第81話:シンプルな文
カクヨムで創作論やエッセーを読んでいると「自分には文章力が足りない。文章力をつけるために、もっと語彙を増やさないといけない」という考えをよく見かける。
しかし私は逆で、難解な言葉を駆使して複雑精妙な文章を書くよりは、ごく平凡な言葉だけで独自性を出したいと考えるようになった。できるだけ奇を衒わず、ごくシンプルな文章を書きたい。
モンテーニュは「エセー」の中で、次のように書いている。
「言葉においても、珍しい文句や、人のあまり知らない単語を探しまわるのは子供じみた、衒学的な野心からくるものです。私は何とかしてパリの市場で用いられる言葉だけを使ってすますようにしたいものだと思います。」
この部分以外も「エセー」は、ごくあっさりした、読んでいて疲れない文章で書かれているので、お手本にしたい。ただし「エセー」は引用が多いので、見方によっては衒学的ともいえるし、回りくどく感じられる人もいるだろう。
では、モンテーニュの他に考えられる、シンプルな文章の見本とはどのようなものがあるだろうか。
と考えていたら、たまたま図書館にアゴタ・クリストフの自伝「文盲」があったので、借りて読んだ。「悪童日記」三部作で有名な人だが、90年代にヒットした小説なので、今はもうさほどの知名度はないかもしれない。内容はハンガリーからの亡命の前後のことが中心になっており、文章が極端にそぎ落とされていて、全体の量も少ない。久々にシンプルな名文を読んだように感じられた。
シンプルな文章を読みたいと思うような時に、いつも手が伸びるのはフェルディナント・フォン・シーラッハの諸作で、創元推理文庫から「犯罪」「罪悪」「コリーニ事件」などが出ている。
他に有名な作家でいうとカフカ、カミュ、ヘミングウェイなどだろうか。自分の好みでいうとアランの文章、日本では中島敦、倉橋由美子の「大人のための残酷童話」、柴田宵曲の「古句を観る」、同じく怪談や奇談を集めた「妖異博物館」、それに山本夏彦の著書全般は文章がシンプルで、かつ奥行きが深く、たまに読むと頭がすっきりする。もっと肩の凝らない書き手としては、ミュージシャンの早川義夫も加えたい。
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