第7話 鬼神色と魔術でバトル色 その1


「や……やった! シェーヌさんやりました! 勝ちました! 良かったっシェーヌさん、死ななくて良かったぁ、良かったよぉおお!」



「ちょ! エルス! 泣いて抱きつくのはいいけど鼻水! 鼻かみなさいちょっと! ていうか私けが人だからっ! あばらとかイってるアレだから!」



勝利の余韻に浸り、号泣しシェーヌに抱きつくエルス、勝利が嬉しいというよりは、シェーヌの死が何よりヒヤヒヤした、それが怖かったようだ。

一方シェーヌの頭は疑問符でいっぱいだった、彼の発言……死を超越、オーパーツ、神に選ばれし……そして組織OPT。



「とりあえず殺さなかったけど、どうしようかしらね、あいつ」



「……私が引き受けよう」



突如声がする、前方、マドウのすぐ横。

先程まで何も無かった空間であるはずの場所、そこに人物が現れた。

黒装束に身を包んだ怪しい人物、ハードを深く被っており顔すらも認識できない。



「誰よあんた!」



「それは名乗れない……しかしこの者が失礼をしたな、シェーヌ」



黒い男は手も触れずにマドウを宙に浮かせ、右腕を掲げる。



「どうして私の名を……!」



「……いや名乗っておこう、私の名はZ(ゼット) お前の相手はまた次だ、私は新たなオーパーツを発見した、生きているオーパーツ。その性質は変幻自在、タイプPのオーパーツを!」



全く意味が分からないシェーヌを尻目に、ゼットは右手を光らせ、マドウと共に姿を消した……。



「……シェーヌさん、今あの男シェーヌさんのなまえを……お知り合い?」



抱きついたまま質問をぶつけるエルスだが、それより糸を引いた鼻水をどうにかしろ。



「知らないわね、何あいつは、タイプP……生きているオーパーツ……さっぱりだわ」



ただ呆然とグルンガスト教会を見つめるシェーヌ、その時、大きなカラスが教会の鐘に激突し、数十年鳴らなかった教会の鐘がその音を響かせた。



ところ変わってここはどこかの平地、凶暴な魔物が登場する危険地帯的なエリアである。

なのでここ付近には村や町が無いのだ、しかしそんな場所に!

青年がひとり! 名をジャントと言う。



「ここら辺だったよな〜ヤツが出てくるというウワサの場所は」



銀色の髪を風になびかせ (毛量が無駄に多いのがちょいとした悩みで)その見据える先には巨大な魔物一匹。ここら一帯を牛耳るボス的な魔物、ホライゾンドラゴンがのしのしと歩いていた。



「おお、こいつがホライゾンドラゴンってやつか。噂通りのデカさだなプロトス!」



随分好戦的な性格のようだ。そしてさきほど、プロトスという名を口にしたようだが彼の周りには誰も居ない。



「ゴルボアアアアア!!」



数秒の睨み合いに痺れを切らしたのか、ホライゾンドラゴンが咆哮をあげながら突撃してくる!



「くるよ、ジャント!」



「おうよ! 見せてやるぜ大剣を軽々扱う俺の腕力による剣技!」



「ちょっとくどいよ」



今起こっている事をありのまま話すと、ジャントが持っている剣が喋った!

剣が喋ったのだ! 先ほど呼んだプロトスという名はこの剣に"なっている"ものの名前だったのだ!



「いくぜプロトス! 紫色の「鬼神」の力を剣に宿す!」



そう言うと一瞬、ジャントの体が紫色に光ったかとおもうと、ジャントはおもむろに手に持つ大剣、すなわちプロトスをぶん投げた!

ホライゾンドラゴンの頭部に当たるッ! 刺さるッ! だが奴の突進力は収まらないので、素早い身のこなしで軽やかに避ける!



「ハッハー、やったぜ!」



簡潔に言うとジャントの能力は「鬼神色の力を体に宿す能力」

赤、青、黄、紫の四色のパワーを体に宿し、なんらかの物体にそのパワーを送り込むことで初めて鬼神パワーを使えるのだ! さて紫色の鬼神パワーの効果は!



「ドラゴンは魔物の中でも攻撃力、タフさ! あらゆる面で上位の厄介な奴だ! だがここは平地! 平地住みの魔物となれば強力な装甲を持つ物や炎や雷の属性を使う魔物は滅多にいねぇ! 平地で生きていくには不要なものだからな! 要は俺の剣があっさり通る相手! となればプロトスの体を伝わり発現する「毒」も通せるってわけさ!」



そう毒である。それこそが紫色の鬼神パワー。

その言葉通り、ホライゾンドラゴンの体には毒が回り足元がおぼつかなくなったのち、大樹にぶつかり動きを止めた。



プロトスはと言うと、剣の形からスライムみたいなまるまるしたスライムみたいなスライムになってジャントの元に飛んできた。

実はこのスライムみたいなやつがプロトス本来の姿なのだ、普段はこのスライム形態、またはベルトにへんしんしてジャントと共に旅をしているのだ。



「よしとどめだ! いくぞプロトス、赤色の鬼神パワーを流し込む!」



「りょうかい!」



再び大剣に変化したのち、お次は剣に炎が灯り (言わずもがな赤は炎だ)ホライゾンドラゴンの背後から渾身の一撃をお見舞いする。

決着はついた、ホライゾンドラゴンはしんだ。



「やったぜ」



「やったね、あとはギルドに戻れば生活費が手にはいるよっ」



「うむ、今俺たちがこのホライゾンドラゴンを狙って退治したのは、俺が無駄に好戦的だからではないのだ。一部の町にはギルドと呼ばれる施設があり、ならず者とされた厄介な魔物を倒す依頼を取り扱っている、俺たちは生活費の為にあのドラゴンを倒したのだ」



「誰に喋ってんの、ジャント」



プロトスのツッコミをスルーして、うーんと伸びをしたあと元来た道を引き返しグルンガストという町のギルドへ報酬を受け取りに向かうジャント。

そんな彼の目に何かが写った、あれは……人!



「あれ、ジャント! あれ、人じゃない? しかもふらふらしてるよ!?」



「いや、ただの人じゃねえ! あれは……!」



「え、ジャント知り合い?」



「女の子だー! しかも可愛いっ! この数十メートルははなれてる距離からでも分かるぐらいにッ!!

俺ぐらいの変態になればあの子の本質すらも分かるぜ! 俺に気がある! その証拠にこっちに向かって歩いて来てるぜーッ!!」



「……は?」



「プロトスくん! ボーッとしてはおられん! 早くドラゴンに変身して彼女の元へ向かうぞ!」



「なれねーよ、僕がなれるのは簡易な物質だけだい、この変態!」



「ドラゴンになれる者だっているさきっと! そうあんな可愛い子が目の前に居さえすればぁ!」



ダイレクトなツッコミにも動じないまま、女の子のもとへと走るジャント。

その速さたるや、まるでジャントが走ってる程のスピードだ。



「もうどうでもいいや、とりあえず魔物に間違われると困るしベルトに変身しておこう…」



プロトスはジャントの腰に巻きつく。

巻きつき終わると同時にジャントが女の子の目の前に辿り着いた。

綺麗な黒髪で、頭には花が沢山ついた髪飾りをしている。

ふらふら歩く彼女は疲弊しきってるように見えた。



「はあ、熱い、水……水くだひゃい……」



「大丈夫かい、きみ名前は? 俺はジャント」



「おいジャント、仲良くなろうとしてないで水与えなよ」



ベルトになったプロトス、ベルトプロトス、ベルトロスがちゃっかりツッコミを入れる。



「あっ、そうかそうだな、俺の飲みかけだけどいいかい……」



ジャントが腰のホルダーに下げた水筒を取り外して彼女に飲ませようとした瞬間。



「熱くてふらふらなんです……もうだめぇ」



ジャントの胸に顔をうずめ、ぴったりもたれかかってきたというのだ!

ジャントは風になった。



いやなってない、女の子と付き合った経験もなく、あぁ手をつないだ事はあるが、いつの昔の話だったか……。

次の瞬間、ジャントが取ったのは敬礼のポーズであった。



「もうこの世に悔いは無いズラ」



「ジャントっ! そんな語尾今までなかったでしょ! しっかり!」



「もう、うごけない……く、くちをあけるから、あなたが、私の口に、飲ませて?」



ジャントの服をきゅっとつまみながら、上目遣いでその小さな口をゆっくり開く彼女。

なぜか目を瞑る、なぜ目を瞑るのか、ジャントには分からなかった



「わ、わかった、ちょ、ちょっと待ってろ……おいィ手が震えて水筒が開けらんねーぞォ」



「ああもう、しかたないなあ!」



巨大な魔物に対する威勢のよさはどこへやら、今ジャントは目の前の女の子に苦戦していたッ!

そこにプロトスが力を貸す。ベルト状態のまま器用に水筒を開けて見せたのだ。

そしてジャントは飲ませた! 水を! 女の子に飲ませた! 初めての経験に胸が踊る!



「ぷあっはぁー! 生き返ったぁ…ありがとうございますっ」



「お、おう! いいってことよ、ところできみ名前は? と、いうか、もうくっつかなくてもっいいんじゃあないかな!?」



「私は…エッチ…」



「えっ」



「私、エッチなんです……だから、あなたを」



「えっなにそれは…… (歓喜)」



突然の告白(?)に言葉も思考も詰まらせるジャント。

こういうコトは、こんな見通しの良い平地で言うコトなのか、ふつうはもっと狭くて薄暗い……。



「ヒナタ……何をやってる」



突然背後から声が、驚くジャントは即座に背後に目を向ける。

そこには黒いローブ? に身を包んだ怪しげで長身の男が立っていた。



「なっ、誰だ!? 気配が全くしなかった……!」



「あっ、ゼットぉ~っ、遅いですよぉ~」



先ほどからジャントにくっついていた女の子、名前をヒナタと言うらしい。

その男の顔を見るやジャントからあっさり離れ、男に抱きつく。

ヒナタが呼んでいる名によると、彼の名はゼットと言うらしい。



「は?」



「ジャント、こいつが失礼をしたな」



プロトスは小声でジャントに質問を投げかける。



「ジャントの名前を知ってる…? ねえ、知り合い?」



「んーっ、ゼット良い匂いっ 大好きっ♡」



「だらっしゃーいッ!! 彼氏もちかァ! 俺の儚いトキメキを返せってんだ!」



近くにあった石を蹴り砕き憤慨するジャント。



「ジャントくん……」



悲哀の感情を込め名を呼ぶプロトス……。

この哀しい空気、どうしてくれよう。



「ところで先ほどの戦い、遠くから観戦させてもらったが、そうかその腰に巻いてるのがプロトス……つまりはタイプPのオーパーツか……」



「何? こいつ、プロトスの存在に気付いてやがる……ベルトに変装してるのに、てかおーぱーつ? なにそれ」



「ジャント……彼はこの僕を狙ってやってきたかもしれない……」

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