第53話:フィクションにおける位置関係(映画編)

 フィクションを分析的に読んだり見たりしていると、色々な種類の面白さがあることに気づく。


 面白さの中でも「位置関係がよくわかって面白い」と感じることが時々あって、これは「面白い」と感じていることすらほとんど自覚できないような、目立たない種類の面白さかもしれない。


 しかし、そこには確実に「よい表現を受け止めた」という快さと満足感、充実感があるので、この点を意識して創作すれば、ひと味かふた味は違った、より良い何かを生み出せる可能性がある。


 映画でわかりやすい例を挙げると「七人の侍」の最後の戦いは、相手をこの方面からこのように誘導して、こうやって倒す、という一連の作戦における敵・味方の位置関係、距離、方向、戦力配置がよくわかる仕組みになっている。説明的でなく、話の進行の中で自然に理解できる。


 その「七人の侍」を範としていることが明白な「プライベート・ライアン」も、やはりクライマックスの戦闘シーンで、敵の戦車を狭い道に誘導して戦う。


 この場面はベースとしては「七人の侍」とよく似ているが、それだけでなく、高い位置からライフルで敵兵を狙う兵士や、二階程度の高さでずっと戦っている兵士もいて、立体的になっている。冒頭の上陸シーンも、敵のいる位置の距離、高さ、角度がすんなり理解できるようになっている。


 法廷もので「情婦」という映画があって、これは初見では気づかなかったが、法廷内のどこに誰がいるか、という配置がちょっと類を見ないほど立体的になっていた。


 日本と違って、裁判官と証人は、舞台上の左右にいるように位置している。対して立方体の右側面に検察も弁護側も揃っていて、左側面には歌舞伎座でいう花道のような通路がある。これだけで「舞台側の面(奥の方)」「右側面」「左側面」と三方面あるので、もう充分に立体的になっている。


 さらに、手前側の面には被告人が座っているため「手前の面」も存在するのである。これでぐるっと四面になって、さらに劇場の二階席そっくりの、斜めの傍聴席もあって、この高い位置にも映画の進行上、欠かせない人物が座っている。しかも、右側面にいる弁護士に声を出さずに合図を送ったりするのである。こうなると斜めのラインで情報が行き交うことにもなるので、さらに立体性が増す。

 この映画はもともとクリスティの短編で、そこから戯曲化されて映画化されたものだが、おそらくこうした立体的な配置は映画に特有のものではないかと思う(戯曲は未確認)。


 最近、発見した例を挙げると78年の「ゾンビ」も、かなり位置関係をはっきり理解できる作品だった。

 知らない人のために説明すると、様々なゾンビ映画の中で、その源流に位置する本作は、基本的に人間がゾンビの集団から逃げまどう話になっている。


 前半で「ヘリコプターを調達して何とか逃げる(燃料はないし行くあてもない)」という展開になって、男女4人が巨大なショッピングモールの屋上に着陸する。

 後半は、ほとんどこの建物内部での攻防が中心になるのだが、


 ・ヘリで着陸した屋上

 ・屋上からガラスを壊して入った倉庫のような場所

 ・倉庫から二階への階段

 ・二階の通路

 ・ボイラー室

 ・エレベーターとその上の排気ダクト

 ・二階の売り場

 ・一階の売り場

 ・一階の入口


 と、実に多彩な「場」が次々に出てきて、今、どこに誰がいて、どういう風に移動がしにくいのか、どういう考えでゾンビをおびき寄せているのかが、よくわかる仕組みになっている。

 二階と一階の関係も「吹き抜けになっている場所」「階段で通じている場所AとB」「広いエスカレーターのある場所」など、数種類ある。それぞれ何度も画面に映るので、またあの場所に来たんだな、とすぐにわかる。そのため、終盤の攻防の迫力や、最後の絶望感が増すのである。


 同じようにゾンビものの「新感染」もまた列車の前の方に誰々のグループがいて、そちらに行くにはここを通らねばならない、という事情や、危険な車両を通過できたグループとそうでないグループの関係など、実にわかりやすかった。


 他にも「カリオストロの城」の城の内部や「男はつらいよ」の「とらや」の間取りといった建物内部の関係性や、黒澤映画やヒッチコック映画における小道具の位置関係など、いくつかの例を思いつくが、長くなるので今回はここまで。


 映画ばかりになってしまったが、漫画や小説ではさほど例を思いつかないので、何かサンプルがあればぜひコメント欄などで挙げていただきたい。

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