第11話『オーパーツ・タイプH その2』

「あっとそのまえに」



「ぐッ……あぁ!?」



投擲……なにかを投げつけられた、ヒナタがそのフルに活かした肩の力でなにかを投げてきたのだ。

ジャントの右肩、そこに刺さる! 痛みのするほうに目をやるとそれは手だった、ヒナタの手。

先ほどジャントが切り落としたもの! またしても奇妙なのは、骨を、中途半端に治癒してある!

あえて刺さるように、中途半端に治癒することで、鋭利な部分を残したまま投げてよこしたのだ……こんな、精密な治癒までできようとは!


「不意打ちであたしの腕を落としたんだから自業自得よねぇ? さぁーて、ひさしぶりに自由になれたし、ウマそーな人間でもサガして、養分でも搾り取ってまわりますかねぇーっ! 」



「う! ぐ、クソいてぇ! プロトス、ヤツを倒す方法ってなにか思いつくかァ!?」



肩からヒナタの手をブチ抜き、破いた衣服で止血しながら、相談するジャント。

彼女は不死身、ゆえに斬撃も打撃も効果がなかった。



「彼女は普通の攻撃じゃぁどうしようもない、鬼神色のちからを使うしかないね……!」



「そうだな、出せる手は全部出し切ってみるか!」



プロトスを力強く握りしめ、ヒナタに向かって走る!



「やっかいなのはあの自己再生だな! あの力を少しでも緩められるならば……紫の鬼神色、毒の剣でいくぜ!」



大剣に紫色のオーラ、毒の要素が加わる! そのままヒナタに叩きつけた!

ヒナタは腕バットで防御したものの、それを砕くほどの威力、ヒナタの左肩を大きく切り裂く!



「や、やったぞ!」



「ぎゃああああぁ!!」



苦し紛れにジャントに舌の針を伸ばすヒナタ。

腹部に刺さる! が深くはない、とっさに素手で引き抜き大剣を抱えて距離をとる。



「っぶねー! 今一瞬刺さったぞ! ヤツに刺されたらあのゼットとかいう男みてーに俺もおっさんになっちまうのかぁ!?(まだ青春を謳歌してないのに)」



「いや、それはないとおもう、さっきのゼットの話を聞くにあの人はもともとがおっさんで、若返りはヒナタのちからで叶ったもの……単純にその効能をヒナタに吸われただけだね、でも養分を吸い取るようだから、刺されたらまずいけど」



「ああ、じゃあ結局避けることにするわ。ところでプロトスくん、どうやらヤツに毒は効かないようだね……」



ヒナタはその治癒能力を一切鈍らせることなく完治していた。



「毒ぅ? すぐに相手を痺れさせたりするかんじの毒ってんなら生物毒ってやつゥ? あははバカじゃないの、あたしはヒトに近いってだけでオーパーツなんだってば、理解してるー?」



「ぐっ、ぐぬぬ煽りやがって、試してみただけだってんだ、プロトス次いくぞ!」



次の手は、赤の鬼神色、炎! 走りながら斬ることで、先ほどのように反撃をうけないように、斬りつけた瞬間すぐに距離をとれるようにしている!



「狙うは首だ! 頭部はあらゆる生物にとって大切なパーツだからな!」



思いっきり火の剣を振り抜いた瞬間!

ヒナタは避けた! 腰を、真横にへし折って避けたのだ、普通では無理な体勢。

ヒナタの左頬は剣がかすり、火によって焼けていたし腰を骨折しているだろうに、そこに苦痛の表情は無い! 右腕の爪が伸びている!

突然のことで体が一瞬固まってしまったジャントの腹部を切り裂くつもりだ!



「盾っ! プロトスゥー! 盾だ、盾を頼むゥー!!」



大剣から盾に、プロトスの即座の変形で、ジャントは守られダメージをくらうことはなかった。

しかしその行動は咄嗟、バランスを崩しよろけたが、ジャントはヒナタから充分に距離を取る。



「な、なんてやつだ、自分の体を骨折させて攻撃を避けるなんて、ことさら珍しいぞ……!」



「あっついわねぇ、しっかしあたしを殺せる方法でも持ってると思って受け身になってあげてるのに、しょぼい戦い方しかできないのね」



バキッという痛々しい音と共に、腰を元の角度へと矯正するヒナタ。

頬についた火は消え、ヤケドの傷は完治していた。

骨折や切り傷だけではない、ほのおさえも彼女の治癒能力の前にはかすり傷にすらならないのだ。



「ジャント気をつけて、くるよ!」



「ああ、分かってる!」



ヒナタはおもむろに靴を脱ぎ、はだしになる。

そしてジャントに向かって全力で走ってきた!



「腕バットはさっき俺が破壊した! 肉弾戦でくるつもりだな! そんなら俺の身のこなしの軽やかさを披露して鬼神剣で後隙をつくぜ! ヤツはさっき首を狙う剣を避けた! ということは"首、頭部が弱点である可能性"は高いぜ!」



「イヒヒヒヒ! あたしの蹴りを避けられるゥゥゥ!?」



ジャントは異変に気づいた! 足が、足を誰かがつかんでいて動けない!

地中から、何かがジャントの足を捕らえて離さない!



「なっ、なんだ! おいこいつは、魔物じゃねえか! モグラの魔物! なんで俺の足を掴んで……ヤツに従ってんのか!? 魔物がぁ!?」



足を掴んでいたのはモグラの魔物、それも二匹、片あしずつしっかり掴んでいる!

振りほどこうと足を動かすが、それより先に目の前に現れたのは、血だらけのヒナタの足!

血だらけであるだけではない、足の指の骨が剥き出しになっている、またしても中途半端に治癒することで鋭利な骨を剥き出しに!

ジャントの頭部を狙って飛び蹴りする直前、ヒナタは思いっきり地面に右足の指先を擦った! その一瞬で指先をボロボロにし、今に至る!



「ぐぅうアアアッ!!」



剣で防御してるひまはなかった、ザンは右手を咄嗟に前に出し、ヒナタの蹴りを受けた。

だがその威力のおぞましさときたら! ジャントの手を蹴った瞬間、その威力でジャントの右手のひらに穴があく!

さらに、その際砕かれた骨がジャントの首にいくつか突き刺さったのだ!

そのままジャントは吹き飛ばされ地面に倒れる、モグラの魔物はふりほどけたわけだが。ピンチに変わりはない。



「あぐっ、かはッ、ぐ、喉がッ……」



「ジャント! ジャントしっかり! こうなったら僕ひとりでも戦う!」



「よせェ……バラけるのはやべぇ、敵はアイツひとりじゃあないぜ……どうやら魔物を使役できる力を持ってるらしい……!」



人間とは、脳を活かし考える生き物だ、個々の力は弱いが、マンモスを始末し、ライオンをも支配下におく、それが人間。

人間とは「集団で考え戦闘する生き物」なのだ、その集団性をいくつか操れるのがヒナタの能力!

人間や動物ならば、1人1能力の法則、ルールがあるが、ヒナタは残念ながら人間でもなく生き物ではない、1人で複数の力を使えても、オーパーツが未知だから、ただそれだけで説明は終わりだ。

とにかく彼女は、単細胞な脳みその魔物のようなものなら、使役できるチカラを持っているのだ!



「なんだろうなァー、ちょっと思うぜ、ホライゾンドラゴンを倒した後でこいつらが絡んできてくれてよかったってよォ(あんなでかいの操られてたら死んでたかもわからんね)」



気づけばこの平地、ジャントに向かってふらふらと魔物が集まってきているのだ。

スライム、狼、昆虫、鳥、牛、蟹、いろいろだ、十数体の魔物が、ヒナタに惹かれてやってきたのだ。

だがまだ距離はある、モグラの魔物がジャントの足を掴んで動きを止める、という、いかにもヒナタが命じたような動きをしたのを見るに。

ヒナタは精密に魔物さえも操ることができることになる、だが今は遠くの魔物がふらふらと集まっているだけ、足並みも遅い。

恐らく、命令できる範囲は限られていて、まだ魔物たちがその範囲に入ってきていない! とおもわれる。



「ジャント! まず止血だ、僕の体の一部を布に変えて、ジャントの右手と首に巻けば……!」



「いーや、必要ないね、どっち道だ今の俺たちはどっち道なんだ」



「え……?」



なんだ、ジャントは出血でおかしくなってしまったのか、プロトスは硬直する。



「片手で剣を振るうのはハードなことだよなァ、多分次の一撃で決めないと負けだぜ、止血してもしなくてもどっち道、弱ったところをヒナタか、または命令できる範囲内にやってきた魔物に食い散らかされて、オワリになるぜ」



「そんな……! 次で決めるって、ヒナタの弱点は未だ未知だよ! 首じゃないかもしれない! 止血して、逃げる手もあるじゃないか! そうだ、ある! 確実に生き残れる手があった! 逃げる!」



「なぁプロトスよォ、OPTって組織はたしかこのヒナタっていうオーパーツを集めてンだよなぁ。こんなアブねーモンを集めまくって、アブねー人間に使わせて、アブなくねー俺たちみたいな冒険者を狙ってきてるわけだ、悪者だよなーこいつらァ」



「ジャント、息が荒い! 出血のせいか、おかしくなってるかも、ヤバイよ早く逃げよう!」



「例えばよォ、このヒナタってやつを完全にぶっ壊して、OPTとかいう組織がやりたいことを邪魔してイジワルしてやったらよォ、悪者の邪魔をするってのは、意味あることだと思わね?」



「ジャント……」



「アハハハ死ねェ! 死んだ後にあんたのモノ全部搾り取ってやるからァ!」



そこにヒナタが突っ込む! その手には、腕バット二刀流!

ジャント達が話してる間、彼女はもくもくと自身の腕を折っていたと思われる、酷い話だ!



「ジャント! くる! 一撃だ、次の一撃で勝負が決まる! 鬼神色は四色だ、赤青黄紫ナニにする!? 選ぶしかない、時間がないけど選んでッ!」



「鬼神色は青だプロトス! あのくそったれゼットと同じく青は氷だぜ!」



選んだのは氷! 渾身の力で剣を、左手一本で振るい、ヒナタの胴を真っ二つにした!



「うげえぇ、まだ剣を振るう体力があったのかッ!」



ヒナタは地面に落ちた! ジャントの攻撃が届く所に足元に!

さらに、切断面が凍ってるので治癒できていない、ジャントの恐るべき判断力!



「ウギィイイ! 動けない! 治癒できないッ! このあたしが、ウギギギギ!」



「うらァァ! いい気分はしないが死ねぇー!」



プロトスを棍棒にして、その大きな棍棒で最後の一撃!

ヒナタの頭部を完全に潰した。



ビクビクと動くヒナタの身体は、やがてピタリと動きを止め、しーんとなった。

そののち、その体上半身が蒸発し、姿を消す。



「やっ……た……勝ったんだ! ジャント! すぐに止血を!」



「ああ、頼むぜプロトス、フラついてしかたねェ、立ってるのがやっとだ……」



ひとときの安堵、しかしすぐにジャントは戦慄した。

魔物が変わらずふらふらとこちらに集まってきている。

まさか、ヒナタの力がまだ収まっていない?



「う、うそでしょ……ジャント、逃げよう、もう! 絶対ダメだ!」



プロトスもまた戦慄した、絶望とはこのことか。

先ほど切り落とした、下半身の方、ソレが立ち上がり、治癒能力で回復していっていた。

じきに頭まで治し、ヒナタの甲高い声が聞こえてきた。



「倒せたと思ったァー!? 頭部を壊せば勝ちだって本当に思っちゃった!? きゃははははは!!」



「おいィ……嘘だろ、潰したろ、頭部を……! なんで、下半身の方から復活しやがったッ! なんなんだよッ!」



「あたしはオーパーツ……この世にそぐわない、加工物……! あたしは絶対この世から消えたりしないのよォォ、頭部を壊せば"その肉体は"消失するわァ。でもねその瞬間、あたしの意識ってのは別のあたしの肉体に宿って、復活できるって仕組みよォー! わかったー? 今度こそわかったー? キャハハハハ!」



たしかにヒナタの肉体は姿を消した、だが、その瞬間ヒナタを意識は、別の場所にあるヒナタの肉片に宿り、また復活するというのだ。

先ほど下半身から復活したということは、頭部が無くとも……。

ということは、今までのジャントとの戦闘で切られた手、腕、もしかしたら、地面に擦った事で飛び散った細かな肉片からも再生できるのだとしたら……彼女は不死身。



「ジャントだめだ、彼女には勝てない、そしてもう来た、魔物が!」



入ってしまった、ヒナタの命令できる範囲内に! 魔物達が一斉にジャントへ押し寄せる!

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