第14話

刑務所内では不定期に催し物があり、運動会や演劇、映画鑑賞、民族舞踊など、最低限の文化的娯楽を享受する権利が受刑者には与えられている。

そうしたイベントの中で、受刑者達に圧倒的に人気があるのが、レディボーイによる舞踊である。男性受刑者のみが収監されている刑務所では、面会を除き女性の出入が禁止されている。しかし、レディボーイは戸籍上は男性のため出入が許される。タイのニューハーフといえば本当に女性と見間違えるほど美形が多く、およそ一時間ばかりの演劇中、受刑者達は暗闇に隠れてひっそりとマスをかくため、舞踊場内には小刻みなガサゴソ音と異様な生臭で包まれるほか、舞台終演後には受刑者とレディボーイの間で売春行為が横行するのだ。

売春には専門のブローカーがおり、一回あたり千バーツから、人気嬢については三千バーツ程度、また刑務所内でコンドームも売買されている実態だ。

この日、開催されたのは、地元演劇団体による古典舞踏「ラーマーヤナ」である。

ラーマーヤナは古代インドの大長編叙事詩、ヒンドゥー教の聖典の一つであり、紀元三世紀頃にインドの詩人ヴァールミーキによりサンスクリット語で書かれた全七巻にも及ぶ大編だ。ヒンドゥー教の神話と古代英雄コーサラ国のラーマ王子の伝説を編纂したものとされる。

タイでは小学校の必須授業になるほど知名度が高く、主要人物であるラーマ王子、シータ妃、ハヌマーンに加え、インシュヴァーク王家の人物、猿族であるヴァナラ、羅刹の一族ラークシャサ、鳥族など、ラーマーヤナに登場する人物は、まともに教育を受けたことのない受刑者でしても周知であるのだ。

タイだけでなくミャンマー、インドネシアといった東南アジア諸国でも受け継がれるラーマーヤナの古典舞踏であるが、受刑者達の目的は別にあり、熱い視線は美しい女性役に注がれ、特にシータ妃が誘拐されるシーンになると、受刑者は一斉にズボンのポケットに手を突っ込み、ガサゴソと隠れてマスをかくのであった。

公共の良俗を保つため男性刑務所での催しは男性演者のみに限られるが、女性役は女性の恰好をしているため、普段から性欲に飢えている受刑者は見境なく悦に浸るのであった。

生来、生真面目な森本は、そんな周囲の受刑者とは異なり、演劇の世界に没頭するのだが、演者の中に見覚えのある人物を見掛けると、思わず心を打たれるのであった。

「ああ、たしか、あの子はパッポンで出逢った踊り子じゃないか」

森本の目に映ったのは、シータ妃役を演じる男性演者であった。

タイの娼婦は夜の仕事と掛け持ちで他の仕事をする者が多く、シータ妃を演じたこの演者も、昼間は演劇団体に属しながら、夜はパッポンのゴーゴーバーでダンサーとして働くのであった。

森本はシータ妃の演技に見とれていると、思わず股間がムクムクとそそり立つのが分かった。

「むむ、かたじけない、年甲斐もなく」

シータ妃が妖艶に腰をくゆらすと、同時に、ガサゴソと布を擦る音が聞こえる。

「しかも相手は男じゃないか、常夏の国に来て、私の感情は本当に狂ってしまったのか」

森本は言い様もない背徳感に苛まれながら、凡そ一時間の演劇を見届けると、会場を飛び出、ある人物の元に駆け寄った。

「パッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォングさん、たしか、君は売春ブローカーだと言ったね」

森本が会ったのは、売春ブローカー、パッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォングであった。

パッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォングは娑婆にいたときからバンコクのマッサージパーラーを経営しており、地方の未成年者に口を利いて働かせていたため、受刑者となった今も性産業には滅法知見が深い。

「な、なんだい」

パッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォングは物凄い剣幕で駆け寄る森本をみて、恐れ戦き仰け反った。

「君は未成年買春で捕まったヂャンライことタクヤ・モリモトじゃないか。僕が人工肛門だからって一味違った肛門性交を狙っているんだね、そうはいかないよ」

売春ブローカーとして仕事の手を広げ過ぎたパッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォングは、刑務所中に性感染症を蔓延させたため顰蹙を買い、心無い受刑者に尻穴を陵辱された。それによってパッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォングの肛門は裂け、大腸に渡って大きく損傷したため、人工肛門生活を余儀なくされていたのだった。

パッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォングは森本に猜疑心を込めた目を向けると、すぐに踵を返してその場を去ろうとした。

「違うよ、待って」

森本は急いで逃げるパッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォングを追うと、必死に説明をした。

「目的は君の肛門じゃない。さっきシータ妃を演じていた子を紹介してくれないか」

「シータ?」

パッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォングは素っ頓狂に云った。

「ああ、ギャラは弾むからさ、頼む、この通りだ」

森本はパッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォングに懇願し、シータ役のレディボーイと遭うため、若干法外であるが三千バーツを支払ったのであった。


ハッテン場として有名なセクション一のトイレには既に人だかりができていた。女性役の恰好をした演者と受刑者が金銭授受を交わし、トイレで性交に及ぶ。

トイレの個室からは「オーイ、オーイ」と普段よりも激しく艶声が上がっている。

男性が男性の身体を求め行列を為しているのだというから、通常で考えれば、相当に悍ましい光景だが、森本を含め、彼らには全く悪ぶれる気概はなかった。

森本は高鳴る鼓動のままに大便個室に入ると、シータ妃の恰好をしたレディボーイを見、はっと胸を打たれたのだ。

やはり彼女(彼)に間違いない。パッポンで会ったレディボーイである

森本は初めて足を運んだパッポン地区のゴーゴーバーで、客引きに誘われ入店すると、そこで仲良くなった女性(男性)を店外に連れ出し、ホテルに向かった。

女性的なきめ細かい肌と、形よく膨らんだ胸、程よく肉のついた妖艶な肢体。

それが男性であるとは、モッコリと膨らんだ下着を脱がすまで分からなかったのだ。

森本はレディボーイと対峙すると、鼻息を荒くし、気付いた時には強く抱きしめていた。

「ああこの感触、久方ぶりに感じる豊満な胸の柔さ、腰のくびれ、そしてモッコリと固い立派な逸物、どれもこれも愛しい」

森本はシータ妃にチップを支払うと、便器に跨り股を広げるシータ妃の下着を脱がした。

「おお、やはり大きいな」

シータ妃には、たっぷりとシリコンの入った形の良い胸と、下半身にはモッコリと、立派な逸物がぶら下がっていた。

森本は高額なチップをブローカーに支払い、一番客となった。いまだ清潔なシータ妃の前袋を無我夢中でしゃぶりついた。

シータ妃は「オーイ、オーイ」とタイ人らしい喘ぎ声を上げると、次に森本が逸物を咥えられる番になった。

「だはぁ、物凄い吸引力、これは例えて言うならば、ダイソンのサイクロン掃除機の如く…」

森本は白目を剥きながらガクガクと腰を揺らすと、シータ妃の頭を掴み、前後に動かした。

続いて立ち上がり、互いにギンギンになった逸物を見せ合うと、つい大きさを比べてしまい、愕然とした。

「悔しい、太さといえ長さといえ、勝ち目がない」

シータ妃のブツは森本の凡そ倍以上、大木のような幹の太さに、森本は悔し涙を流した。

そのまま森本はシータ妃の背後へと回り、プリンと張りの良い尻にこすりつけ、しっかりと肛門を揉み解し、徐に差し込んだ。

狭い用便個室では身動きがとり難いが、そんなことも構いなく、森本はシータ妃の黒々とした菊門を掘り、思い切り腰を振ると、意に反して一瞬で果ててしまったのだ。

「ああ、勿体ない、僕としたことが、こんなに早く…」

シータ妃はだらしなく垂れ下がった森本の犬フグリを口で掃除すると、シータ妃側も森本に好意をもったのか、その隆々と勃起した巨大な逸物を森本の尻に差し込んだ。

「がああァ、痛い、痛い!」

雄叫びに欲情したのか、シータ妃はその細い体からは予想できないほどの力で、全身を使って森本を凌辱した。

すっかりと骨抜きになった森本は便所を出、力なくセクション一棟前の広場に倒れ込んだ。森本の尻穴は痔が切れた血液と白濁液が混じって無残な姿形をしていた。

森本の目線の先には、未だに賑わいをみせるハッテン場の光景が広がっている。

シータ妃を演じた子は人気があり、森本の後にも多くの行列ができていた。

森本は、シータ妃が他の男に何度も陵辱される姿を想像して、まるで恋人が奪われたような寂寥感に陥り、えんえんと慟哭したのであった。

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