幕間:魔女ってほんとうにいるんでしょうか?

 ◆魔女って本当にいるんでしょうか?◆


 寺井先生こんにちは、はじめまして。

 私は先生の『ナニーさん』シリーズのファンです。たんじょうびに一さつ買ってもらい、のこりは図書館で読んでいます。クリスマスにもう一さつサンタさんにおねがいする予定です。

 

 うちも親が共ばたらきだし、中学生のおにいちゃんがいますがいつもとてもいじわるなのでナニーさんみたいな魔法使いのやさしいお手伝いさんが来てくれたらなあって思います。

 ナニーさんの本を読んでいるうちに私も先生みたいなお話を作ってみたくなり、ノートに書くようになりました。どれも魔法が出てくるお話です。

 ふだんはだれにも見せませんが、たまたまつくえの上にノートを出しっぱなしにしていたのをお兄ちゃんに見つかってしまい、すごくバカにされました。

 お兄ちゃんは私が作るお話は魔法の出てくるものばかりで子どもっぽい、ようちだと言います。高学年にもなって魔女だの魔法だのそんなげんじつにいもしないもののことばかりいつも考えてるからいつまでも友達ができないんだと言います。その日はくやしくて泣きました。


 私はだれにも言ってませんが、魔法は本当にあるし魔女もいると思っているのです。低学年のころに一番仲良しだった子に話したせいでクラスの子達にバラされてからは自分一人そう信じるようにしています。私が魔法を使えるわけでもありませんし、つかいたいわけでもありません(うそです、本当は空を飛んでみたりいじわるな子に仕返ししてみたいなあと思うことはあります)。ただどこかにあってほしいと思っているのです。


 でも、学校で遊ぶ友達もいなくて一人の時なんかには魔法なんか信じるのをやめて、テレビのことやクラスの男子や先生のことなんかを話して大嫌いなドッチボールに参加すれば友達ができるかなあと思うこともあります。

 先生はナニーさんとはお友達なんですよね? でしたら魔女は本当にいるって信じてもいいんでしょうか。


                                某小学校5年

                              三島めぐみより




 三島さん、お手紙ありがとう。


 ナニーさんのシリーズを楽しんでくれてとても嬉しいです。先生は三島さんのような子どもたちが少しでも笑顔でいてくれるような本を作るのが夢でしたのでとてもほこらしい反面、少し心配になりました。三島さんは学校で一緒に過ごす人がいないみたいですね。先生にもおぼえがあります。そういう時はとても情けないものですよね。でもそういう経験があったからこそ、後にナニーさんと出会って友達になれたと思うのですよ。


 三島さん、ナニーさんはちゃんといますよ。今も先生の家の台所でおいしいハンバーグを焼いてくれています。ばんご飯に食べながら三島さんの話をきくそうです。ナニーさんはごぞんじのとおりさびしい子どもの話を聞くといてもたってもいられない魔女ですからね。


 つまり三島さん、魔女はね、この世界に(地球の上に、という意味で)ちゃんといるんですよ。


 といっても三島さんのお兄さんのような人は「そんな人がいたらテレビや新聞が大さわぎするだろ?」「テレビに出てくるようなやつはけっきょく手品師じゃないか」「むかし医者に変わってけが人や病人の世話をしていたような薬草の知識が豊富なばあさんを魔女と呼んだんだよ? 科学が発達した今じゃそんなばあさんいなくなって当然だ」といって信じてくれないでしょう。先生もお兄さんのような人に魔女はいるし魔法があると信じてもらうのは無理だとあきらめています(お兄さんの悪口のようになってしまいましたね。ごめんなさい。でもお兄さんなりに三島さんを心配されていらっしゃるのですよ)。


 魔女や魔法、その他オバケや妖精やサンタクロースはちゃんと存在するのですよ。ただし、いくらこうせいのうのカメラができても、地球の人間をしらみつぶしに探せる機械が生み出されても探せない、それでも「魔女はいる」と信じた人はかんたんにたどり着ける、そんな所にあるのです。さて、それはどこでしょう。


 答えは「影」です。


 どんな物でも光があたると影がうまれますね。

 

 人間の頭にも「物語」という光を当てると「影」が生まれるのです。主人公が旅したところはどんな所かな? とか、主人公が食べたものはとてもおいしそうだけどどんな味だろう? どんな服をきてどんな部屋で生活してるのかな? なんて、色々想像しますよね。それが「影」です。魔女や、魔女にかぎらず物語の登場人物はその「影」でくらしているのです。


 光が強いほど影はこくなるのと同じで、物語にふれて想像する人たくさんいる、もしくは物語を作った人がびっくりするほどとても強くその世界を想像するがいるとそれだけで「影」の世界もより強く、より確かなものになります。

「みんな知ってるよ」という有名な物語になると、僕たちが住んでいるのと変わらないくらいしっかりした世界になるくらいです。


 本にかぎらずテレビや映画でもさまざまな物語がありますよね。

 僕の家の近所にはかいじゅう番組が大好きで、かいじゅうやヒーローのすむ町の絵を一日中かいてもあきないなんて子がいます。その子みたいな子どもたちが今日本中にたくさんいるはずですが、そのおかげでかいじゅうやヒーローのいる「影」の世界はとても大きくてふくざつで確かなものへと育っているはずです。ちょうど何もなかった所にできた町がビルのたちならぶ大都会へ育ってゆくように。


 反対に、ざんねんながらだれからも忘れ去られてしまった物語もあります。

 みんなあきて古びてしまって本屋さんから消えてしまったり、(あってはならないことですが)えらい人が「この本はわるい本なので読んではいけません」と決めてしまったり……。忘れ去られた物語の影はだんだんうすくなり、ついには消えてしまいます。かそ化という問題を学校で教わったことはありませんか? ちょうどあんな風になってしまうのです。


 「影」の世界は物語という光をあびた人間から生まれますが、「影」の住人にとっては人間があれこれ考えて想像してくれることこそが光なのです。ちょっとややこしいでしょうか。


 「影」の住人にとっての光、つまり物語についてあれこれ想像したり考えてくれる人がへって困るのは誰でしょう。その『影の世界』にくらす人達です。

 

 ですから『影の世界』の住人達はひっしです。せっかく生まれた自分たちが消えてしまわないように、私たち人間によびかけます。自分たちの物語をどうか形にしてくれ、たくさんの人の目にふれるようにしてくれと、あの手この手で呼びかけてきます。

 

 何をかくそう、先生もナニーさんとそうやって出会いました。子どもの時に読んだ魔法の物語がわすれられず自分でも作ってみたくてウンウンうなっていた時にある時ふと現れたのですよ。「あら、じゃあワタシのことをお話にしなさいな」って。


 ですから三島さん、僕はあなたが魔法の物語を書いていることをとてもうれしく思いました。三島さんがそうやって物語を作り続けることでナニーさんたちがいる『影の世界』が大きく豊かなものになるからです。


 あなたが今と変わらず魔女や魔法の物語を夢み、想像し、自分でも作ってみようがんばり続ける限り『影の世界』の人々はいつか三島さんのもとをおとずれるはずですよ。


 

 ちょっと長くなりましたね。

 

 三島さんの学校には魔女や魔法を信じているお友達がいなくてさびしいんですよね、でも安心してください。僕のもとには三島さんみたいなお友達の手紙がたくさん寄せられます。今はいなくても、三島さんが大きくなればいつかどこかで三島さんと同じ考えの人と出会えることを先生がほしょうします。


 でも「今」さびしいんだから「いつか」の話をされてもこまる……、きっとそういう気持ちでしょう。

 

 そういう時は三島さんが考えたように思い切って苦手なことにちょうせんしてみることに賛成します。

 魔女や魔法を信じていなくて一見イジワルに思える人も、しゃべってみたらあんがいいい人や面白い人だった……なんてことは実は結構あるのですよ。何をかくそう、僕はそうやって知り合った友達を本のなかに時々とうじょうさせています。

 

 でもやっぱり苦手だな、つらいな……と思った時はどうぞ無理をしないで。僕も友達がさそいにきた草野球を断るのに毎回くろうしています。見るのは楽しいんですが参加するのはちょっと……。毎回おでこでフライをキャッチしていては体がもちません。


 クリスマスシーズンにはナニーさんの新刊が出る予定です。

 

 ナニーさんも「このお話はけっさくよ」と言っています。三島さんのもとに届けられることをぼくは楽しみに待っています。お父さんお母さん、サンタクロースにぜひおねがいしてみてください。


                             寺井かずゆきより





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