第2話:自分から自分への手紙

 以前、五十音順にテーマを決めて、自分に対して自分でアドバイスをするつもりでブログに関する短い心構えを書いた。これらの短文を読み返してみると「ブログ」の部分を「小説」「創作」に読み替えてもほぼ当てはまるので、過去から届いた手紙のようにも読める。誰かにとっては文章論としても参考になるかもしれない(最後の「ん」は無理なので、かわりに「運」になっている)。


 ↓


 あ:商人:商人(あきんど)のように書く、アイドルのように書く、赤ん坊のように書く、安土桃山時代のつもりで書く、明日になっているつもりで書くなど、気分を変えて書く。



 い:井戸:井戸を掘るように根気よくやること。



 う:運動:運動すると、書きにくいと思っていたテーマの内容、構成、アプローチのアイディアが一気に出てくることがある。テレビや読書がヒントになったことは、自分の経験では一度もない。



 え:縁:多少なりとも「読者」らしい人がいてくれる場合、それは地球全体の数十億人の中でたまたま縁のあった人物だと思った方がよい。たとえ的外れの批判をされたとしても、縁のある酔っ払いだと思えばよい。



 お:大人:つい、大人としての冷静な意見を書いてしまう。子供的な暴論と大人の見方で対話させるとか、「建前」と「本音」の二通りの意見を書くとか、立体的にする癖をつける。



 か:書く:書くための場所、時間帯、用紙、筆記用具を変えてみる。



 き:休暇:休暇をとるという選択肢もある。なぜか多くの人は「毎日更新(エンドレス)」で、しかも右肩上がりの成長神話(読者数、PV数の増大)に囚われている。「死ぬまで休まず、毎日働け」と命令されたら誰でも怒るが、なぜか自分自身にはそれを命じている。



 く:苦労:苦労した話、酷い目にあった話、大失敗した話をこそ書くべきで、たとえ脅迫されたとしても自慢話を書いてはならない。



 け:削る:文章を削ることは、文章を書くよりずっと簡単にできる。書き足して「良くなった」と思えるケースは稀だが、削ると心の底から「良くなった」と実感できる。



 こ:行動:「行動して得た情報だからブログに書く価値がある」と思い込んではならない。



 さ:騒ぐ:騒いだからといって、誰もブックマークしてはくれない。騒いだからといって、誰も反論などしてこない。同様に、いくら「ポチッとお願いします!」と騒がれても「にほんブログ村」のバナーをクリックしたくはならない。



 し:死:「死んでもブログだけは残る」という実例をたまに見つけてしまう。



 す:隙:「すべからく」の誤用をよく見かけるが、隙を見せた方がかえって親しまれ、好まれ、喜ばれ、ブックマークされることもある。



 せ:センチメンタル:センチメンタルな気分に浸りきってブログを書いてしまうと、

 ① 後で恥ずかしい思いをする 

 ② 共感したり慰めたりしてくれる人が現れる 

 ③ 罵倒される

 これらのうち最も用心すべきは泥沼的な②である。嫌味の一つも言われて、③によって目を覚ました方が将来のためになる。



 そ:ソルト:ソルトとは塩のことである。砂糖をまぶしたような、甘ったるい感じに文章を仕上げるのは簡単だが、塩を上手く使った料理のように文章を調整するのは難しい。



 た:滝:滝に打たれる修行に比べれば、ブログを書くのは楽だし楽しい。ネガティブなコメントなど、そよ風に等しい。



 ち:地下道:地下道を掘る脱獄囚のように書け。



 つ:つき合い:つき合いで仕方なく読まされるブログ……。これは想像を絶するほどしんどい悪夢である。しかも「読んで!」「読んだ?」と追いかけてくる。だから、自分のブログを無闇に宣伝してはならない。



 て:手癖:文章には手癖が出る。自分は「という訳で」が癖になっている。時々は知り合いに文章の癖を指摘してもらった方がよい。



 と:毒:毒のある発言は「毒にも薬にもならない発言」か「単なる毒」か、それとも「毒にも薬にもなる発言」なのか、どれに当てはまるのかをよく見極めて読むこと。書く時は尚更である。



 な:何:「何でもいいから、とりあえず書いてみよう」という甘い誘いに乗ってブログを始める。すると、何となく始まり、何となく退屈になってきて、何となく書くことが尽きて、やがて何となく終る。まるで人生のようだ。



 に:人間:「人間」という言葉を出さないようにして「人間とは何か?」について書くと、賢明そうに見てもらえる。



 ぬ:布:布のように柔らかい文章を心がけよう。



 ね:ネーミング:ネーミングがシンプルな人は文章もシンプルである。ブログのタイトルとHNが意味不明で、プロフィールが文法的におかしくて、アイコンが判別不能で長文志向という人は、腫れているたんこぶのようなものなので、触ってはいけない。



 の:呑気:呑気に構えていた方がよい。



 は:はんなり:はんなりしている文章の女性ブロガーにハズレなし、と思ったらこの人は男だったのか……。という経験が二、三回ある。



 ひ:ヒートアップ:ヒートアップしてはいけないのと同じくらい、悲観してはならない。



 ふ:フニャフニャ:フニャフニャしているくらいの態度で丁度よい。



 へ:勉強:「これは少し勉強しないと書けないな」と思うようなことは、勉強してもほとんど書けない。



 ほ:本音:本音は嘘にも混じっており、建前にも混じっており、無意味としか思えない文章にも混じっている。



 ま:負け:文章の力で「負けた」と感じる相手に、文章の力で「勝った!」と感じられる機会は来ない。文章力に逆転ホームランめいた勝利はないし、誰かが勝ち負けを教えてもくれない。



 み:短い:短い文章を多く正確に書いた方が、長い文章を書く訓練になる。



 む:無:小津安二郎の墓石にはただ一文字だけ「無」と刻まれている。だから、ブログを休んだりやめたりする理由は長々と書かずに「無」とでも書いておけばよい。



 め:名文:名文を大量に読んだからといって、名文家にはなれない。名文を全く読まないでいると、普通の文章家にもなれない。ブログばかり読んでいると、平均的ブロガー以下の文章力に必ずなる。



 も:モチベーション:モチベーションなど無くても、とにかく書かずにいられないという種類の人々もいる。……ということを知ってからモチベーションについて語っても遅くはない。



 や:野次馬:「友人」「読者」「理解者」「味方」「仲間」の皮をかぶった野次馬が大勢いる。中には「恋人」「夫」「妻」の皮をかぶった野次馬までいる。「兄弟」「姉妹」「両親」、そして「わが子」(以下略)。



 ゆ:誘拐:もっと簡明な文章をどこかから誘拐してこい。話はそれからだ。



 よ:夜:夜に書いた思いつきのメモは、朝日が昇ると共に色あせて見える。では白夜、宇宙空間、太陽の周辺ではどうか。また、目の不自由な人にとってはどうなのか。



 ら:ラッパ:ラッパのように素直に「プー!」と書くべきだ。



 り:リズム:文章を書く時には、リズムボックスやメトロノームのような補助機具はない。しかし、心臓や脈拍のリズムは常にある。



 る:ルール:内的ルールを課す自分と課される自分のうち、前者は理想で後者は現実である。自分と自分で葛藤してヘトヘトになっても、他人は助けてくれない。



 れ:レンコン:「レンコン」と書くか「蓮根」と書くか。その判断によって、ある程度は読者層をコントロールできる。



 ろ:ロバ:旅に出てもロバが馬にはならない。人間は人気ブロガーになったつもりで、馬どころかロバ以下になることもある。



 わ:わんこそば:わんこそばのように、無数のコメントが目の前にホイホイ出されてくることもある。勿論、それを残さず食べきる必要はないし、義務もない。



 ん:運:「運も実力のうち」「努力は必ず報われる」、どちらもブログ運営には適さない標語である。「運」「実力」「努力」は、それぞれ性格の異なる美人三姉妹だから「自分には縁がない……」と思って諦めるくらいで丁度よい。

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