただの紙、そう油断したノドカにフダが張り付く、瞬間。
爆発! フダは爆発したのだ、ノドカはその威力で吹き飛ばされ、地面に落ちる。
「が……これは、爆弾の役割か……! ウツリの能力とは違う、ただ一つの技の性質が似ているに過ぎないのか……!」
「そうそう、爆弾、みさいるっていうんだっけ? 爆発して飛ぶやつ。私のオフダには呪文が書いてあんのさ、言霊って知ってるか? ただの言葉や文字にも、力が宿るってやつ。このフダには追尾、爆発、そして再生の呪文が文字によって永久に働きかけてるのさ」
再生、その言葉通り爆散したはずのフダは全て再生しアナザーウツリの額と肩に戻ってきた。
玉切れの無い飛び道具、これだけでも厄介なのに威力も申し分無いのが憎いところだ。
「で、"同じ場所に"うずくまってていいのかー!? 三番目の妖術いくぞ! そう、ふるこーすってやつだ! 影送り!」
「影送り……影、だと!?」
その妖術の名にハッとしたノドカ、影だというなら、攻撃は下、地面からか!
爆発で傷付いた体を自力で起こして跳躍で逃げたいところだが、既にアナザーウツリは妖術を発動する、うごきをしている!
手で体を起こして、足で……では間に合わんのだ、さて次にノドカが取る行動はッ!
「手を使って大きくジャンプする!」
なんと手を使って大きくジャンプした!(そのまんまだが) 真上に。
その瞬間! ノドカがうずくまっていた地面、ノドカの影がある場所から無数の黒い棘が勢いよく生えてきたのである!
そう、この技は相手の影から棘を生えさせて串刺しにするなんとも酷い技なのだ!
「うおお! なんという技だ、真上に生えていく速度が凄い、俺のジャンプする速度に追いついて、数本が体に刺さったッ!」
「そう! 私の影送りは相手の影を利用して攻撃するもの、相手が立ち止まり、影を留めている時間が長ければ長いほど、影送りの威力は増すのさ!」
だがノドカ、ただ無防備に刺されるにはあらず、今度は足を使い、黒い棘を蹴る。
そうしてジャンプの軌道を横にした、これで影送りの魔の手から逃れることができたのである!
「よし、避けた!」
なんとか着地し、アナザーウツリを見据える。
やつの妖術とやらはあとひとつだけ、それさえわかれば、やつの手の内は完全に明らかとなる。
「なかなかやるねェさすがノドカ、と言ったところかな。ところで、手を使ってジャンプするなんて面白いことするね、そんな腕力はあるように思えないけれど」
「そうだな、お前も手の内をだいぶ明かしてくれたので、俺の能力を教えてやる。俺の能力は"磁力を操る能力"俺が行う跳躍や移動は人間的な力で行ってるわけではない。磁石でいうところの"反発"だ、そのパワーを利用してるだけだ」
「磁力だって? こっちのノドカとは違う力を持っているのか!」
ノドカがもつ能力の正体は、磁力を操る能力!
しかし、磁力を操るというのなら、金属でもなんでもない地面や影の棘を使って反発を起こせたのはおかしくないか? という話だ。
……しかしこういう現象を見たことはないだろうか、磁石にずっと金属をくっつけていると、磁石から離してもしばらくの間その金属が磁力をもつようになり、磁石の役割をするという現象。
ノドカもそれ同様、あらゆるものに"磁力を流し込み擬似磁石にすること"ができるのだ、それも一瞬のうちに、それを利用して反発をおこしていた。
「さて多くを話すつもりもない、不利になるしな。能力を明かしたところで本気でいかせてもらおう」
「は、笑わせんな! 私の妖術の方が強いに決まってる!」
再び発動、追尾忍び足を投げ、ノドカを横方向から狙う!
さらに神妙刃! 正面から神妙刃、避けるのは厳しい状態だ。
「逃げられる方向は、背後か、上か。おっと立ち止まってる暇はなかったな、影が差してしまう」
ノドカが選択した道は、上空! ノドカは反発により高く飛び上がりつつ前進、アナザーウツリを狙う。
追尾忍び足のスピードは対したことはなく、すぐに振り切る、問題は神妙刃!
スピードもさることながら、伸縮自在で捉えようがない。
「だが相性が悪かったな、俺の能力は、金属であれば体に触れずとも反発させることができる! つまり、金属で出来たモノでの攻撃は俺に届くことはない!」
そう、ノドカの磁力を操る能力ならば、金属に対してとても強い。
相手が金属を使っていれば、だが。
「バカめ! 私のこの鎌はな、妖術で作られた特殊なものなのさ! この刃は、金属とは違う物質なんだよー!」
「ぐあアァー!! なにぃ!?」
腕と足、同時に切りつけられた! だが、また地面に落ちるのはやばい。
影の近くに留まることは、影送りの餌食になるということだ!
「まずい! こうなったら、地面に落ちる前にこのメガネを外して……」
空中でメガネを外したと思えば、いきなりメガネを空中で殴る。
「磁力は小さなものにでも流し込むことができる。このようなメガネにもな、微弱な磁力しか練り込めんが、わずかな反発でも充分!」
それはアナザーウツリまでの距離がさほど無いからだ、メガネの反発を利用してわずかにジャンプの飛距離を伸ばす。
そのまま、油断したアナザーウツリの腹部に"反発蹴り"をぶちこむ、ただのキックではない。
これまた反発の威力により、その蹴りの威力は倍増しているのだ!
「ぐッぎゃああァー!!」
「よし! 勝った!」
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