十話 〖勇気〗
翌日の放課後、柴原は昨晩撮った動画を持って、赤瀬の配属されている警察署へと足を運んだ。その動画を署長に見せて、斎賀は完全なる被害者だということを証言した。柴原の撮った動画を見て只事では無いと思った署長は、すぐに児童相談所に申請を送った。
「助かったよ、ありがとう。」
「いえいえ。」
深々と頭を下げる署長に、柴原は慌てて手を振った。そして署長が頭を上げたのを見て、今度は柴原が頭を下げた。
「斎賀君のこと、よろしくお願いします。」
そんな柴原を見て、署長はもう一度、深々と頭を下げた。
「……あっ。」
柴原が警察署から出ると、警察署の前には赤瀬と斎賀が立っていた。
二人が並んで立っている姿を初めて見た柴原は、思わず口をポカンと開けた。まるでこれから、モデルの撮影でもあるのではないか?と思わせる風貌だからだ。
「余計なことしてんじゃねぇよ、不法侵入者。」
斎賀が、柴原を睨みつけた。その顔を見て、柴原もハッとする。
「こら、蒼汰君。」
赤瀬が斎賀の背中を叩くと、斎賀はきまり悪そうに頭を掻いてから、ペコッと小さくお辞儀をした。
「その、ありがとう……。」
「い、いや。お礼言われる程のことなんて。」
柴原が赤瀬をチラッと見ると、赤瀬は柴原に向き直って、困った顔で言った。
「ごめんなさい、春馬君。先のことを見れなかった、私に責任があるわ。蒼汰君の味方になってもらうつもりで頼んだのに、あなたまで……。」
「そ、そんなことないですよ!赤瀬さんは、何も悪くありませんから!」
柴原は、首を思い切り横に振った。
「春馬君……優しいのね。」
赤瀬の笑顔を見て、柴原の周りにはお花畑が出来上がった。そんな柴原を、斎賀は真顔で見つめていた。
「それじゃあ私、仕事をして帰るから。二人共、気を付けて帰ってね。」
そう言って、赤瀬は小走りで署内へと帰って行った。
「……帰ろうか。」
「ん。」
必要最低限の会話を交わして、二人は歩き出した。
「「…………。」」
会話の無いまま、刻々と時間は進む。他には誰もいないいつもの帰り道を、一歩一歩踏みしめる。
(ど、どうしよう……。何か話さないと。)
柴原がそう思っていると、先に口を開いたのは斎賀だった。
「お前さ、何で俺と友達になろうとしたの?」
その言葉を聞いて、柴原はドキリとした。柴原が斎賀と仲良くなりたかった理由。それは、斎賀の頭が良かったから。
「そ、それは。」
「柴原君。」
斎賀の顔が、サッと急に青くなった。
「え?」
横をすれ違おうとした他校の生徒達に気付かなかった柴原は、思い切り彼らに当たってしまった。相手は恐らく、三年生だ。柴原のすぐ後ろにいた男が、思い切り柴原の胸ぐらを掴んだ。背の低い柴原は、あっという間に足が浮いてしまう。
「いっ……!」
「お前、どこ見て歩いてんだよ。」
怖い風貌の相手を見て、柴原は今にでものびそうな勢いだ。けれど、喉の奥から必死に声を絞り出す。
「す、すみません。」
「すみませんじゃねぇよ!」
背が高くて、目も鋭い。そんな相手に、柴原は怯んだ。声を出したくても、出てこない。体の震えが止まらない。今にも、目から涙が出そうだ。助けを求めようと、咄嗟に斎賀を見た。
(斎賀君……。)
まるで、マナーモードのスマートフォンのように、カタカタと震える斎賀の姿があった。自分以上に怯えている斎賀を見て、柴原はまた彼らを見る。そして、決意した。
(怖がっては駄目だ。僕は将来、警察官になるんだ。そして、斎賀君みたいな子供たちを救うんだ。勇気を出さなくちゃ!)
そう思うと、自然と柴原の体の震えが止まった。今なら、何でもできそうな気がした。
「謝ってるでしょうがっ!!」
柴原は腹から声を絞り出した。
「生意気な!!」
柴原の胸ぐらを掴んでいた男は、柴原の体を投げ飛ばした。
その瞬間、斎賀の何かが切れた。
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