八話 〖新たな決意〗
帰り道、むしゃくしゃした柴原は、落ちていた空き缶を蹴り飛ばした。
「何だよあいつら!僕はただ、斎賀君と仲良くなりたかっただけなのに!中澤も赤西も、裏切りやがって!!」
蹴り飛ばした空き缶をゴミ箱に捨てて、イライラをぶつけるように、今度は地面を思い切り蹴った。でも、傷付けるのは自分の足だ。
「……痛い、攣った。」
柴原は足だけでなく、心も痛めた。
(斎賀君は、あれを毎日。僕をこんな目にあわせたく無かったから、僕と友達にならなかった……?僕は、どうしたらいいんだろう。)
苦しそうな斎賀の顔が、頭に浮かんでくる。
「自業自得だよ。」
聞き覚えのあるその声に、柴原は振り向いた。柴原の背後に居たのは、斎賀だった。
「自業自得って、どういうこと。」
「そのままの意味だ。俺なんかに構って無かったら、お前は平和な学校生活を送れた。そんなの、馬鹿じゃねぇんだから分かるだろ。」
カチンときた柴原は、一歩踏み出した。
「分からないよ。もしかしたら、君と友達になろうとしてなくたって、何かのきっかけでイジメを受けていたかもしれない!」
柴原の真剣な眼差しを見て、斎賀はため息をついた。
「そうか、分からないか。じゃあ、俺も知らねぇよ。じゃあな。」
斎賀は柴原の真横を通って、歩いていった。そんな斎賀のことを、柴原は見つめることしか出来なかった。
(……あれ?)
そして斎賀の背中を見て、目を見開いた。
(背中が震えてる……斎賀君、泣いてる?)
斎賀の背中が見えなくなっても、柴原はその場で立ち尽くしていた。やがて自転車のベルの音で、ハッとした。
「……赤瀬さん。」
柴原は何を思い立ったか、スマートフォンを取り出して赤瀬に電話を掛けた。3コール目で、赤瀬の声が聞こえた。
『春馬君、久しぶり。どうしたの?』
「お久しぶりです、赤瀬さん。聞きたいことがあるんです。斎賀君の家を教えてください。」
え?と、赤瀬は驚きの声を上げた。三秒くらいの沈黙の後、先に口を開いたのは赤瀬だった。
『何をするの?』
「赤瀬さんは上司に、明確な証拠が無いから、取り合ってもらえないと言いましたよね?なら、僕がその証拠を見つけます。」
『今日、彼の両親が帰ってきてるとは、限らないわ。』
「それでも!僕は何もしないなんて嫌だ!僕、言ったじゃないですか!斎賀君の味方になると!」
柴原は、泣きそうな気分のまま怒鳴りつけた。
赤瀬はまた、三秒くらいの沈黙を作る。そして、短いため息をついて、明るい声色で言った。
『分かったわ。今から教えるから、メモをとるなりして。』
柴原はすかさずリュックから手帳を取り出して、赤瀬の言葉を頼りに地図を描いた。
赤瀬の説明によると、斎賀の家は一軒家で、まるで孤立しているように周りに家が少ない。
「ありがとうございました。」
『いいえ、お礼を言うのはこちらの方よ。私が本来しなくちゃいけないことを、あなたが……。あなたは、勇敢なのね。』
赤瀬は一つ呼吸をした後、消えそうなくらい小さな声で言った。
『私、好きよ。』
じゃあ、何かあったら言ってね。無理しないでね。 と、言った後、赤瀬は電話を切った。一方の柴原は、スマートフォンを耳に付けたまま、固まっていた。
(ああ、もう。赤瀬さんは、また……。)
顔を真っ赤にした柴原は、先程描いた地図を頼りに、足早に斎賀の家へと足を運んだ。
自分の家の電気が付いているのを見て、斎賀の呼吸が少し乱れた。
(何で、帰ってくるんだよ。)
ヒュッヒュッと小刻みな呼吸を整えながら、玄関の扉を開けた。そして、なるべく明るい声で。
「ただいま。」
斎賀が家に入ると、そこには二人の男女がいる。その二人は、斎賀の両親だ。
「あら、蒼汰。帰ったの?」
母親が、少し控えめに蒼汰に駆け寄った。そんな母親の背後を見て、斎賀は更に呼吸を荒くした。
「蒼汰…ちょっと来なさい。」
「あなた、蒼汰を乱暴にしないで。」
父親は、斎賀の腕を掴んで奥の部屋へと行った。それを母親は阻止しようとしたが、無駄だと判断して、二人から離れていった。
「か、母さん!」
蒼汰の悲痛な叫びを最後に、奥の部屋の扉が閉められた。
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