最終話 〖君に出会って思うこと〗

数年後────


「さあ、ゆっくりと後ろに下がって!僕でよかったら、君の話を聞くから!」

学校の屋上のフェンスを越えたところで、少女は叫んだ。目には、いっぱい涙を溜めている。

「嫌よ!私の味方なんて、何処にも居ないのよ!親も話を聞いてくれないし、学校でも独りぼっち!そんな毎日におさらばするんだから、邪魔しないで!」

彼女の体が、ふわっと浮いた。

僕は慌てて彼女の腕を掴んだ。知っている。本当は、死ぬのが怖いことを。

彼女を落ち着かせる為に、彼女の体を抱きしめた。

「味方ならここにいるさ。怖かったね。」

そうして頭を撫でると、彼女は糸が切れたように泣いた。緊張が解けたのか、僕に体を預けてくる。彼女が完全に落ち着くまで、ずっと頭を撫で続けた。


保護した少女が、不安そうに僕を見つめた。

「お兄さん。私……また、会いに来てもいい?」

「もちろん!待ってるよ。」

さっきまで死のうとしていたのが嘘だったように、少女は明るい笑顔を見せてくれた。





仕事が一段落し、休憩室に入ると、先に休憩に入っていた赤瀬さんの姿があった。

「お疲れ様です、赤瀬警部補。」

「あら。お疲れ様、春馬君。」

テレビを見ながら優雅にコーヒーを飲む赤瀬さん。ああ、相変わらずお美しい。

「二人っきりでいる時は、赤瀬さんでいいのに。」

「何言ってるんですか。上司なんですから。」

僕の言葉に笑って、赤瀬さんはまたテレビの画面を見つめた。コーヒーを入れて、僕も椅子に座ってテレビを見た。そこには、目一杯笑っている子供達に囲まれている蒼汰の姿があった。

「素敵でしょう?私の旦那。」

「はい。沢山の子供達を笑わせる姿……かっこいいです。」

画面の中にいる蒼汰の姿は、とても生き生きとしている。とにかく目の前にいる人達を笑わせようとするその姿は、輝いて見える。

「あなたも負けてられないでしょう?」

「……一番の敗北の瞬間は、あなたを取られたことです。絶対許しません。」

「あら。」

僕が机に伏せると、赤瀬さんは上品に笑った。蒼汰のことが凄くムカつくけど、心の底では思ってるんだ。


アイツになら、取られてもいい。


「ところで、蒼汰は今日何処に?」

「地方に営業よ。子供がたくさん来るイベントのゲストに大抜擢。」

蒼汰が頑張っている話を聞くと、とても嬉しくなるんだ。そして、僕も頑張らなくちゃと思える。彼が帰って来たら、また飲みにでも誘おうかな。酒に酔ってる彼の姿も面白いから。


「……彼と初めて会った、あの日を思い出します。僕もコイツもまだガキで、お互いどう向き合えばいいのか分からなくて、結局手探りで。でもコイツのことをちゃんと知った時、僕はコイツを信じることができた。そして、コイツも僕を信じてくれた。嬉しいことも辛いことも、共有できる仲になった。」

僕がそう言うと、赤瀬さんは嬉しそうに笑った。そして、愛おしそうに画面の向こうの斎賀を見つめる。

「あなた、旦那の話をする時楽しそうよね。本当に仲がいいのね。」

赤瀬さんの言葉が、とてつもなくくすぐったい。

「あはは。だって、彼は……。」

でも僕は、恥も感じずに言えるんだ。これからも大事にしたい言葉。心から、言える言葉。




「僕の大事な親友ですからね。」


END

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君に出会って思うこと 詩渚 @si-na_novel

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