第13話『ノドカとウツリ』
この町「グルンガスト」の入口、門の近くで大爆発があったという。
目撃者の証言によれば、巨大な光線が大地から天に向かって伸びていく……のが見えたそうな。
町の兵団が駆けつけたが、地面に穴があいてるだけで負傷者などはおらず、知らぬ存ぜぬを押し通す怪しい少年と妖精が町へ入っていくだけであった。
妖精の珍しさに関心をしめし手を伸ばした兵士が、少年になんかされて気絶したという報告もあったが、今回の件とは関係ないので放置としておく。
「物騒だなぁ最近は……なぁウツリ、この新聞見てくれ。どうやら世界の各地で異能の力を持つものが暴れているらしい」
「どれどれ、うわぁ~ほんとだ、街も村もめちゃくちゃだよ……古代遺跡なども倒壊……異能の力、やっぱり能力者だよね、そう私たちと同じ……!」
定食屋のテーブルに座り、適当に食事を取る二名。
メガネをかけた少年ノドカ。黒に近い焦げ茶色の髪で、服装も長袖、特筆することがない程まあまあ普通の格好の少年だ。
もう一人、青白いきれいなショートヘアの少女ウツリ。短めのスカートがちと危うい、何より巨大な鉄鎌を携えているという異質さのある少女である。
「俺とウツリのように、能力を持ちつつそれでいて冒険している人間だろう、が。悪事を働くという点は全く持って異常だな、まあ異能の力を手に入れ、自分自身が神や超人にでもなったと錯乱する気持ちも……分からないでもないが」
「でも私たちは逆だよね! 能力の使い方も分からず暴走してしまうような人間も居る。私たちはそういう人たちを救って回ってるんだもんね、こんな新聞の奴らと一緒にされちゃあ困るよ!」
「そうだな、関係ないが声大きい」
「あっ……」
ちと興奮してか声を張り上げてしもた、周りからクエスチョン感溢れる視線を大いに受ける。
ウツリは顔を赤くして、机に乗り上げんばかりの体をそそくさと元に戻し、俯き気味に手元の紅茶を一口、みんな忘れてください。
「あれ! な、無い、無いぞ!」
「ん? ノドカ、どしたの?」
突如騒ぎ出したのはノドカ、自分の鞄をあさぐりながら、何かが無いだとか言い出すのだ。
「いや、持ってた本が無くなっている、もしかしてこの町に入る途中で落としたか……?」
ノドカの父は図書館を経営していたので、物心つく前から本の虫である。
そんなノドカから本が無くなったとあっちゃ気の毒だ。顔を心配そうにそっとのぞきこむウツリ。
「ノドカ、取りに戻ろうよ! 多分きっと途中で休憩した森に忘れたんだ! 今日は雨も降ってないし濡れたりしてないはず、早いとこ取りに行こ!」
「うん、そうするか」
立ち上がろうとする二名だが、その瞬間。
彼らのすぐ隣のテーブルに座る少年がひとり、妖精が一匹。
知らない顔だ、だが妖精というのは種族的に珍しい、羽根が生えていて瞳が大きい。驚くほど毛髪が綺麗。
ノドカとウツリはほんの数秒ほど、その妖精に視線を引きつけられていた。
「ん? えっと、私の顔に何か?」
「あっ、いやすまない、その羽根、珍しいものだったのでつい……」
ノドカはその妖精から視線を外し、さて森へ戻ろうと思ったとき。
ふと青年の方に目が行った、本を持っているではないか。
なんと都合のいい事にノドカが森に落としてきた本! この青年が拾ってくれていたらしい。
「あっ、その本もしかして森で拾ったりしたか? 恐らく俺の物かもしれないんだが、どうだろう」
「ん、ああそうだ、いかにも森で……拾ったな、ええと……」
「ノドカという名前だ、こっちはウツリ」
「あっ、あぁそうです、私がウツリです」
「えと、あ、俺はレイジだ、超能力者をやってる」
「私は妖精アリシア、よろしくね」
ごく自然な形で自己紹介×4を終える彼ら、自己紹介の流れは、ちょいと初々しくて照れくさい感じがするものだ、四人も少しばかりそれを味わっていた。
しかし、ごく自然じゃないのは自分の身分というかスペックまで話しだしたレイジとアリシア、種族や能力まで初対面に伝える必要はあるまいに。
ウツリが少しばかり興味を示し、レイジの体を舐め回すように見ながら口を開く。
「超能力者?」
「あぁイヤすまない、気にしないでくれ、少し疲れて喋りすぎたようだ」
さて自己紹介もしたところで、彼ら二人の正体はわかったことだろう。
彼らはつい先ほど、組織OPTの幹部、重力使いのアビスとの戦闘を繰り広げ勝利をおさめたばかりのレイジとアリシアなのである。
しかしレイジとアリシア、見るとケガをしているではないか。
一度病院によって処置的な事を施されているが、アリシアは頭部、レイジは全身至る所を包帯巻きと化している。
「しかしレイジ、アリシア、その怪我は一体……魔物に襲われたか。森は虫や獣の魔物が見えない位置から襲ってくるからな」
アリシアはノドカの言葉に、同意するわけでもなく答える、無論、この怪我は魔物のせいではないから、である。
「ううん、ちょっと変な人にね……」
「なるほど変質者か」
「いや能力者だなぁ、それも異常に強い能力のヤツだった。まあなんにせよ、俺の敵ではなかったがな……余裕だった」
「そうか……この町の新聞で見た情報だが、ここ最近、世界各地で異能な力を持つ者が暴れているとあったな。恐らく能力者だろう、それが何か関係あるんじゃあないか?」
「ん? なんだか普通に話していたけどお前、ノドカは能力者のことを知っているのか? なんかまるで冷静だしなんか知ってると俺は見たね、もしかして俺たちと同じ能力者だったり……」
「同じ……確かに俺は能力者だ、訳あって色々な能力者に狙われる身でもある。レイジもまた能力者、いや超能力者か」
「なるほどぉ、俺もアレだな、最強とか決めつけられて狙われたからな。ノドカも大変だなしかし、気持ちは察するよ、うん」
やりとりをする二人に割って入るのはウツリ、同じような境遇であるレイジとアリシアに興味が湧いてきた、是非ともお友達になりたい。
大きな鎌を持っているこのウツリ、見た目よりもずっと普通の女の子らしい。
「ここで会ったのも何かの縁ってやつだよ、この町の中だけでも一緒に行動しない? それがいいよ! ね?」
アリシアがにこやかに答える。
「私は構わないよ? ね、レイジ、あと……ノドカさん? も良い休息になると思わない?」
「おっそうだなアリシア、しかしノドカに警告しておくよ。俺を狙ってきたのは普通の能力者ではないらしい……オーパーツ、だとか言っていたかな」
「ん? オーパーツ、珍しい単語が出てきたな、古めかしい遺産めいたものを感じる」
「いや実は俺を襲ってきた、ていうかアリシアにケガさせたその能力者を倒したあとにな。この町へ入ろうとした直前、後ろから声をかけられたんだ……」
時はレイジがアビスを倒したそのすぐ直後に遡る。
「面倒なことになったな……レイジ、お前のおかげで」
「ン? なんだお前、いつからそこに?」
「風の魔法はテレポートだ、覚えておけ……」
レイジの前(後ろだけど)に現れたのは後にジャント、プロトスと戦いその命を散らすことになる男、ゼットであった。
レイジの必殺技で丸焼けと化したアビスを風の魔法で持ち上げている。
「「Rの者」からアビスのオーパーツパワーが弱まったと聞いたと思ったら。まさかお前に撃破されていようとはなレイジ、重力バリアは私でもっても突破するのに手を焼くというのに……さて、じきにお前の情報も特定され、お前の仲間が狙われることになるだろう、オーパーツ使い達に、な」
「レイジ……この黒い人、知り合い?」
「いやまったく知らん。しかしなんだ、倒しちゃ不味いヤツだったのかそいつは、喧嘩売ってきたのはその、アビス? とかいうヤツからだったぞ、弱かったけどね」
「そうか、それならかわいそうとしか言えんな、お前の仲間がだが。それとも私を倒して食い止めるか? アビスの五倍は強いがな俺は」
「やめておこう、アリシアがお腹空かせてるんだ、また今度ね」
「……薄情だな、まあいい、俺たちオーパーツ使いの組織OPTから逃れたいならば「Dの者」と「Rの者」を潰さなければ逃れられんぞ、ではさらばだ」
「うん、さらば」
という事があったらしい。
レイジからすれば意味不明なことであったが、改めて考えてみると仲間が襲われてるかもしれない。
今更になってちょこっと冷や汗をかき始めた、仲間というのはジャントやシェーヌ達のような冒険者のことを言ってたのだろう。
というか奴は中途半端にヒント、助言めいたことを言っていたが、敵か味方か? 何だったのだろう。
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