第12話『オーパーツ・タイプH その3』
プロトスは体の一部をジャントを止血するために布に変形させ、止血した!
「ジャント、止血はしたぞ! 血は止めた、逃げるんだ全力で! 僕はジャントを助ける為ならなんでもする!」
「だったらよォ、ちょっと荒っぽい真似していいか、そそのかされちまったみてーだ俺は、あいつに」
「え? え? ジャント、何を言ってるんだこんなときに、熱っ、ジャントの手、熱いよ! これは一体……」
「ヤル気が出てんのよ今俺は、ヤル"気"だよ、で思い出したんだよなァあの男の言葉。勝てる気がすんだよなァ、元気になってきたぜ今……!」
「ジャント、ほんとに出血でおかしくなったのか……と思ったが、違かったみたい……この熱さ、似てる。ゼットに使われたときの感覚に! 新たな色の力を使いこなしたあのゼットに似てる!」
「追い詰められたことでなんとなーく分かってきたぜ。この出血でよォ、めちゃくちゃになった右手を見てよぉ、死んじゃうぜと思ったら湧き出したんだ、ヤル気がよォー! プロトスぅ、今ありあまってる力を全部使っちまっていいか……それに今、桃色の鬼神色を感じる、エスパー的なパワーを持っているな、もとある四色に加え、今使った桃色、さらに新たな緑、茶、白、灰、黒の色が使える感があるぜ!」
追い詰められたことで、ジャントの能力は更に開花され、使える色のバリエーションが増えたのだというのだ!
なんと急な進化だろうか。しかし、いきなり魔法使いに絡まれ、可愛い見た目なのに死なない女の子、それも人間じゃないし狂気に満ちている、そんな中での急成長進化したのはジャント以外にはなかなかいるまい。
「いいよ、まかせよう、僕を好きにして……ジャントの限界を見てみたい僕は……そう思う」
ジャントの止血に使っていた部位を元に戻し、全てを大剣に変えた。
そして、プロトスは思考した。
ジャントの出血は止まっていた、ピタリと、止血してない部位も。
追い詰められたことで、ジャントは気を使うことができるようになっているのか、追い詰められたら誰でも気の使い手たりえるのか。
そうではない、ジャントには気の使い手になりえたる裏付けがある、鬼神色という万能の力を操れる才能がある。
血を出してもなおも諦めない、精神力がある。
その状況であれプロトスを信じ、そして自分の意思を押し通す信念がある、勇敢さがある!
ヒナタに追い詰められたのはきっかけに過ぎない。
ジャントは元々、ジャントの人間性は、気を使うことができると、最初から決定づけられていたのだッ!!
「無駄無駄ァー! 魔物達があなたをグチャグチャにするわ! あたしが食べやすいように細切れにしてくれるかもォー! アヒャヒャヒャヒャ!!」
魔物が襲ってくる! その数36体!
幸いか、巨大な魔物はいない!
「鬼神色ラッシュでいくぞプロトスおらああああ!」
「ジャントおぉ!! 僕も全力を尽くすッ! 僕を使いこなしてくれ!」
「黄色の鬼神色……電撃だオラー!」
ジャントの言葉通り、魔物は電撃により痺れ地面に伏す。
だがその力をかいくぐり、ジャントのところに突っ込む魔物が周囲から!
「鬼神色の緑だ、木属性のパワー……成長しろ、植物!」
「グギエエエ! オゴッ!」
ジャントのセリフ通り、強靭なツタが地面から急成長するよに伸び、魔物から守るシャッターとなり、防御できた。
「片腕じゃあきついんで、フェアにしてもらう! 白色の鬼神色、その性質は精霊的パワーだぜ、傷を治す効果がある!」
植物が足止めしている間に精霊的パワー、すなわち聖なるパワーでジャントの首と右手の傷は治りはじめる!
右手が剣を握るに問題なくなったところで、両手で大剣を握る!
「ゴボァー!」
その瞬間、火を吐く魔物、刃をもつ魔物がツタを破壊しジャントに迫ってくる!
「おっとあぶねぇ!」
ジャントは元気万全になった勢いのままに真上に飛ぶ……!
ジャントを目で追い、キョロキョロとする魔物に向かって、鬼神色。
「灰色の鬼神色……鋼的な性質をもつ鬼神パワーだぜ! 鋼を空中に生成し、大剣の刃を増やし巨大にする!」
全てを知り尽くしているようなジャントの猛攻ぶり、元々もっていた赤、青、黄色、紫以外の鬼神色を……「必死になった」ただのそれだけでこうも扱いきれるものなんだろうか。
さて、巨大な刃を持つ剣で頭上から魔物を狙う!
獣や、鳥魔物のスピードなら、その攻撃を避けられるので、多くの物が避けられる、はずだった。
しかし空中! ジャントの居る真上を見た魔物の目に映ったのは、太陽光が反射し眩しく光る鋼の結晶たち! 目が潰れて動けない物続出!
全体重をのせた超範囲の落下斬撃! 轟音と地響き、残る魔物24体!
「赤の鬼神色、炎だ!」
次に、先ほどのツタに火を付け、ツタに絡まってしまった虫の魔物をあっさり焼き払う。
残る魔物18体!
「グォボオォォ!!」
ジャントのもとへ、またしても魔物が群がる! 普段攻撃性をもってない魔物も、ヒナタの命令には従わざるを得ないのだ!
「ゼットからのオマージュで使わせてもらうぜ、黒色の鬼神色! 地面を、破壊するッ!」
地面に大剣を突き立てると、爆発が起き、地面がえぐれる!
その土の塊は隕石のように魔物に降り注ぐ!
残る魔物11体!
「凄いぞジャント! みるみるうちに魔物を撃破だ、やったッ!」
「おうよプロトス! 次で魔物に対するラスト攻撃だ、複合技で行くぜ! 青の鬼神色で氷の柱を多数おっ立てて……さらに紫の鬼神色の毒を氷の中の水分に染み込ませたぜ! あとはこいつを……!」
冒頭から自慢していた腕力で、大剣を使いその氷を破壊!
毒の染み込んだ氷の細かい、鋭利な粒が魔物を襲う!
この強力な神経毒で、全ての魔物が倒れた!
ジャントが鬼神色の使い方に目覚めて、ここまで、大した時間は流れていない。
魔物を使役していたヒナタは、その数奇で奇妙なジャントの一転攻勢を無表情で見ていた。
「なにこれ逆転劇ってヤツ? うざっ……!」
「あとはお前だけだぜヒナタ! 多勢に無勢たぁ今この状況を言うんだろうな、次の鬼神色で"決着"をつけるぜ、ついでにゼットにも詫びろ!」
「そんな剣で、あたしを完全に消滅させられる!? 無理よねェー! 100gの肉片からでも、私は復活できるのよォ! 今の戦いで、何回あたしを斬ったァ!? 何回怪我したあたし!? そういうことよォー!!」
「うおおおお! 貫けぇぇぇー!」
二人が直接ぶつかる! ヒナタの爪がジャントの腹部に食い込み、ジャントの大剣がヒナタの腹部を貫く。
お互いピタリとくっつき、その腕に力を込める。
「ねェちょっといい? あんた、さっきのワザの中にはさぁ、初めて使うってワザもあったんでしょォ? その性質とか役割を理解してるのはおかしくない?」
「なんでェいこんなときに雑談かい、うんにゃ、じゃあ最後に教えてやる。魔物に対抗するとき最初に俺が使った鬼神色は桃色、たまたま運よく、物事を悟れるその鬼神色を発現した、だからその瞬間に新たな鬼神色のことも知ったのさ、おわり」
「ふゥーん、キチッと理由があったのねー、どっちみち運だけど
最後にありがと、マァ私からしたら能力だの技術だの関係ないし、それじゃアいただきまーす!」
伸びてきたのは舌! ヒナタの舌! 長い長い舌!
ジャントの眉間を狙ってその舌の針を突き出す!
「ぬぁー、やっぱりきたか、来ると思ってたぜベロ攻撃! 大剣はヒナタに刺してるから動かせない、ので!」
ジャントが懐から取り出したのは小さな剣!
そう、ゼットにプロトスを取られたときに使用した剣だ! あえてプロトスの体に戻さず、隠しもっていた! その剣で眉間を見事防御!
「念のため隠し持っていて良かったぜ! 運も、判断力も今は俺に味方してくれているぜ、主人公っぽいなァ俺!」
「にゃにぃぃい!?」
小さな剣をすぐに捨て、動揺するヒナタから大剣を抜き取る。
「あぅウグっ!」
「二度とこの世からくたばれ!」
そして剣を高く振り上げ、振り下ろす! ヒナタを縦に真っ二つにする!
「ギィアアァァア!?」
「そうして二度と人を襲うんじゃアねえぜー! おわりだ化け物オーパーツ!!」
「ゴボボ、縦に割っただけで、おわりだァー!? 聞こえなかったのォあたしの能力! 最強の能力、不死身のちからァー!」
真っ二つに割られたヒナタだが、腹部から腸が伸び、血管が伸び神経が伸び、離れようとする体を修復し始めた!
例によって例のごとく、何が何でも生き延びるというヒナタの能力の固い意思は尚折れない!
が、なにか異変が、ヒナタの治癒は異常無し……なのだが、足元がおかしい、ヒナタは地面に埋まっていっている!
「茶色だ、茶色の鬼神色で大地を叩いた……地面は揺るぎ、震撼し埋めたてるぜ、ここら一帯全部をな!」
「私を生き埋めにしようって!? 私は完全な生命体なんだよォ! 呼吸なんて必要ない! 栄養も必要なし! 呼吸がいらんからこそゼットの宝石が砕けたとき、息を殺して誰にも気付かれず死角に回り込めたのよぉ!」
「……死なないからいいんじゃねェかな?」
ジャントの狙い、それはヒナタを生き埋めにすること……!
殺したら復活してしまうのなら一生、生きてりゃいい話だ、文字通り一生動けない地下深くで。
「な!? クソがァ! ならば自殺してやる! そして別の場所に復活する! 例えばあんたが吹き飛ばした腕! あたしのその腕から……」
「無駄だよ、ジャントがさっき言ってたでしょ? ここら一帯全部をな……ってさ」
「はっ!」
ヒナタは慌てて周りを見渡す、地面が割れている、沈んでいる。
ヒナタが散らかした肉片も、腕も、全て地面に沈んでいる!
痛々しい血の赤色は、地に埋まりおわる。
「ハァ、ハッ私が、おわる? ウソでしょ、ネェお願い、助けて、ヤダ、残酷すぎる、一生埋められるなんて! あなた自分がされたらイヤでしょぉ!? うわあん助けて! いやあ!」
怖い物で、ヒナタは最初に会ったときのような、いたいけな少女のような態度をとっていた。
これも人間的な悪意という奴か、狡猾だ、情けをかけさせようとしている、これが初対面なら梅雨知らず……だが彼女ももうおわり。
「ジャントあぶない!」
プロトスが咄嗟にスライムにもどり、ジャントを押し倒す!
ヒナタの舌が伸びてきたのだ、ジャントの首を狙って、間一髪、尻餅をついたがかわすことができた。
「悪あがきか!?」
「いや違う、ジャントやばいよ! 逃げる気だ、彼女!」
ヒナタの舌がグンと伸び、突き刺さった先は、大木!
地面に沈みきってない大木! それに舌を突き刺し、ロープの要領で逃げようとしているのだ!
しかも、あの大木を踏み台にさらにジャンプされたら、茶色の鬼神色の攻撃範囲から大きく外れる!
彼女は再び自由の身となるのだ!
「がはっ!」
ジャントが止めようとするが、度重なる鬼神の力の使用で、体が動かずその場に倒れ伏す。
それもそうだ、あの多種多様なちから、体力的肉体的なダメージ的な見返りがあるのは当然といえよう!
一方ヒナタは地面から抜け出し、大きくジャンプした!
「やったッ! 勝った、あたしが勝った! 抜け出した! もうアイツとは一生戦わない! 怖かったけど、勝った! 勝っ」
ヒナタは飛んでる途中、何かに足を引かれた。
そんなばかな、私の敵はジャントとプロトスとかいうクソカスだけ……魔物に邪魔されることも絶対にない。
それなのに、誰だ、私の足を引くのは?
「ゼッ……」
ゼットの腕だった、ゼットもまた沈んでいたのだ。
ヒナタは沈んでいるゼットが見えていなかった、眼中になどなかった。
皮肉にもこの茶色の鬼神色の技、ゼットの茶色の魔術と似たような技だ。
「ヒナタ……すまなかった、一緒に行こう。もう、離れることはない……! ジャント……ありがとう、彼女を救う道はこれしかないな、私の頼みを聞いてくれて、ありがとう」
ゼットは沈みながらも、血を出しながらも、その手を放すことはなかった。
「ゼットきさまああああぁぁぁ!!!」
ヒナタは叫びながら沈んでいった。
ゼットと共に……これでもう、あの危険な生命体が世に放たれることは、あるまい。
「ジャント……勝った……今度こそ勝ったんだ……やっ……た……!」
「あー、流石俺だったぜ……表彰されてもいいくらい頑張った……!」
二人は仰向けに倒れ(プロトスは倒れると言えるのかわからないが)空を見上げた。
日差しが、彼らを祝福しているようにも見える、雲が、この世界に暗躍している何かを隠しているようにも見える。
「ジャント、ごめんね、僕じつは自分がただのスライム魔物ではないって分かっていたけど黙っていたんだよ」
「あー、そうなのか? 希少価値がある何かか? で、安っぽい悪の刺客にでも付け狙われてるとかいう設定か?」
「い、いやぁ、さっきの彼らみたいなのに狙われたのは初だよ、僕の正体が、オーパーツとかいうものだなんて。自分で自分の正体が分からないもんで、ジャントに打ち明けられなかった」
「気にすんなって」
「ジャント……ありがとう、僕らが今やるべきことってやっぱり、みんなと合流することだよね!」
「うんにゃ、まさしくその通り、俺もかなり思っていたぜ。さて問題は、行き当たりバッタリの俺ら冒険者が……どうやって合流するかだな」
考えるのもめんどくさいほどの疲労疲弊……二人はうーんと考えうなりながら、目を瞑り。
いつの間にか二人は寝てしまった。
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