第12話

裁判にて、買春で禁固三年の刑を言い渡された森本は、護送中、現地人に「この糞ファシスト奴」、「ファッキンジャップ」などと罵声を浴びせさせられ、石礫を投げ込まれながら、バンコク北部ノンタブリー県にあるバンクワン刑務所に収監された。

「海外における買春行為は、女性(一部、男性)に対する冒涜、人権侵害、弱い立場の人間を金で買うとは卑劣極まりなく、国際問題にも発展しかねない、情状酌量の余地なし」と、ありとあらゆる罪名とともに、森本はここバンクワン刑務所で受刑者として先行きの見えない生活を送ることになる。

バンクワン刑務所は、近年増加する犯罪により若干のキャパシティーオーバーとなっており、三人一部屋、酷い場所は一人一畳分のスペースもない極狭の監獄生活を余儀なくされる。

刑務所内は極めて不潔であり、食堂や便所、風呂に至るまで想像を絶する汚さで、森本は収監されて一週間で凡そ五キロも体重を落とした。これはまるで初めてハルディアに出向した当時と類似した症状であった。

刑務所の生活は過酷そのもので、朝は六時に叩き起されると、上半身裸で運動場へ駆り出され、タイヨガの一種であるルーシーダットン体操をし、そのまま朝食となる。

バンクワン刑務所では自炊が許されているが、家族に見放された森本は差入れがないため食材も得ることが出来ず、玉蜀黍粥や乾燥タロイモなど、とても日本人の口には合わない食事を摂った。

食後の用便時間には破壊された便器で用を足した。ドアが破壊され、糞便中に受刑者に肛門を犯される恐れがあるため、森本はしゃがんで十秒で糞をする習慣が身に付いた。

朝食が終わった後は労働時間だが、外国人受刑者は労役が課せられないため、一日のほとんどを牢屋の中で過ごすことになる。労働が出来ない分、日当も稼げないため、食材も買えない。食材が買えないため、味のしない玉蜀黍粥と乾燥タロイモを食べるしかない。こうした悪循環により、森本は日に日に痩せ細っていった。

刑務所において、風呂事情は特に酷であった。常夏のタイで、一週間に僅か一度の入浴しか許されず、発酵した皮脂が異臭を放った。四千人の受刑者の汗と垢の溜まった下水のような風呂桶に浸かり、タワシで身体を擦る。

「臭い湯だな、まるで肥溜めに浸かっているようだ…」

風呂から上がった後も、森本の身体は異様な匂いを放った。

心無い受刑者がイタズラで風呂の中で小便をするため、風呂桶が石灰質で固まるのである。それはまさに肥溜めの様相そのもので、風呂に入った方が体が汚れるほどであった。

また、森本を苦しめる要因は心無い受刑者に限らなかった。

「尾っぽに縞筋の入った蚊を見かけたら即座に叩き殺せ、デング熱を媒介するぞ」

タイに広く分布するヒトスジシマカは、デング熱やマラリアなどの感染症を媒介することで知られ、免疫のない森本は、夜間も気が気でなく、腕や足の止まる蚊の大群をビタビタと叩いた。

虫刺されの恐怖は蚊に留まらず、麻製の汚い毛布には南京虫が多く生息し、寝ている間に体を這うため、朝、森本の肌は赤く爛れてしまった。そのため森本は慢性的な不眠症となり、まるで夢遊病のように夜な夜な徘徊し、その度に警官に警棒で叩かれるのであった。


こうした刑務所暮らしの中で、同居人である現地受刑者は、日本人犯罪者である森本を物珍しく扱った。

「おい、新入り、お前、未成年買春で捕まったファッキンジャップだな」

森本の同室には、タイ人らしい浅褐色の肌をした年若い受刑者がいた。

「やい、買春ホモ野郎!」

男は新入りである森本に対し現地語で罵った。

「うるさいなぁ!」

刑務所で性犯罪者が誹謗の的になるのは世界共通である。

馬鹿にされていると察し森本は声を荒げると、男は「マイペンライ、マイペンライカップ」と手を合わせて頭を下げた。

同室の受刑者、ブンミーソムチャイ・パンサレックは、バンコク市内のショッピングモールでバイクを盗難し、禁固二年の刑で服役していた。バンコクではホンダ製バイクは高価なため、しっかりと施錠していないと盗難の標的となる。

森本に心を許したブンミーは、自らの育った家庭環境、娑婆での仕事について、同居人の森本に咋に打ち明けたのだ。

タイ人はもともと親交的であり、今後長い年月を牢屋で過ごす身のため、親しみを込めて接し合うべきだとブンミーは説いた。

「タイ人の名前は、サンスクリット語やパーム語が入り混じっていて発音が複雑だから、互いをチューレンというニックネームで呼び合うんだ。僕も皆からブンミーと呼ばれてるけど、本当はブンミーソムチャイ・パンサレックって言うんだぜ」

ブンミーソムチャイ・パンサレックか―。

タイでは一般的な名前らしいが、日本人の森本が発音するのは些か難しく、名前の最初の部分だけを抜いて「ブンミー」と呼ぶことに決めた。

「そうか、ブンミーか。君は家庭が貧しく窃盗を働いてしまったんだね。でも君は僕と違ってまだ若いから、きっと更生してやり直せるよ」

森本は、自分の年齢の半分ほどのブンミーを勇気づけた。

話し好きのブンミーは、喋り方に学はないものの、屈託のない性格で隠し事をしないため、森本はすぐに心を開くことができ、刑務所内の良き友人として打ち解けることができた。

ブンミーは日本人である森本に対し、皆から親しまれやすいようタイ風のニックネームを付けることを提案した。

「君にも親しみを込めてチューレンを付けてあげるよ」

「そうか、ありがとう」

そう云ってブンミーは腕組すると、暫し悩む素振りを見せた後に、

「『ヂャンライ』がいいよ、呼びやすいし」

と提案した。

「ヂャンライ? それはどういう意味だい?」

森本はチューレンの意味を問うた。

ブンミーは再び考えを巡らすように目を背けると、次のように説明した。

「ヂャンライはタイ語で『獅子』という意味だよ。タイでは獅子は神聖化されている動物だ。ヂャンライというニックネームの男性は多いよ」

「おお、それはいいね」

チューレンを得たことで、初めて仲間として認知された気がした。

「じゃあ今日から僕をヂャンライと呼んでくれ」

森本は自らに付けられたチューレンにより、過酷な刑務所生活もいずれ慣れるだろうと感じた。


刑務所というだけあり、受刑者の多くは道徳的に外れた者ばかりである。その言動、身形に至るまで、それまで森本が目にしたタイの常識を逸するものばかりであった。

三人牢にはブンミーの他に寡黙な老人がいた。男は四六時中、膝を抱えるような体勢で仏典を読み深けていた。

口数が少なく、他者との会話を避けるため、男の罪名も分からずにいたが、腕にホクロのような黒点が無数にあることに気付いた。ボールペンを注射代わりに覚醒剤を注入した跡だという。タイの刑務所は検閲がなく、常時、外部からの差入れがあるため、娑婆より麻薬が入手しやすいのだ。

外国人による未成年買春は年々、罰則が厳しくなっており、中には懲役三十年を言い渡された者もいたが、森本の場合、初犯かつ日本の優良企業に勤めていたため、出所後の社会更生が可能と見做され、三年というもっとも軽い刑期を言い渡された。

身寄りのない森本は、日本からの直接の支援はないが、時折、地元のNPO団体から日本食のレトルトパウチを差し入れてもらうことがあり、有り難く召し上がった。

しかし、森本に与えられた境遇は依然として厳しく、家族からは見捨てられ、収監一ヶ月が経過したとき、国際郵便で解雇通知とともに同封された離婚届を手にすると、森本は膝から崩れ嗚咽したのであった。

またその直後、森本の両親が遥々、日本からタイまで面会に来たが、森本には会わせる顔がなく、面会を拒否したのであった。それ以来、音沙汰はなく、両親との縁は完全に切れたものと思われた。五十歳を迎える森本の親は高齢で先も短く、まさか手塩にかけて大企業に入れた息子が、未成年買春で捕まるなどと予想もしなかったであろう。心配する両親と生きている間に二度と遭えないことを思うと、やはり森本は自棄になり、当分の間、食事も喉に通らなかった。


度重なる不幸な知らせに、このまま首を吊って死のうかと思った矢先、同牢人のブンミーのある発案で、森本は人生に小さな希望を抱くのであった。

「タイの刑務所は、実は娑婆より仕事があってさ。皆、何かしらの仕事を持っているんだ。こっちに来なよ」

ある日、ブンミーは昼食後の休憩時間に森本を連れ出し、刑務所内の散策へと向かった。

「ヂャンライ、色狂いヂャンライ!」

刑務所を散策し始めると、鉄格子のあちらこちらから、森本のことを呼ぶ声がした。

「何故だろう、僕のことをヂャンライと呼ぶ人は皆、怒ってるように見えるけど…」

「そ、そうかな、きっと単なる思い過ごしだよ」

森本の問い掛けに、言葉を濁すブンミー。

「タイ人は感情表現が独特だから、怒っているように見えるだけじゃないかな、彼らは至って普通だよ」

森本が不思議そうに顔を顰めるのをみると、ブンミーは機嫌を取り戻すため、話題を逸らした。

「バンクワン刑務所は労働の時間があるが、稼げる額は日銭程度のため、賢い奴は裏のビジネスをしている」

「裏のビジネス?」

刑務所内でビジネスなど解せない、といった様子で森本は首を傾げた。

「例えばカードゲームなど娯楽の提供、生活用品の売買など―」

「ほう、なるほどねぇ」

広大な刑務所内には食糧や生活用品を扱う売店が点在する。

バンクワンでは外部からの差し入れが認められているものの、犯罪者ゆえ、身寄りがない者が多く、そうした受刑者は隠れて商売を行っているというのだ。

ブンミーは説明を続けた。

「しかし、日用品の売買は利幅が薄いため、稼ぎたい奴は違法な仕事に手を出している」

ただでさえ罪を犯して投獄されたというのに、さらに刑務所内で罪を働くなど言語道断と思ったが、ひとまず森本はブンミーの説明に耳を傾けることにした。

「違法な仕事とは、具体的にどんな仕事なんだい?」

「たとえば、薬物の売買、賭博、そして、売春―」

「売春?」

売春と聞いて、森本は思わず頓狂な声を上げた。

バンクワンは、男性受刑者のみを対象とした刑務所であるため、本来、売春行為が横行するはずはない。

「ああ、売春。ここにいる連中に尊厳などないから、快楽のためなら見境なく何でもする。尻穴も穴に変わりないのだ」

「男同士の売春ねぇ…」

森本はパッポンで会った美しいレディボーイを思い出した。

あのように見た目さえ女性らしくしていればまだしも、男性と男性が性行為をするなど、想像するだけで吐瀉しそうになった。

「ただし売春ブローカーはリスクが高い。金は貯まるが、他の受刑者に目を付けられ易く、所内で暴行事件が起きるとすれば大抵売春ブローカー絡みである」

ブンミーが言うと、突然、近くで「ウー、ウー」と轟音が鳴り響くのが聞こえた。

一台の救急車がけたたましいサイレンを鳴らしながら入って来たかと思うと、ズボンの尻の辺りを真っ赤な鮮血で染めて疼くまる男が担架で運ばれていくのを見かけた。

「ああ、まさに彼だよ」

あまりの惨状に森本は身を硬直させていると、ブンミーは然も当然の所作のように説明した。

「彼はパッタマボラクルチャイ・ソッピットゥヴティウォング。有名な売春ブローカーで、所内に性病が蔓延した因縁を付けられ、無理やり肛門を犯されたんだ」

救急隊が駆け付けると、血まみれの肛門を脱脂綿で拭った。

「ほら、ちゃんと尻穴を石鹸で湿らせてから入れないもんだから、括約筋が千切れて直腸にまで傷を負った」

「尻に棒を入れるときは、入念に指で解せ」、という俗諺を森本は思い出した。本来、肛門は糞便を脱する器官である。決して外部からの介入を許してはならない。

「彼は今後、専門の介護士がいる刑務所に移動となるよ。運が悪ければ化膿した傷口からHIVウィルスが体液感染してエイズになるかもね。彼は多額の収入を得たけど、その代償はあまりにも大き過ぎたね」

そう言ってブンミーは瞑目し合唱した。

「ちなみに、彼のチューレンは『ホモ』だよ」

「ホモ?」

「うん、ホモだからだよ」

あまりに卑猥な仇名に、森本は眉を顰めた。

「自ら売春ブローカーでありながら、ホモなのか?」

「そう、ホモ。彼はブローカー業をやりながら、好みの男の子を見掛けると自分のモノにしちゃうんだ」

刑務所の常識は世間の非常識。

もはや、何が普通で、何が異常かも判別し難いほど、バンクワンの日常は常軌を逸していた。

「そうか。ちなみにホモはタチ(男役)なのか? それとも猫(女役)なのか?」

森本の詮索に対し、ブンミーは怪訝な表情を浮かべた。

「なんでそんなこと聞くんだい? もしや、君もホモなのかい?」

「ま、まさか!」

救急車が去ると、再び刑務所内は静けさを取り戻した。

二人は再び、散策を続けた。

「男性刑務所には男性受刑者しかいないのだが、売春は広く横行している。清潔感があってセクシーな子は人気でさ、プライドさえ失えば幾らでも儲かる」

「そもそも罪人にプライドも糞もないよなぁ」

森本は調子を合わせて云うと、ブンミーは徐に足を止め、遠くを指差した。

「ほらあそこ、セクション一のトイレは売春に使われていてさ、休憩時間になると、いつも人だかりが出来るよ」

バンクワン刑務所には四千人の受刑者が、刑量によって九つのセクションに分かれて収監されている。慢性的に許容人数をオーバーしており、特に重大犯罪者が集まるセクション二は一室に四人以上の受刑者が押し込まれている現状だ。

刑務所の運営は国税によって賄われており、数年前に恩赦によって大多数の受刑者が釈放されたものの、再びその数は増加傾向である。

二人は、敷地の最奥にあるセクション一へと向かった。

ただでさえ陰気臭い刑務所の中で、そこは他のセクションには見られないような、言い様もない異質な空気を放っていた。

「あそこに立ちンボしてる小柄な青年がいるだろ。彼が人気でさ、口淫一回五百バーツ、本番が千バーツさ」

青年は、見た目こそ普通の若い男であるが、手足がしゃんと手入れされており、確かに女性らしくもみえた。

「最初、本番は躊躇っていたようだけど、金が良いから許したらしい。今となってはやり放題で、病気のデパートと言われてるね」

そういうとブンミーは森本の腕を握った。

「安心して、僕はそっちの気はないからさ、ウフフ」

ふざけてみせるブンミーに対し、森本は気色悪そうに手を振り払うと、続いて二人は食堂棟へと向かった。

食堂棟には卓球やトランプ台といった簡単な娯楽設備があり、多くの受刑者が集まって団欒している姿がみえた。

「次いで儲かるといえば薬物ブローカーで、大麻は勿論、覚醒剤やコカインも簡単に入手でき、高額だがヘロインもある」

「ヘロイン?」

「ああ、食糧倉庫には注射器や薬物が隠されており、薬物中毒者が集まるのだ。なぜ食堂棟かというと、塩や砂糖などの調味料に紛れて白い粉を隠しやすいからなのだ」

タイに来て歓楽街を練り歩いた森本であるが、さすがに薬物には手を出さなかった。身近にヘロイン常習者がいると聞いて、森本は生きた心地がしなかった。

「ヘロイン中毒者は外見で明らかに分かる。痩せて骨が浮き出し、目付きや歩き方もおかしい」

森本は、同牢人の男を思い出した。

ボサボサな髪、浅黒い肌、焦点が合わずキョロキョロとした目。

薬物中毒者の言動は異常であり、いつ何をしでかすか分からない。

森本は言い様もない恐怖を覚えたのであった。

二人は食堂棟内に足を運び、カフェテラス前で立ち止まると、そこに、食卓に白い粉を敷いて鼻から吸う者があった。

「よう、ダイソン!」

ダイソンという男は、白目を剥きながらコカインを吸引すると、まるで覚醒したように上機嫌でブンミーの方をみた。

「やあ、ブンミー、今日も爽快な一日だね」

男は俄かに立ち上がると、笑いながらズボンを下ろし、糞便を撒き散らした。

「大技を見せるね」

「ダイソン? 彼の名前か?」

森本はダイソンの異様な行動をみて、ブンミーに問うた。

「いや、彼のチューレンがダイソンというんだ。鼻の吸引力が凄くてね、日常的にコカインを吸ってるからダイソンの異名がついた」

そう云うと再びダイソンは片鼻を指で押さえ、もう片方の鼻で勢いよく白い粉を吸い込んだ。

「いやぁ、ダイソン、さすが、よい吸いっぷりですこと!」

ブンミーは全身糞まみれになって跳ね回るダイソンを拍手して称えた。

「タイでは輸入家電が高くてさ、ダイソン製品なんて、一部の富裕層しか買えないんだぜ」

二人はそのまま小一時間ほど所内を歩き回ると、牢へと戻った。

牢には相変わらず謎の男が鎮座しており、物音一つ立てずに仏典を詠んでいた。


「タイの刑務所では面会者が何でも差入れをし、検閲も甘いから、娑婆より豊かでさ。実は僕もあるビジネスを始めようと思ってるんだけど、君も一緒にやるかい?」

森本は、先程見た麻薬中毒者や娼婦(娼夫)が頭から離れず、ビジネスと聞いて一抹の不安を覚えた。

「真っ当なビジネスだよ。聞くところに寄ると、ヂャンライは日系メーカーのエンジニアだったんだろう。通信機器の売買を始めようと思っているんだけど、どうだい、ヂャンライの知見を貸してくれないかい」

「通信機器?」

予想外にビジネスライクな提案は森本の興味を惹いた。

「そう、パソコンやスマートフォンなどの媒体を貸す仕事だ」

森本は一度、サンスクリット語で落書きされた牢壁を見て逡巡したあと、再びブンミーの顔をみて言った。

「それなら面白そうだ、詳しく聞かせてくれないか」

バンクワン刑務所では、外国人受刑者には労役が課せられないため、森本は昼間、何もすることがなく、暇を弄ばしていた。

通信機器の売買ビジネスを始めるとすれば、よい暇潰しになるだろうし、麻薬や売春と違って後ろめたさはなく、決して悪い話ではないと森本は思ったのだ。

「タイは無料のwifiがあちこちに飛んでいるから、エンジニアの知見を活かして、それらをうまくハッキングしてくれないか」

ハッキングと聞いて、森本の中で俄然やる気が漲った。

「ハッキングか、面白そうだな。PCのスキルは一応あるし、プログラミングは得意だから、何とかなるかも知れない」

森本は、タイやインドで工場の通信システムの立上げを行っていた経験があるため、市販のデバイスを扱うのは決して難しい話ではないと感じた。

「心強いね、タイのインターネット事情の詳細は、現地の書籍を何冊か取り寄せたから大丈夫だ。薬物やアルコールと違って、実用書であれば差入れ品としても怪しまれないからね。刑務所では、新聞など外部の情報は需要があるし、スマートフォンがあればポルノサイトも閲覧可能だろう。ではヂャンライ、期待しているよ」

ブンミーは嬉々と言うと、森本と謎の男を残し、再びどこかへと消えてしまった。

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