第14話『オープンワールド・ワールドアー その1』

「ちょっといいかい君たーち……」



オーパーツだとか組織OPTだとかでもちきりの四人の間に割って入ってくる、女の人が1人。

四人は顔を見合わせる、疑問の表情で……どうやら誰の知り合いでもないらしい。



「たしか……妖精を連れているやつと……青白い髪の女と歩いてるめがね。あなたたちが、あの、たしか、エイジとモドカ……」



「惜しいけど違う」



二人ともハモった、やはり女の子を連れ歩いてる者同士、通ずるものがあるんだろうか。



「うん、すまんかった、名乗りが遅れた……私はソニアという名前だ。レイジ……君の仲間に、トシマってのが居たはずだ、えっと特徴を言おう……む…どうだろう、特徴……あぁ狼と歩いてるヤツだ……」



それはトシマの特徴ではないと思うが……レイジは過去にトシマと会ったことがある。

少し考え、思い出した。



ところで彼女、名をソニア。

紺色の長髪で腰あたりまで伸びている、目そのものは大きいのだが、瞼が力ない故眠そうに見える、ずっとそんな表情だ。

しかも会話中に4回5回と「ふぅ…」と軽いため息をつく、セリフにも抑揚があまりないし、ダウナー中のダウナー、猫背ではないがなんとも不健康そうだ。



「トシマは師匠におつかいを頼まれていて、明日多分ここにくる、合流してあげて欲しい……犬しか友達の居ないかわいそうな奴だ、ちなみに私はそのトシマの師匠の孫娘だ、安心して欲しい」



何に対する安心かは不明だが、彼女は見た目年齢おおよそ二十代前半か、その祖父となると……まあ師匠と名の付くだけあって高齢であることは察しておこう。

さて、そのトシマの関係者が体良くレイジの元にやってくるとは、ただの偶然と思えはしない。



「トシマのおつかいというのはただの名目で、実はこの町で俺と合流するのが目的だった、という訳ですな」



察しの良いレイジは、察した。



「むー……ま、そういう感じ、とりあえずトシマに会ったらこれを渡しておいて、師匠からの手紙だよー、みたいな感じだ」



「ぐ!?」



レイジは腕を引っ張られ、服のポケットにねじ込まれ、半ば強引に押し付けられた手紙。



「レイジ大丈夫!? まだ戦いの怪我が完治してないんだから無茶しないで下さいよ!」



「怒ったか……うんごめん、じゃあ私は飯食って帰るから、ちょうどここは食堂だしね……」



ふぅー終わった終わったと言わんばかりのおつかれムードを出しながら食堂のテーブルに座ろうとする彼女に、あまり空気など読まずノドカが話しかける、まだ話は終わっちゃいないのだ。



「ま、待ってくれ、そのトシマ…あとこのレイジ、彼らがその、冒険者とやらの集まりなのは分かったが、俺は部外者だ。しかしソニア、あなたは最初に俺の名前を(間違えてたけど)呼んだ……それは一体?」



「えーと……めんどくさいな……師匠はノドカ、君のことも知っている。師匠は特別な体術を弟子に教え続け早30ねんの極めて老害だが、ウワサによると千里眼という今時古い名前の技術を持っているらしい。世界のあらゆる事件や動向、人物を知っている……まあトシマみたいなパシリに使える弟子を千人万人走らせてるだけかもしれないがね。それでまあノドカ、今回の事件には君の力も必要だと見込まれたのだろう、良かったね。ふぅ……長ゼリフになったな、呼吸が苦しい」



「なるほど……そういう事だったのか」



今度こそ座ろう、メニューを手に取ろう、そうしようとするソニアに今度はレイジが話しかける。



「ソニアとやら、事件とは一体なんだ? ノドカという能力者を加えなければならないほど大きな事件か? バトル的な意味合いか?」



ソニアは目つきを鋭くし、あからさまに不機嫌な顔をしよる。

さて、聞かれてしまっては答えなくては、それが質問だ、しぶしぶと食堂のメニューから目を逸らし、レイジに向き直す。



「長々と説明するのもアレだ、三言で説明するからよーく聞いて、分からない部分は各自各々(かくじおのおの)で考えてくれ」



「あ、ああ……分かった」



「1、多数の能力者が至る所で好き勝手やってる珍事件、その能力者はオーパーツという能力の力を無理やり強くするインチキ装置を持っています、だから事件クラスに大事おおごと

2、うざいことに彼らは組織体なのですグループなのです、さてこの事件を解決するには本拠地に居るボスをぶっ殺した方が得策です

3、しかし強力な能力者が多いので、こちらも仲間を集めて挑みましょう、正義と平和の為にみんなガンバレp(^_^)q 」



最後の最後だけ、明るくキャピっと言って見せた、固まる四人、静まる空気。

ソニアは即不機嫌&面倒くさそうなオーラを放ちまくりながら、席についてメニューを凝視する。



「……だそうだぞ、レイジ、どうする? 明日までここで待つか?」



レイジから返してもらった本を鞄に入れて、明日までの予定を組もうと考えるノドカ。



「そうだな……とりあえず、アリシアにご飯を食べさせてからにしていいか? 考えるのは」



「それもそうだね、私おなかペコペコ、さレイジはやく食べよ。あっそうだウツリちゃんも一緒に食べる?」



「うー……ごめんもうノドカと食べちゃって、せっかく知り合えたんだしアリシアと一緒に食べたかったなあ」



「まあウツリ、食べなくても一緒のテーブルでお話すればいいじゃないか」



「そうだよ、ウツリも一緒に座ろっ、あ、そうだ、あのソニアって人のテーブルにみんなで……」



ノドカ達四人が自分のテーブルにくるかもしれない話を聞いたソニアはメニューから目を離し、アリシアを睨みつけた。

あれは、養豚場のブタを見る目だァー、氷のように人を蔑む目をしているウー。

来んな、あっちいけ、そういうセリフが呼び起こされるオーラを出してらっしゃる。



「やめとくかアリシア、食事を1人で取る事を至福としてる人も居るんだろう」



「う、うん……」



四人は、もともとノドカ達が座っていたテーブルに座り、レイジとアリシアのみ食事をすることに。

まだ時間は昼、明日までの時間はゆっくりとあるので、宿はどこにしようかとか、二人の馴れ初めの話はどうなのとか。

飯を喰らいながら、そういう他愛もない話、ソニアは未だにメニューを凝視している、迷っている。



「うゥぐ、おごはァ!」



しかし突然、それはあまりにも突然のこと!

メニューを凝視し、魚か肉か、米かパンか麺か、こってりかあっさりか、様々な思いを巡らせていたソニアが。

吐血した、突然だ、なんの前触れもなく、腹部を強烈に殴打されたかのようにガクンと体を反応させ、座ったままテーブルに頭をゴトンとぶつけ倒れた。

周りの客は慌てふためき、店主が慌てて血を拭く為の布巾とタオル、あと水を持ってソニアに駆けつける、死んではいないようだ。



「やはり……防ぎきれていなかったか、弾丸、を。トシマより技術が劣っている私では……ごふっ……エイジ、モドカ……」



一同四名は慌てて立ち上がる、なんだ、一体何が起こったのだ、先まで何も異常な様子はなかったソニアという女性。いきなり血をぶち吐くとはただごとではない!



「なんだぁ! どうした一体これは敵か? 攻撃を受けているのか? どこから? アリシア、怪しい人物を見たか?」



「う、ううん、何も……周りにはふつうのお客さんだけ……」



「威力を逃せていない……? どういうことだ、ソニア、既に攻撃を受けていて、防御行動かなにかで

攻撃を防ぐことはできたが、それは一時的なモノで、今更になってダメージが現れた……みたいな言い草は!」



「ノドカ待って、何か言いたそうだよ!」



「聞いて……私はここに来る途中……オーパーツを持つ能力者に襲われた。恐らく師匠からの伝言を邪魔しようってわけだな、なんとか私は倒して逃げてきたけど……」



机に突っ伏し、虚ろとした目で辛うじて口を動かして喋る。

しかしその内容、なんと唐突か、レイジが声を荒げる。



「な、なぜに今それを話す! いや、倒してきたというならまあいいが」



「話す……順序というのがある、私は師匠からの伝言を優先したまでだ」



「普通自分が襲われた事は報告するだろ! 倒してきたというならまあいいけど」



「だ、だがオーパーツ使い本人は未だ暗躍している、恐らくだが、私を尾けてきていたのかも」



ノドカは疑問の表情を浮かべつつ、ソニアの言い分に物申す、言ってることが噛み合ってないからだ。



「さっき、倒したとか言っていなかったか? だが本人はここに向かってきている? 相手は複数居たということか?」



「いやアイツは一人だ、だが増やして襲ってくるんだ、こう、説明が長くなるからあえて話さなかったんだけど、ゲフッ……もっとややこしくなったね、ごめん、ガクッ」



ソニアはついに気絶した、これではこれからやってくるかもしれない敵の情報がわからんじゃないか。



「弱ったな、敵の情報が不明だ、外見も能力も何もかも……既にこの町にもやって来ているかもしれない、確かグルンガストとか言ったっけこの町」



「ノドカ安心してくれ、俺の超能力のひとつ「テレパス」は人間の心の性質を読み取ることができる

ソニアを狙ったその殺意、きっと一般人の中では浮いてしまうほどの心……近くに来ているならきっと察せるはず。この食堂の入り口はただひとつ……!」



レイジの能力、テレパスで周囲の様子を探る。

その能力を発動した瞬間、レイジは超能力のひとつテレポートで店主に介抱されているソニアを守る形で前に出る。



「エクストラビーム!」



すぐさまエクストラビームという光線のような技が発動され打ち出される。

あまりに一瞬でノドカ達も反応が遅れる、その光線が狙うは食堂の入り口。

次の瞬間爆発が起き、食堂の入り口のドアは木っ端微塵に砕けた、手荒な真似だったが、負傷者は出ていない。



「なんだレイジどうしたんだ!?」



「敵は思ったより急ぎ足らしい、もう来てた、びっくりするほど邪悪な気のヤツがな。だが妙だ、モヤがかかっているような気を感じた……」



直後、砕けたドアと煙の立ち上がる向こう側から咳払いしつつ現れる人影がひとつ。



「おおお~やられたっ手が早いなー! さすが最強の能力者レイジ~」



焼け焦げになった入り口から何事も無かったかのように入り込んでくる1人の男……。

方向的にレイジのエクストラビームをまともに食らったはずである、その威力はアビスを一撃でまるこげにするほど。



「ブラボー、でもダメなんだな~気を察知するだけのお前の目測、俺の前じゃ役に立たねー。みろ~お前が倒したやつをみろ~、カワイソウだぜ」



その男はなにか大きなものを引きずってやってきた、それは、死体!

レイジの攻撃をモロに受けて、しんだ。

男が盾にしたからだろう、火傷が酷すぎて誰か分からないが、少年だろうか。



「殺しちゃだめなやつを殺したぜ~お前今殺したんだぞ~100人中100人がだめって言うぜ~、いや誰も言わなくても俺が言うぜ」



「ば、ばかな気の察知が正確に察せたのはお前一人! だがモヤがかかっているようにも感じた、それに殺してはいけない……だと、話の流れから察するに、まさか……まさか!?」



ノドカとレイジは戦慄する、まさか、そんなことがあっていいのか。



「トシマか!? その少年は、トシマなのか!? まさかその、焼け焦げた見るも無惨なモノがッ!」



ショックを受けテーブルの上の食器をめちゃくちゃに叩き割ってしまうレイジ。

店主からしたら迷惑この上ない。



「いや、そんなばかな! 俺は確かに邪悪な気を察知して攻撃をした……! いやだがまさか、もしかして! 気察知が役に立たないと言っていたあいつ、まさか気の伝わりをめちゃくちゃにする力を!?」



「あえ~? トシマがなんだって~? まあいいや、俺はな~とりあえず俺たちOPTのことを探ってる風のそこの、ソニアだとかゆうやつが気に食わね~ちょっとは強いようだが俺からは逃げられねえぜ……」



ソニアを睨みつけ口を開くその男。

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