九話 〖彼の見たもの〗
「ええっと、斎賀、斎賀……あった!」
地図を手に入れた柴原は、それを頼りに斎賀の家を探していた。やがて、目当ての建物を見つけた。
「それにしても、ひっそりしてるなぁ。」
柴原は家の周りを見渡して、驚いている。本当に、周りに家が少ない。ぽつんと、小さくも大きくもない一軒家が佇んでいる。
「さて、どうしようか。」
柴原が腕を組むと、なんだか家の中が騒がしいように感じた。周りで見ている人が居ないか確認して、ドキドキしながら玄関の扉に耳を当てた。
(これじゃあ、泥棒みたいだよ。)
そんなことを思っていると、目も覚めそうな叫び声が、柴原の耳に飛び込んできた。
─痛い!痛っ!やめろ、父さん!許して!苦しい!死ぬから!ごめんなさっ!父さん!!
柴原はその声が誰のものか、すぐに分かった。知っている人の声だから、尚更冷や汗が流れてきた。その冷や汗を拭いながら、扉から耳を離した。
「さ、斎賀君?どうしたの?何を、されてるの?大丈夫なの?」
意を決して、柴原はゆっくりと玄関から離れた。そして、家の中を覗くことができそうな大きい窓を見つけ、カーテンの隙間から家の中を覗いた。
家の中の光景を見て、柴原の心臓が大きく跳ねた。斎賀の父親であろう男性が、斎賀の上に乗って、思い切り殴っている。斎賀は痛みに悶絶して泣き喚いているようだ。
(え、何してるの?)
柴原は、頭の中が真っ白になった。
気がついた時には、柴原は公園のベンチに座っていた。自分の手のひらを見ると、酷く震えているのが分かる。
(ああ、逃げてきちゃったんだ。あの状況なら窓でも割って、斎賀君を助けられたかもしれないというのに。僕は臆病だ。)
自分が情けなくなって、左手で自分の顔を覆った。その時、自分が右手にスマートフォンを持っていることに気がついた。
画面を見ると、柴原は動画を撮っていた。斎賀が父親に、暴力を受けている時の動画だ。
(どうしてこんな、胸糞悪いもの……ん?)
スマートフォンの画面を見つめながら、柴原は思った。これ、材料になるんじゃないか?と。
柴原は早速、赤瀬にLINEを送った。
『証拠が見つかりました。明日、警察署に持っていきたいです。実際に見た僕が、証言したいんです。いいですか?』
返事は、すぐに返ってきた。
『分かったわ。明日の学校帰りに、その証拠を持って、警察署までいらっしゃい。待ってるわ。』
柴原はその動画を消さないようロックをしっかり掛けて、暗い道を歩いた。少し涼しい風が、柴原の頬を撫でた。
(斎賀君。僕が、君を助けるからね。)
そう決意して、スマートフォンを握りしめた。
「ぐすっ……はあっ。ごめんなさい……ごめんなさい。許して。」
真っ暗な自分の部屋で、斎賀は独りで泣いていた。ズキズキと痛む体よりも、心の方が壊れそうになっている。
「助け、て。赤瀬さん……柴原、君。怖い……お願い……助けて。痛い、辛い。」
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