十三話 〖友達になってください〗
先程までまだ赤みを残していた空も、本格的に黒くなってきた。けれど二人は、時間も気にせずに原っぱで横になっている。そして、時々顔を見合わせて笑った。
それを繰り返していると、ふと柴原が斎賀に訊ねた。
「ねえ、斎賀君。斎賀君の将来の夢も、聞いていい?」
少し腫れぼったくなった目を擦って、斎賀はにっこり笑った。
「俺さ……お笑い芸人になりたい。」
「……え!?」
斎賀の意外な応えに、柴原は思わず声を裏返させた。そんな柴原の反応を見て、斎賀が照れ臭そうに頭を掻いた。
「お笑い芸人になって、落ち込んでる人を元気にしたい。……可笑しいよな。俺みたいなのが、お笑い芸人とか。」
「んーん!そんなことないよ!僕、君を応援する!大丈夫!斎賀君なら、天下取れるよ!」
自信たっぷりな柴原を見て、斎賀は「うん。」と小さく呟いて、笑ったまま下を向いた。小さな雫が、ポタリと垂れた。
「はー。なんか、斎賀君って呼ぶの、よそよそしくて嫌だなー。ねえ、蒼汰って呼んでいい?僕のことも、春馬って呼んでよ!」
柴原の提案に斎賀の表情が、ぱぁっと明るくなった。斎賀のその表情を見て、柴原も満足そうだ。
「じゃあ、改めて。」
そう言って、柴原は手を差し出した。
「僕と友達になってください、蒼汰!」
「……こちらこそ、春馬。」
二人は握手を交わし、どちらからともなく手を離した。そして拳を作って、お互いの拳を打ち付け合った。二人は痛みも忘れて、少年らしい笑顔を浮かべた。今この瞬間、確かに二人の間に友情が芽生えた。
二人きりの空間を邪魔してはいけないと、赤瀬がそっと覗いていた。
(これで二人は、最高のライバル……そして、親友になった。友達だって言ってるけど、二人はもう親友よ。これからどんなことがあっても、二人はきっと助け合う。今日の喧嘩で、お互いを庇い合ったように。お互いを信じ合ったように。)
赤瀬が微笑むと、スマートフォンから電子音が流れた。画面を見ると、『早くしろ。』という五文字があった。
「はいはい。」
柴原は少し名残惜しそうに、二人のところへと向かった。
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