第10話『オーパーツ・タイプH その1』

「俺のちからを完全なものにしたいがために、だとォー!」



ただでさえ怪我で体がまわらんというのに、いきなりの告白で思考まで混乱させるとは。

わけはわからないが剣を振るうなら避けるまで、ジャントはスライディングで華麗にかわす。



「ぬゥ!」



すれ違いざまに手持ちの剣で脚、スネの部分を切りつける。

ガクンと腰を落とすゼットであるが、またしてもプロトスの体を利用し、新たな魔術を試みる。



「私単体では扱えなかった魔術……黄色の魔術、電気だ! プロトスはこのように、何色もの性質を宿せる「容量」を持っている! パレットに虹を描かせる事が可能なように、ジャント、お前にもできるはずだ! でなければここで感電死して終われ!」



「うるせぇ! 返してもらうぜプロトォース!」



勝負をわけたのは一瞬だった!

プロトスの性質が電気に変わったそのときだ、ジャントは立ち上がりながら腰に手をやって、何かを投げた!

水筒! 中身は水! 電気を帯びた魔術剣に触れた瞬間、水筒自体が焼け焦げ、飛び散った水がゼットを覆う、水は電気をよくとおすので感電したのだ、ゼットが! これは自滅!



「あぐぅあ! 」



それだけではない、ジャントは一瞬の隙をつき、持ってる剣で思いっきり! ゼットの右腕の宝石を斬る、いや叩き潰すに近い、その腕力で!!

ガラスが割れるような軽快で儚い音と共に、ゼットの宝石は砕け散る。



「お、おおッ! 宝石、宝石が! しまった、こんな、これだけは避けなければならなかったのに!」



「プロトス!」



宝石を砕かれ錯乱に陥るゼットを蹴り飛ばし、プロトスをたやすく奪い取るジャント。

プロトスは次第に落ち着きを取り戻し、元のスライムへと姿を変えた。



「ありが……とう、ジャン、ト」



「いいってことよ、まあどこも異常は無ぇみたいだな、良かった……しかしあいつ、味方っぽい事を言ってたが、ひでぇ慌てっぷりだなオイ、もしかして桃色の魔術をずっと使ってたのは、自分の精神面を抑える為だったってわけか?」



ジャントは桃色の魔術の謎が解け、すこしすっきりしたようだった、しかしなぜだろう。

違和感を覚えた、どうも、辺りの空気が変わったと言うか、なんというか。



「ジャント……そういえばあの女の子は? 辺りに居ないようだけど?」



「え?」



居なかった、ヒナタという少女が姿を消したのだ。

そういえばあの少女、ゼットより先にジャントの元に辿り着いていたな、ゼットのことを慕って、愛してる風だったが……。

単独行動をしていたわけだ、内心離れたがっていたりしてな。

戦うなという彼の命令を一度無視してたし、まあゼットを傷つけられて怒っただけかな。



「ジャント……俺の言いたいことは伝わったか、気の話を。お前には才能があるということだけでも伝われば、それでいい」



「お、おう、なんだ急に落ち着いたなこいつ……でよ、お前の連れが居なくなって……」



「これは願いだ、すぐにきいてくれ"全力でここから逃げろ"ヤツはまず抑え付けていた俺を狙うはずだから、時間はある、逃げろ!!」



「な、何言ってる? ヤツってなんだ、誰も居な……」



「ぐンぎゃアアァッ! 」



痛烈な叫び声、それはゼットの声!

彼の胸部を何かが貫いている、あれは手、それもか弱そうな小さな手!

その手が、ゼットの胸を貫き、血で赤く染まっている!



「な、どういうことだ、何が起こってんのかわかんねぇ……ゼットを貫いてんのは、さっきまでゼットの味方であったはずの、ヒナタとかいう女の子じゃアねえかー!」



「生命力返せエエエッ! キャハハハハ!!」



ゼットを襲ったのはヒナタであった! 全員の死角になる位置を音を立てずに歩き、まずゼットを襲ったのだ、呼吸の音すら一切たてずに!

態度も豹変! 先ほどまでのおっとりした表情など無し! 人ならざるもの、悪魔の笑顔と言うか、とにかく狂気感に満ちている!

さらに怖いのは彼女の舌、腰の部分あたりまで伸びた長い舌、先は二手に別れており、真っ赤な長い針が先端についているのだ!



「ジャント見て、あの舌の針をゼットに突き刺しているゥ!」



ゼットからなにかを吸い取っているようだった、途端、推定20代前半であろうゼットの見た目が、おおよそ40代まで老けたのだ!



「あたしのチカラを勝手に使って若返りィ!? ふざけんじゃあねェー! 気に食わねー! ニンゲン風情があたしを使うだなんて、ニンゲンはあたしが使う側なんだよボケクズがァー!!」



「げェー! きたねぇ、なにがってそりゃあいつの言葉遣いだ! あれがあいつの本性だっていうのか!? なんだっていきなり……まさかッ!」



「に、げろ、ジャント……」



「うるせぇちくしょぉー! プロトスいくぞぉぉぉ!」



ジャントはゼットを無視した、一気に詰め寄りヒナタの腕を落とす!



「痛アアァッ!」



その後すぐにプロトスを棍棒に変形、ヒナタを吹き飛ばす。

岩に激突し、地面にちからなく落ちた、並の人間なら身体中骨折しているところだろう。



「おい都合よく死んだりすんじゃあねーぞ! 教えろ、分からんことが多すぎる!」



「ばかな、逃げろと……言ったろう、が。あいつには勝てん、あの宝石で、桃色の魔術で本性を封印していた、が、もうだめだ……」



「やはりか、あの桃色の魔術は、あの女の子を止めておく為……しかし、何故俺を成長させようとしたんだ、力の使い方とやらを……俺になんの義理があるってんだ?」



「義理……ではない、俺はお前たち冒険者に希望を見出した。あの、巨大な魔物を倒したお前たちに、希望を……くく、贅沢かもな、魔術なんていう数奇な奇跡のようなものをもっておきながら、希望を求めるなんてな。私はあの魔物事件の際、家族ともども殺されてしまった、者だ」



「死んだァ!? おいィいやお前生きてんだろォ!」



「偶然だ、偶然、彼女……オーパーツタイプHヒューマンのヒナタに生き返らせてもらった、組織OPTのボスの計らいでな、私の魔術の力を利用するために、私は生かされたのだ」



「なんだってェー!(そうか、どうりで腹に風穴空いてたのか!)」



「ジャントよ……逃げないというのなら、ヤツと戦うつもりか……気をつけろ、ヤツは人間がもつ特色を扱う、生きたオーパーツだ……! "持ち主"にされるなよ……! ごふっ」



「キヒヒヒヒィアアアッ!!」



衝撃の事実、あの女の子ヒナタはオーパーツだった、皮肉にもプロトと同じ、生きたオーパーツ!

人間という特性を持ったオーパーツ、だがしかしッ! 彼女に人間性は微塵もあらず!

今ジャントの背後に立っている! 長い舌をうねうねと操りながら、高笑い!



「ジャント……もう傷が完治してるようだけど、彼女……」



「プロトスくん、やっぱり逃げた方が良かったのかな、俺ェ…」



タイプH・ヒューマンは生きているオーパーツ、その性質は残虐そのものだった。

オーパーツというものは本来、能力者である人間が"使う"もの、だがタイプHは違う、人間を殺し養分を吸い取り、人間性というやつを高めていた。

タイプHの餌食として人間が”使われて”しまうのである。



彼女が従う人間はこの世でただひとり、組織OPTのボス、ただその一人だけだ。



だが、組織のボスはあえて、オーパーツタイプHをゼットに受け渡した。

ゼットは、オーパーツタイプHの残虐性を見て何故か傷心した、ゼット並の魔術の才能があればタイプHの残虐なちからも使役できるはずだったのに。



……皮肉にも、タイプHはゼットの亡き妻に似ていたのだ。

魔物に襲われ死んでしまった亡き、妻に。



ゼットは彼女に妻の名前"ヒナタ"を名付け、桃色の魔術で彼女に善の心を植え付けようとしたのだ。

ひとときは成功した。彼女は人間的な癒しを人に与えられるようになったし、自身がもつ治癒能力を他人にも使え、驚くことに人を若返らせる力ももっていた。

ヒナタは人を助け支える、ヒトとして相応しいモノになっていた。



これがオーパーツだ。オーパーツは争いを生むものではない。ましてや、ボスの野望を叶えるものでもない。

世界平和に使えるものに違いない、死んだものさえ生き返らせるヒナタのこのパワー、そうとしか思えん。



だが、ヒナタは彼の魔術の範囲外に出れば本性をあらわす、人を殺し養分と精神を吸い取る、人間的な悪のみを蓄えている……。

狡猾、卑怯、嘘、独占、欲望、彼女はヒトに使われることをきらう、逆にヒトを本能でころす悪魔。



やはりダメか、オーパーツに眠る悪意を内に閉じ込めるなどとうてい……。

妻の面影を追って、おろかなことをした、オーパーツを抑え込もうなんて、俺の自己満足のせいで。

世界平和だなんてのは言い訳なのかもな、俺はただ家族が欲しかった、もうこの世に居ない家族が。

彼女を救うには、殺すしか、ないのかもしれない……タスけてやってくれ、死んだ身でありながらの、最後の、よくばりな願いだ……。



「戯言を……丸聞こえだぜ、独り言なら聞こえないように言えってんだ、なぁプロトス」



「とか言って、しっかり聞いてあげてるじゃん。ジャント、逃げる気は無いんだね?」



「このジャントがなァ、オンナが怖くて逃げたとあっちゃぁ、かわい子ちゃんに軽蔑されちまうかもしれねぇじゃあねえか! 俺はムカついてんだ、プロトスを使えてねーとか言われるしオンナに弄ばれるわ、勝手に戦う流れにされたりとかでなー!」



「イッヒッヒ、あんたがあのクソみたいな宝石壊してくれて助かったぁ! ジャントとか言ったっけぇ? 感謝してるよぉ!? 一発くらいヤラせたげよッかぁ!? アッハハハハハ!!」



「正気の沙汰じゃねェぞこりゃぁ……」



ヒナタは笑いながらジャントに向かい飛びかかる!

彼女の特殊能力、それは異常な再生能力だ、腕を切り落としても骨を折ってもたちまち治ってしまう、すぐに!



「速ァ! あぶねぇ!」



ヒナタの、着地のことなど全く考えてない全力の、殴り!

ジャントは素早くかわしたので、ヒナタは思いっきり地面に腕を叩きつけることとなる。

腕が折れてしまい、 皮膚から骨が飛び出るほどの大怪我……。

だがヒナタは意外にも、その腕を治すのではなく、ひきちぎった!



「げ、げえ! まじか!」



驚くジャントをよそに、ヒナタの腕はすぐに完治する!

だがもうひとつ驚くことが! ヒナタが自分でちぎった腕、体から離れてしまったはずのソレも、骨だけ、肩の骨まで! 骨だけ! 治癒されたのだ!



「あんただけ剣持ってちゃぁ卑怯でしょぉ? というわけで私も武器っ、えっと、腕バットとでも言おうか?」



簡単に説明すると、ヒナタの腕はきっかり二本。

で三本目、さっきちぎった腕を右手に持ち武器だとおっしゃっている。

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