第17話『人間的五大能力』

吹き飛ぶアナザーウツリ、鎌も手放し、もはや再起不能か。



「が、私が、高貴な妖怪のこの私が、ぎぎ、まだ……だ。最後の妖術、見せてやる、私がウツリと呼ばれる由縁の技! 憑依!」



「きゃあー!」



なんとアナザーウツリの身体は霊体のようになり、街中をあるいていた小さな少女に襲いかかった!

すると、少女の目つきはぎょろりとした妖しいものに変わる。

これを見てノドカは瞬時に理解した、これは憑依能力! 少女の身体はアナザーウツリが乗っ取った!



「し、しまった、こんな能力を隠しもっていようとは……! 思えば、このウツリ、現れて間もないとき"取り憑いて殺す"だのなんだの、発言していたじゃないか……! 注意深く聞いていれば、こんなことには」



「ふふ、流石に関係ない女の子に手をかけるなんて、ひどいことはできないよな? ノドカ? いいか、この女の子をどうにかされたくなければ、何も抵抗するな!」



「ウツリが、こんな、こんな邪道なことをするわけがない……偽物め、ウツリは純粋な少女だ、お前のような、よく分からない種族を名乗ったり平気で人を傷つけ罵るような者じゃあない……」



ウツリと瓜二つの姿をしているのに、ここまでのクズっぷり、見るに耐えず顔を伏せ歯ぎしりをしてその場に立ち尽くすノドカ。

アナザーウツリは地面から手頃な岩を拾い、ノドカの腹部をぶんなぐる。



「ごはッ……!」



「うるさいんだよペラペラと、さっきのお返しだバーカ! 何十倍にもして返してやるからなー!」



「やめろ、もう決着は付いてる……! やめてくれ……!」



ノドカがアナザーウツリが憑依した少女の肩に手を置き、勝負を終わらせることをつげた、だがアナザーウツリは!



「うるさいぞ愚者がアー! 少女に手を出せないような甘ちゃんが調子に乗るんじゃない、高貴な私に触れるなァー!」



さらに力を込め、岩でノドカの胸部を打ち付け……殴り抜けるッ!

吹き飛んだノドカは、よろよろと立ち上がり、アナザーウツリが憑依した少女を見つめる。



「あーん、なんだ、その反抗的な目、勝負は付いたろ、ノドカの負けだ!」



「言ったろう、決着は付いてると……ところでもう一人のウツリよ、磁力が反発するときってどうなってると思う?」



「は?」



「N極とS極とか、S極とN極なんかじゃないはずだ、それでは引き合ってくっついてしまうから、反発はしない」



「急になに、殴られて錯乱したか?」



「例えばだが、S極とS極なんてのはどうかな、いやなんにせよ成功して良かった、こんなケース始めてだったからな」



「ん? なんだ、憑依がしっくりこないな、どんどん少女の身体から私の身体が離れているような……ハッ!」



ノドカは少女の肩に手を置いたその一瞬、能力を使って磁力を少女の体に送ってみた、その瞬間に少女の体は磁石的になっていたのだ。

今さっき少女に入ってきた、外来のアナザーウツリに反発して離れようとしている!

ノドカが持つ磁力の能力、恐らくだが生き物の中の"相容れないもの同士を"反発させ、離れ離れにさせる力さえもあるのだろう!

いや、この別世界の人物同士の場合に限る可能性もあるが、なんにせよノドカの企みは大成功を収めた!



「S(少女)とS(少女)で反発するんだなッ! そして、Nノドカがトドメだ!」



今アナザーウツリの体は完全に少女から離れた、鎌は持っていない。

抵抗は不可能、ノドカの飛び蹴りが再び目の前に!



「ぐアぎゃあー!」



顔面に炸裂、勝ったッ! ノドカ対アナザーウツリ完ッ!



「くそォ、素早いやつだ、私の鎌攻撃が当たらない!」



「そう、俺は素早い、そういう力を持っている、左足は摩擦係数を操れる、それを利用した高速移動能力。素早いだけではないがな、俺は合計五つの能力を同時に持っている、そういう能力なんだ」



一方はウツリ対アナザーノドカ。

ウツリは金属を生成し形成する能力を持っているので、その能力で作った鎌の刃を伸ばすことができるのだ。

皮肉にもアナザーウツリの妖術のひとつ、神妙刃と同じような能力なわけだ。



「五つも!? あれか多重能力者ってやつだ、卑怯なやつだ!」



「まあそういう卑怯さも、生きていくには必要なのさ、偽物野郎にはわからんだろうけどなぁ~」



「な、なんだと!? 偽物はそっちだろ! 私のノドカはお前みたいにキモくないぞ! 」



「なんだお前キモいキモいと、それしかないのか、お前の言葉は無力だな。一方俺は有力だ、多重能力者は神だからね、神……クク、フハハ」



走り回りながら薄ら笑いを浮かべるとはなんと怖いやつだろう、一少女であるウツリにはことさら恐怖を感じざるを得ない。



「こ、怖ッ今度は怖い、なんだこいつ、姿がノドカじゃなかったらめちゃくちゃにブチのめしてやりたい!」



「さて、避けているだけでは力の無駄遣いなので、そろそろしかけさせてもらうぞ!」



アナザーノドカは超高速移動能力のまま、右足に力を込め、大ジャンプする!

ウツリの方向へジャンプ! 距離が一気に詰まる!



「我が右足は脚力パワーがつよい! それによる跳躍はお前との距離を詰めるなど容易い!」



「うおお、ノドカと同じくジャンプができるのかこいつ! だが空中なら鎌をかわすことはできまい……えっ!?」



次にノドカは右手と左手を空中でピタッとつけた。

その瞬間、腕からは煙があふれる、これはガス的なものではなく、水蒸気!

ノドカは右手で冷気、左手で熱気を操る能力も持っているのだ、その温度差を利用した目くらまし!

五つも能力を扱えると豪語していたのは真実だったようだ、アナザーワールドだからってなんでもアリにしすぎである。



「わ、ぶっ、煙で前が、あたりが見えない、とりあえず鎌を振るわないと!」



とりあえず、牽制のつもりでもなんでもいいので、無防備にならないよう鎌に力を込めるウツリだが、それより先にアナザーノドカの蹴りが飛んできた!



「ぎゃあっ!」



「よし蹴ったァ!」



蹴られた衝撃で体が崩れそうになるが、鎌を杖代わりにして持ちこたえた。



「ふん、そうかぁやはりなぁ、鎌の刃を伸ばすには若干の時間を要するようだな。そしてお前は予想外の事態、とっさのことにすぐ対応できない未熟さも持っている。俺の五つ目の能力にかかれば、その程度すぐに察することができるわけだがな」



高速移動、跳躍、冷気、熱気、そしてアナザーノドカの最後の能力、それは……。



「"直感能力"! それは、見たものの性質や特徴を見ただけで感じ取る能力ッ!

 だからこそ俺は自身の体に宿る幾多の能力を感じ取り、すぐに操作することができたのだ

 そして、他人がもつウィークポイント(人がもつ弱み、弱点、不利になるところや事)を感じ取り、敵の弱点をつくこともできる!」



「直感能力だって!? 何かわからんがつまり、私の能力が通用しないってことか!?」



「まあ、そういうことかな、まあでも、もしかしたら殺せるかもしれないぞ? どうする? ほらほら」



アナザーノドカは腕を大きく広げ、ウツリを挑発する。



「くっ、このぉー!」



その挑発に乗り、鎌の刃を伸ばし攻撃するウツリ、しかし見切られていた。

アナザーノドカはあっさり攻撃をかわし、刃のすぐそばを超高速で駆け抜け、ウツリへの距離を詰める!



「ひっ!」



そしてウツリの鎌を左腕で掴み、熱を流す。



「う、うあっ、熱いッ!」



「そりゃそうだろう、さすが金属、熱伝導率は上々だなアーあまりの熱さに離しちゃったね鎌を、無防備の偽ウツリ!」



すかさず丸腰になったウツリの顔面に、右手で冷気を纏った氷点下的パンチ、冷気パンチをぶち込む。

おぞましいことに殴られた瞬間に口の中の水分が凍り、ウツリの呼吸に支障をきたした!

唾と血が凍り、口が開かないのだ!



「う!? む!? うぅぅ!?」



倒れ伏せながら、口を無理やり開こうとするが、凍った口の中が所々切れ、激痛が走る。



「勝ったな、あとはその頭、跳躍に使うキック力で踏み抜かせてもらう。残酷? なんとでも言えよ、そして悪いな、死ね!」



アナザーノドカがウツリの頭を踏み砕こうとしたそのとき、アナザーノドカの体が宙を舞った。

背後から殴られたのだ、ノドカの"反発パンチ"で!

ノドカの助太刀でウツリのピンチは脱することができた。



「ぐっはアー、お前は俺ッ! 俺のウツリを倒したというのか!」



「ウツリ大丈夫か! 口を凍らされたか、今治そう!」



ノドカはウツリの両頬に手を触れ、磁力を送る。

生じる磁力がウツリの口の中に微弱な振動を起こし、それが熱となりウツリの凍りを溶かした!



「ぶぁっはぁー! ノドカありがとう! いっつ、口が切れて痛ぁー……う、痛いぃ……!」



「後でしっかり治療しないとな、いきなりで酷だが、もうひとりの俺にトドメを刺そう。あいつの直感能力で俺たちの考えを読まれる前にな」



「……だいじょうぶ、わかった! 合体技でいこう! うがああー! ちょっと痛いけど我慢だァー!」



ウツリは全身に力を込める、するとウツリの両腕から金属片が大量に放出された!

そしてノドカは磁力を発動! その金属片を磁力で操り、空中を舞わせる!

無数の金属片はノドカの前方に集まり、一気に最大磁力を解放!


無数の金属片が空中を漂うアナザーノドカへと、機関銃の如く突き進む!

これぞ合体技!「Mortal・Magnet Metal!!(モータルマグネットメタル)」



「うッぎゃアァー!!」



勝った! ウツリ対アナザーノドカ完ッ!



「やったなウツリ、俺たちは俺たちを超えた」



「うん、ノドカ、無事で良かった!」



なす術なく、アナザーノドカは敗北した。

であれば残るはたったの一名! パドラルのみ!

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