第82話:「対立」から別の関係への推移あれこれ その1

「ドラマとは、すなわち対立を描くものだ」という考え方があって、その方針に従うようにして多くのフィクションが作られてきた。  


 したがって、多くの創作指南においては、物語やキャラクターを創造する際に、早い段階で対立関係を作る作業が当然のように指示されている。


 ・主人公の「敵」は誰それである


 ・主人公と誰かは「ライバル」である


 ・主人公が属しているグループAと、グループBは「対立」している


 などなど。

 

 ジャンルがスポーツ物でも恋愛物でもバトル物でも、似た手順を踏んで設定がデザインされる。そして、勝負や対決や戦闘が始まる。


 これはごく当たり前の流れで、黒澤明でもシェイクスピアでもホメロスでも神話でも「対立」は現れて当然であり、21世紀の現在でも有効のようだが、それをわざわざコテコテと、チマチマと作るという作業は、創造というよりは捏造に見えなくもない(厳密に考えると創作とは恣意的な捏造であり、多少は秩序のある妄想にすぎないとも言えるが)。もっと自然に描けないものだろうか。


 と考えているうちに、明らかな「対立」だった関係が、いつの間にか別の関係に変容しているケースや、視点を変えると対立がスッと消えてしまうようなケースをいくつか思いついた。


 まずラブコメにおける「仲が悪い男女(対立)→やがて相思相愛」というケースを典型的な例として挙げたい。第一印象はお互いに最悪で、当初は対立していて、少し距離が縮まるとまた喧嘩になって、あれこれあって結局はハッピーエンドになる。


 永久不滅と言いたくなるほどの普遍的なパターンであり、ラブコメとはこの大枠の範囲の中で、様々な誤解や行き違いの小ヴァリエーションを追求する物語なのだと言い換えてもいい。

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