十四話 〖みんなの気持ち〗

高校の傍にあるファミレス。そこは、いつもより賑やかだ。一つのテーブルを他のお客も見つめている。


「負けた!もう少しで追いつくと思ったのに!悔しい!」

柴原がテストの解答用紙を握りしめて、テーブルに伏せた。彼の目の前では、斎賀が得意げに自分の解答用紙をヒラヒラさせている。

「残念だったな、春馬。そう簡単に俺には追いつけねぇよ。」

「う〜。次は絶対負けないから!覚悟しといてよ!この木偶の坊!」

「楽しみにしている、チワワ。」

「チワワじゃない!」

二人は期末テストのことで、会話に花を咲かせている。相変わらず、学年一番の斎賀。斎賀に追いついてみせると勉強を頑張った柴原は、学年で五位にまで上り詰めた。

余裕そうな斎賀と切羽詰まった柴原。そんな二人の元に、いつもよりも女らしい服装をした赤瀬がやってきた。

「お待たせ、二人共。あら、期末テスト?懐かしいわね。……そうね。あなた達頑張ったみたいだから、何でも好きなもの頼みなさい。」

柴原と斎賀は、顔を見合わせる。そして、クスッと笑った。

「「赤瀬さん、当たったんですか?」」

「……。」

赤瀬は笑顔で、両手を使って〝7〟を作った。すると柴原と斎賀はまた顔を見合わせて、笑顔で赤瀬を見た。そして、ペコッと頭を下げる。

「「ごちそうさまでーす。」」

(仲が良いわね。)

赤瀬は呆れたように笑った。




ある日の放課後、柴原は全力疾走で警察署へと向かった。

(この時間、赤瀬さんの上がりの時間なはず。蒼汰に勇気をもらった。だから……僕も勇気を出して、赤瀬さんに好きだと言おう!)

今柴原の頭の中では、赤瀬との人生が、老後まで出来上がっている。それを想像するだけで、柴原はニヤニヤが止まらない。


(あれ……?)

警察署の目の前で足を止め、近くの影から覗いた。そこには、映画の撮影でも始まりそうな二人が立っていた。

(赤瀬さん。それに、どうして蒼汰まで?)

斎賀を真っ直ぐ見つめている赤瀬の顔は、桃のように赤らんでいた。直視出来ない……と、言ったところだろうか。

「突然呼び出してごめんなさい。あの……。」

可愛い……と柴原は思ったが、その幸せはすぐに崩れることになる。

「私、あなたが好きよ!一目惚れだったの!私の恋人になって!」

赤瀬の言葉に、柴原の人生設計図が一瞬にして崩れた。

柴原の目の前で、斎賀が赤瀬のことを抱きしめた。そして柴原を見て、ニヤリと笑った。

同時に赤瀬も柴原を見て、顔の前で手を合わせた。

「ごめんね、春馬君。」

口パクで、そう言った。


「なんじゃそりゃーーー!!」

柴原は空に向かって、叫んだ。その声は、遠く遠くまで届いたという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る