第4話 アクアフェイト その2

一目散に逃げていく2名を視界に捕らえ、レイターはため息を吐きつつ顔をしかめる。



「やれやれ、能力者でしたかやっぱり……回避だけではなく攻撃もできる、か。逃がしてしまうといろいろと面倒なので、いたしかたありませんね……」



すると徐に左手の武装を前方、トシマ達の逃げた森へ向ける。



「デュアルレール展開…出力は6400メガジュールで射出……」



何やら難しそうな事を言ってのけると、左手の武装がパカっと開き、変形する。



「"水圧式レールガン"……発射……!」

  


次の瞬間、凄まじい轟音が起きる。

鼓膜が破裂するほどの轟音、そして森は木々が吹き飛んでいた。

それも、レイターの前方一直線だけ、キレイに木々が消失し、更地となっていた。

 


「ガッハァ……なにが起きやがった、クッソいってェ……!」



「く……ガレン! 大丈夫かしっかり!」

 


先ほどのレイターの攻撃により、森の中に逃げ込んでいたはずのトシマ達は吹き飛ばされ、ガレンは打ちどころが悪く大きく負傷していた。

相当の攻撃力、レイターというこの女、相当の攻撃力を持っている!



「ふむ、おかしいですね、二人ともまだ呼吸をしている、運動も問題なく……つまり死んでいない、破天荒なことですね、私が仕留めそこなったということですか」



ガレンを抱えるトシマへと、足音を立てて近付きながら、レイターは顔色ひとつ変えず喋る。



「あ、あんた、一体何を!?」



「言ったでしょう、水圧式レールガンだと」



「聞こえるか! 俺逃げてたからあんたから遠くにいたから!」



ふと背後を見ればガレンの傷は相当のものであった。

それこそ、全治うんヶ月は必須なほどの、体が動かせないほどの。



「ガレン、今はゆっくり休んでて、とりあえず今はこの人をどうにかしなきゃ……」



交戦的ではないトシマであっても、戦わなければならない状況が訪れた。

今はガレンの為に、目の前のレイターという人間と戦うしかないのだ!



「私が左手に装着したこのカラクリはオーパーツ。現代の技術では説明の付かない、場違いな加工品という意味が込められている名称です」



「え?」



「私のオーパーツは通称”リヴァイアサン”と呼ばれている、まあ私が名付けたんですが、最大必殺は水圧式の電磁砲であります、理解できましたか?」



「全然……ていうか、別に聞いてない……?」



「ええ、でしょうね、馬鹿には理解できないように説明しましたから」



トシマは確信した、この女、聞いてもないのに、一見丁寧な口調ではあるが滅茶苦茶に煽ってくれている。

短気な人間なら顔が真っ赤になってコントローラーをぶん投げて壁ドンしまくるレベルで煽ってくださっている。

が、トシマは人格者なので平気である、ストレス耐性は宇宙飛行士並にある、メンタリストの鑑だ。



「くっそー! いらつく! そのしゃべり方やめれよ!」



案の定3行目は嘘です、とにかく相手が殺気立っている以上トシマもずっと温厚に、とはいかないのだろう。

第一ガレンがやられてしまっている、その時点で温厚じゃあない。



「私の手の内は明かしましたよ? トシマら次はあなたの能力を……」



「うるさいなぁ! こっちは買い物行きたいだけなのに!」



トシマは右手を前に突き出し、手の平の上にボール状のモノを生み出した。



「ん、それがあなたの能力ですか? まさか空気の圧縮……? 可視化できると言うことは相当の圧縮係数……」



「そっちがやる気だって言うならこっちだって! おらー」



素っ頓狂な声を上げながら、謎のボールをレイターにブン投げる。

トシマは肩の力が弱いので、さほど距離は出ないが、レイターは近くに寄っていたのでぎりぎり当たる距離だ!



「無駄ですね、その手の技法は私にもできますから」



レイターは右手から水を吹き出し、それを圧縮された水の塊にする、水爆弾と言ったところであろうか。

それを投げる、水爆弾はトシマのボールとかち合い、どちらも爆発し相殺された。



「トシマァ……俺の事はほっとけ、勝ち目なんてねぇ、なんだ今の"技の弱さ"……お前、対人戦慣れてねぇから、手加減しちまったか、ヒャハハ……なんにせよ、お前だけでも逃げた方が利口かもしれねぇぜ……!」



「ガレン……ありがとう、そうするよ!」



「薄情者の鑑だなテメー!」



「茶番はお済みになられましたか? では、私の技で仲良く冥福へといざなってあげましょう……短き、とこしえの友情、面白おかしく拝見させて貰いました、では……」



言い争う? 二人に先ほどと同じく機械を向け展開させる、この距離で先ほどの”水圧式レールガン”を放とうと言うのだ。

あれほどの威力がありながら、何度も放てるとは、攻撃面に関しては最強の能力者と言えるかもしれない。



「冗談だよガレン、置いて行くわけないだろ、そうしたら師匠に怒られるしたぶん」



「ヒャハハ、建て前丸出しじゃねぇか泣かすぞ、で、女さんよォ」



「奇怪ですね、魔物のような犬風情が言語を会得していようとは驚きです。で、女さんとは、私を指してると認識してると捉えてよろしいのですか?」



「あぁ、さっき名前聞いたけど忘れたわすまん……とこしえの友情ってのは気持ち悪い表現だなおい、しかし、短い間のとこしえってなんだよ」



「ん……短い間の友情、あなたたちの事ですが? とこしえとは、古くからの付き合いという意味ですが?

 犬には難しい言葉でしたね、これは失礼、慎みます……で、その質問は時間稼ぎの為のあらがい……ということですね?」



「……時間稼ぎ、つうか、さっきからまぁ、言葉の使い方がヘンだからツッコもうか、まいか迷ってたんだがよ。お前が言ってんのとこしえじゃなくていにしえじゃね、とこしえは未来永劫、とかこれからもずっと……的な意味だぞ、短い永遠ってなんだよ、なんにせよコイツとの友情とか、あー気持ち悪いわ」



「うるさいガレン! 永遠の友情とかそんな慣れ親しくしたくはないわ俺も!」



一拍おいて、いきなり甲高い声が上がった、その声の主はガレンでもトシマでもない。



「……ッはァァ!?」



先ほどから丁寧な口調と落ち着いたテンションを”保っていたはずの”レイターであった。

ガレンの指摘に驚いてつい声をあげたのだろうか、目は泳ぎに泳ぎまくっていた。



「いッ、は、それは誤解、ご、へいご……じゃなくてその……」



「語弊な、ごへい、いや使い方間違ってるけど」



「ぅぐッ……!」



「ガレン頭いいんだなぁ、勉強してんの?」



「いんや、師匠とやらの小言とか聞いてたら文豪になった」



「どんなだよ文字かけねぇだろ犬だから」



「黙りなさい犬め!」



レイターは慌てながらガレンに食いつく。レイターはとんでもなく動揺している。

ただ言葉の使い方をちょっと間違えただけでここまで慌てるものなのだろうか、それほど自信があったのか、それほど恥ずかしいのか。



「わ、私の技で二人仲良く冥福へいざなってあげましょう……」



「さっきのくだり無かったことにした!?」



「トシマァー、きょろきょろしてねーで反撃しろって! やらなきゃ、やられんぞォ!」



「そうだ! 音爆弾がまだある!」



「いや俺耳ふさげねーからやめれ!」



「くっそ! じゃあ捨てるよ! ソイヤ! ……ガレンを守りつつ、それでいてあの女のひとをどうにかしなきゃいけない! ぅわーこんなピンチ半年前思い出すなぁもう!」



「水圧式レールガン、発射!」



トシマがもたもたしてる内にレイターの攻撃が! これはもう終わった、だってさっきの威力眼前で受けたら死ぬ。

たとえ主人公補正があっても流石に死ぬ、そう思ったトシマ達だったが……。



「ば、ばかな、何故私のレールガンが射出されない!」



左手のオーパーツとやらから射出されたのは先ほどのレールガンではなく、ただの水がどばどば流れ出るだけであった。

レイターはなんか叫び出す。



「くっ、そうだった! このオーパーツは精密な操作が影響するから精神がふぁん、不安定だと! 圧縮がちゃんと上手くいかないからレールガンがしゃしゅちゅ、しゃす、射出されないんでした! 今の手元震えまくり、焦点ぶれぶれの私じゃあ水をぽたっぽ、ポタポタ垂らすしか能がないんでした!」



「全部声に出して説明しやがった! ていうか滑舌わる! ポタポタって、擬音で噛むってどんなだよ! 言いやすい擬音でよかったろ! てかそんな不安定な状態で1人でよくマシンガントーク並みの説明セリフできたな! ていうか俺別にツッコミキャラじゃないからこんな長く突っ込ませないで! ていうか息継ぎしてないから死ぬ!」



両者勝手にベラベラ喋ったもんであるから、肩で息をしながらばて気味であった。

しかし少しの間を置いて、トシマはひとつの結論を導き出した。



「ふぅ……とにかく、そのオーパーツが使い物にならないということは、もう危害を加えることはないってことだよね? こっちも疲れてきたし、俺の命を奪わない、もう狙わないって約束するってなら逃がしてあげるよ」



「え? な、何故です、私はあなたの命を狙っていたのに……!」



「お、おいトシマ、キャラが立ってないからって無理に主人公みたいな余裕を出すなって……」



「うっせ。いいんだ、でもこれで……できれば人とは戦いとうないし」



「……感謝致します、ありがとうございます、約束します。このたびは失礼しました、トシマ」



「すげぇなトシマ、話し合いで解決するなんてな。さながら勇者のごとくだぜ」



「勇者かどうかはしらないけど、まあいいよ、ガレン立てるか? いや無理そうだね……」



戦闘が不可となったレイターと戦う必要はない、ならば逃がしてやろうというトシマの粋な計らいだ。

平和的解決、それは成功した、この世に平和が訪れる。



……はずであった、ガレンの介抱をするため背を向けているトシマを見て、ニヤリと笑ってみせるレイター。

オーパーツをつけていない右手、そこから水を吹き出し、圧縮したボールを作り出す。



そう、オーパーツの能力である水圧式レールガンや、水による銃撃は、精神の集中が必要だ……だがしかし、レイター自身の水を出し圧縮する持ち前の能力自体は難なく使える! 先ほどと同様、レイターが作ったのは高圧縮で爆発を起こす水爆弾だ!



「甘いんですよトシマ! 脅威となる存在はさっさと息の根を止めておかなければ

 その御首を晒すことになる! 息絶えて死ねぇぇぇぇえ!」



「げェッ! トシマ! 後ろだ!」



迫りくるレイターの奇襲、完全に背後を向けていたトシマ、はっと振り向いたときにはもう回避などできる体勢ではなかった。

が、突如閃光が響き爆音が鳴る!



「うるさっ」



全員が同じセリフを吐き出した、それもそうだ。

なんとさっきトシマがソイヤ! つって捨てた音爆弾をレイターが踏んだのである。

いきなりうるさくなるもんだからレイターはバランスを崩して膝を付いてしまう。



「しまった!」



「い、今だ! おらぁぁぁ!」



トシマは能力でまたもあのボールを生み出し、持ったままレイターを狙う!

レイターもまた、不安定な体勢のまま水爆弾を投げる! 先ほどと同じ状況、また相殺し、戦いは振り出しへ……!

そうなってはレイターの精神が落ち着いたとき、水圧式レールガンの第二撃が訪れる恐れがあるので、トシマが不利になる!



「違うね! 俺の本気の能力なら! 水を渦巻きにすることができるッッッ」



だが、そうではなかった! トシマのあのボール……つまりは球。

それはレイターの水爆弾に当たった瞬間、水爆弾は"回転"して、空中にバラバラに分散して消えたのだ。

前に投げたボールは、ガレンが言っていたとおりの手加減していたボール……だが今回はトシマの本気ボールなのだ!



「うそッ! 私の水が! ありえない!」



その水爆弾を破壊したあともなお、トシマの球はレイターに向かって突き進む!

レイターは見た、自身の身にトシマの球が直撃する瞬間に見たッ!

トシマが生み出したこの球、よく見ると"回転"している! 至近距離にして微かに聞こえる、空気を裂くほどの早い音、それほどの回転ッ!

この回転の力が、水を渦巻きにし、分散させたッ! 側面の無い洗濯機で暴れる水のように!



「なんだこの技術は、気の使い手……だがこの回転の技術は一体、何者ッ……ぎにゃああぁ!」



そうしてその事実を把握し、頭で理解するかせずか、一瞬のうちにレイターは吹き飛んだ。



「や、やったな、トシマ……てかもう油断すんなよ」



「ご、ごめん、でもまあなんとかなったし、ね!」



レイターは空中で回転し地面に倒れ伏せ、なんか喋った。



「ばかな……私が敗れるなんて、流石は……最強の能力者、レイジの仲間……! あのアビスをも打ち負かした、そして我々神聖なる神の組織”OPT”に逆らう愚かな男、トシマ、ですか……! ふふ……だが私は幹部の中でも最弱……気をつけることですね、あなたたちのお仲間も一人残らず殲滅されることでしょう……ガクッ」



「トシマ、なんか言ってたぞ?」



「え? まあいいんじゃない? あれでもレイジってどこかで聞いたことあるような……ないような……」



「ヒャハハ思い出せないんならそこまで重要なことじゃねーんだろ」



「ウーン……そっかまぁいいや、じゃさっさと帰ろうか、じゃなくておつかい行ってから帰ろうか!」



「おうよ! 俺ポ◯モン赤バージョン買うわ!」



「世界観ぶち壊すなよてか古いよ!」



そうして颯爽と敵を撃破したトシマとガレンは華麗に去って行った。

あ、ガレンはケガしてる設定だった、トシマはガレンを担いで華麗に去って行った。

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