十二話 〖君となら〗

警察官の到着により、乱闘は差し止められた。

柴原は先に暴力に走ったのはあちらの方だと、証言した。そして、自分達が手を出したことも謝った。事情を知った警官達は、暴れる他校の生徒達を先に警察署へと保護した。

自分達の番が来るまで、二人は傍にある原っぱに寝そべった。

「いったぁ……。大丈夫?斎賀君。」

「大丈夫じゃない。」

「あはは、そっかあ。」

ふてくされた様子の斎賀に、柴原は笑った。すると、斎賀は尚更頬に空気を溜めた。


少し冷たい風が、二人の頬を撫でた。その時、柴原は斎賀の方に顔を向けた。

「ねぇ、斎賀君。怒ってる?」

「何が。」

「今までのこと。」

何を言えばいいか分からない斎賀は、柴原の目を見た。まるで、チワワの様な瞳。思わず目を逸らしたくなりそうな、パッチリした目が、しっかりとこちらを見つめている。

「……怒ってないよ。」

「そう。よかった。」

そう言って、柴原はまた空を見上げた。

赤くなった空が、ゆっくりと黒くなっていく。そんな風景を、柴原は幻想的だと思った。


「なあ、柴原君。聞いていいか?何で俺と、友達になろうと思ったのか。」

その問いかけに、柴原は一瞬フリーズした。けれど、隠すことは何も無い……と、斎賀を真っ直ぐ見つめた。

「僕将来、警察官になりたいんだ。立派な警察官になるためには、学生時代からの積み重ねが大事だと思ったんだ。そんな時、君の名前を知った。君は学年で一番頭がいい。そんな君と居れば、色々といい境遇に会うかなと思ってた。」

柴原の言葉に「真逆で悪かったな。」と、斎賀がまた拗ねた。「最後まで聞いてよ!」と、柴原は慌てて言葉を付け足した。

「……そんな時、赤瀬さんに出会ったんだ。赤瀬さんは僕に言ったんだ。君の味方になって欲しいと。僕は赤瀬さんに気に入られたい一心で、君と友達になろうとした。」

斎賀の表情が、段々と曇る。「でも。」と、柴原はまた言葉を付け足した。

「君と一緒にいて、君のことを沢山知って……そうしていくと、僕の気持ちは変わっていったんだ。赤瀬さんの為でもない、自分の為でもない。僕は、君の為に友達になりたいと思った。」

曇っていた斎賀の表情が、柔らかくなっていった。そんな斎賀を見て何を思ったか、柴原が体の痛みを無視して起き上がった。

「そうだよ!僕達、これからは支え合って行こうよ!さっき言ったこと、嘘じゃないから!僕は本当に、君とならどんなことだって、どうにかなりそうな気がする!」

「ほ……本当、に?」

斎賀の目から、次々と涙が溢れてくる。

「本当だよ。君に嘘なんてつかない。」

斎賀はぐしゃぐしゃな顔のまま、柴原を抱きしめた。柴原が見たことないくらい、斎賀は大泣きした。拭っても拭っても、拭いきれない程の涙を流した。今まで流しきれなかった分も、全部絞り出すように。

「斎賀君……泣きたかったら、全部出していいんだよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る