第31話 宣戦布告を黒板に
サイモン「う…………」
「お、目を覚ましたようだな。
サイモン先生。」
サイモンは声が聞こえた方に顔を向けると、アイが椅子に座っていた。
その後ろに黒板が見えたので、どうやらここは学校内の教室だと言う事が分かる。
サイモンが顔を辺りを見回すと、その隣には同じように魚人が椅子に座っていた。
サイモン「わ!!
ば、化けも…」
ゴッツン!!
サイモンは頭にゲンコツを一発喰らった。
サイモン「ぎゅう…」
魚人「じゃから!!
ワシは化け物じゃないギョ!!
お主らと同じ人間で、この学校の国語教師、
『現古文々斎(げんこぶんぶんさい)』!!
よ〜く覚えておけウオ!!」
サイモン「は、はい…現古先生。」
(い、今語尾がウオとかギョになってなかったか…?)
サイモンは必死に笑いを堪えながら謝る。
魚人はプンスカ怒りながら拳をしまう。
アイ「随分うなされてたな。
何か悪い夢でも見ていたのか?」
アイは工具で自分の左腕の義手を直しながら訪ねる。その腕はサイモンと戦った時に壊れた腕だ。
サイモン「あ……先ほどは申し訳ありません。
あなたを敵だと勘違いしてしまって、戦いを挑んでしまって…」
アイ「あー、別にいいさ。
俺は犯罪者のリーダー、追われる事には馴れているいるから…」
現古「へえ」
現古魚人がギロリと睨みつける。
アイは慌てて話題を変えた。
アイ「そ、それよりよ。
その胸の機械、ペースメーカーだろ?
随分でかいけど、よくそれで今まで動けたな」
アイが見つめる先には、サイモンの胸に埋め込まれた、赤く光るランプがあった。
サイモン「え、ええ…。
私は数年前、戦場で前線で戦っていたのですが、敵との戦いで胸に重傷を追い、その後病院でこの機械を埋め込まれたのです」
サイモンはワイシャツのボタンを閉め、ランプを隠す。
アイ「そのペースメーカー、天才軍で使われている品物だ。
お前、敵に助けられたのか?」
サイモン「…よく、このランプだけでこれが天才軍のだと分かりましたね」
アイ「ま、俺も昔は兵隊として戦っていたからね、敵の事も色々勉強してる」
アイは左手の義手を直しながら答える。
その義手ももしかしたら、軍の物なのか?
そうサイモンは尋ねたかったが、まずはアイの問いに答える事にした。
サイモン「……はい…。
次に私が目を覚ました時には、もう敵軍のベッドの上にいました。
私が能力者軍の情報を喋ると踏んだからか、それ以外の理由で助けられたのかは分かりません。
あの時の私は、とにかく部隊の仲間が助かったのかどうか、気掛かりで仕方ありませんでしたから…」
サイモンは自分の右手をギュッと握り締め、アイは無表情で尋ねる。
アイ「それで、分かったのか?
仲間が助かったかどうか…」
サイモンは首を、横に振った。
サイモン「いいえ…。
あの後私は捕虜として敵軍の基地に捕らえられ味方の情報は殆ど入らず、彼等がどうなったのか分かりません。
戦争が終わった今でも、探してはいますが…」
アイ「…そうか…」
アイは工具を仕舞い、左手をギュッと握り締める。
アイ「なら、まだ望みは捨てない方がいいぞ。
俺の仲間には『魔法』が使える奴がいるんだからな。
そいつに頼めばもしかしたら色々わかるかもしれねえ」
サイモン「魔法……ですか………。
そんな非科学的な物に頼るのも、有りかもしれませんね」
サイモンはゆっくりと立ち上がる。
それを見た現古はアイに尋ねる。
現古「…小悪党。
その事で一つ尋ねたい事かあるギョ」
アイ「?」
現古「あの転校生、ルトーだギョ。
奴は本当にお主の仲間なのかウオ?」
アイ「…………」
アイはその問いに、すぐに答えられなかった。
一呼吸した後、
アイ「ああ。奴は俺の仲間だ」
しっかり頷いた。それを見た現古は深いため息をつく。
現古「そうかウオ…」
アイ「隠していて悪かった」
現古「お主の謝罪一つで終わる話じゃないギョ。
ルトーの人生が関わっているんだウオ。
何故奴を、犯罪者の道に引きずり込んだギョ?少年ルトーの一生を『こんな』馬鹿な事のために使わせる気なのかウオ?
ルトーはまだ15にもなってないんだギョ!!」
語尾はアレだが、話している事は人としてしっかりしている。アイはぽりぽりとほほをかく。
アイ「…。
一生、ルトーを縛る気はないさ…。
あいつ自身、自分の居場所が何処か分かっている筈だ。
だからただの偵察任務にあいつを同行させたんだからな」
アイは黒板を見つめる。
その黒板には生徒が落書きをしたのか、白のチョークで『テスト楽勝!』と書かれていた。
アイ「あいつをいつか、あの黒板の前に立たせてやりたかった。 日の当たる世界に戻してやりたかった。
だからあいつをここに連れてきたんだ…」
現古「…………」
アイは立ち上がり、椅子をしまう。
アイ「だが、果心林檎とその仲間、K・K・パーがぶち壊した。
あいつの戻る場所を、あいつらは土足で踏み潰したんだ」
現古「…不老不死のために、学校の生徒を怪物化させたんじゃよな。
ワシ等の祖先が不死の秘密を持ってるから、それを探るために。
しかも、太陽を訳分からん月で覆い隠して…」
現古とアイは、ギュッと右の拳を握り締める。
アイ「その上、仲間にさせて俺達を分断させようとして……。
許せるものか」
アイは黒板に向かい、白いチョークを取り出す。
そしてこう書いた。
『宣戦布告』、と。
アイはくるりと振り返り、壇上をバン、と叩く。
アイ「俺の仲間の帰る場所を潰した奴を許してたまるか!!
果心林檎、校長のK・K・パー。
二人とも、俺たちが吹き飛ばす!!
そして戻すんだ!!皆が戻る場所を!!皆が生きた場所を!!
あんなカビ臭い奴らに渡されてたまるか!!
戦うぞ!
これから俺達は、不老不死の方法を手に入れ、この悪夢のような学校を潰し、果心をギッタンギタンにして、
皆が戻る場所を手に入れるんだ!」
現古「…ワシも、校長には一言言いたいギョ。
早く元の体に戻りたいし、まずは校長から説教するウオ」
現古文々斎はたちあがる。
サイモンは教室の扉を開けた。
サイモン「私も、この学校の教師として、大切な者を守ります。
…二度と失いたくない」
アイ「いざ行くぞ!
校長室へ!!」
二人「オオ!!!」
アイが走り出し、二人がそれについて行く。
現在の物語は、こうして再起動したのだ!!
アイは勢い良く扉を開き、廊下を確認する。
すると、廊下の奥にある階段から、
溶岩がゆっくり降りてくるのが見えた。
アイ「………………………………………………………………はい?」
縷々家(ルルイエ)学校・放送室。
放送室にはルトーと果心が椅子に座っていた。
果心はいつの間にか兵隊の服装を着ている。
ルトー「…いつ着替えたの?」
果心「女性にそれを聞いてはいけないわ」
ルトー「あ、ごめん…」
ルトーは素直に謝った。
果心はフフンと笑い、
果心「さてさて、アイ達はどうするのかしら。
といっても永遠の命を求めるために校長室へ向かうのでしょうけど…。
魔法の水晶で見ましょう」
果心が魔法の水晶を取り出し、呪文を唱える。
すると水晶が浮かび上がり、アイ達の姿が映し出された。
ルトー「アイ…!」
ルトーが嬉しそうな表情で顔を上げる。
果心もニコリと笑い、こう呟いた。
果心「それでは、アイ達の殺戮ショーを見ますか」
ルトー「果心、アイに何を」果心「果心、様と呼びなさい。あなたは今私の部下なのよ」
果心は先程と同じようにニコリと笑う。
しかしその笑みはとても恐ろしい雰囲気を醸し出していた。
ルトーはゾッとしながらも尋ねる。
ルトー「……果心様、何を、する気ですか?」
果心「…ま、良しとしますか。
ほら、アイは言ってたじゃない。『俺は不老不死になる。そしてお前を倒す』…て」
ルトー「そうだね。
アイは只でさえ皆より強いんだ。果心様でも無事ですむかどうか…」
果心「甘いのよねえ」
ルトーのセリフを果心は遮る。ルトーはキョトンとした表情で果心を見つめる。
ルトー「え?」
果心「『たかが』不老不死になった程度で私に勝てると思うなんて、甘すぎるのよ。
私は…」
そこまで言って果心は人差し指で映像をつつく。
場面が変わり、廊下をゆっくりと流れる溶岩を映し出した。
ルトー「…………え?」
果心「私は溶岩だって操れるのに。
不死如きで勝てるなんて甘すぎるわ」
果心は溜め息混じりにやれやれと呟くとニコリと笑う。
果心「ちゃんと真実を教えてあげないと、可哀想よね。残念ですけど彼等の物語はここで終わりだと、丁寧に親切に、残酷にね」
ルトー「ええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!???」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
縷々家学校 一階。 3ーA教室内。
アイ「よ…溶岩だと?
なんでこんな所に溶岩が…」
現古「このままじゃワシ等焼き魚にされてしまうギョ!」
サイモン「焼き魚になるのは現古先生だけですよ。私とアイは丸焼きになります」
アイ「今そこツッコミいれるか!?」
アイ達は全員パニックになりかけていた。
廊下の向こうから押し寄せてくる、溶岩に怯えていたのだ。
アイ「今は溶岩からにげるのが先だ。
正面玄関の方から・・だめだあっちからも溶岩来てやがる!」
現古「は、早く扉を閉めるウオ!!」
正面玄関の方を覗いたアイは急いで扉を閉めて鍵を掛ける。
ほんの少しでも壁代わりになって貰うためだが、あまり意味はないだろう。
現古「危なく、熱でやられる所だったギョ」
サイモン「ここにはアイのアイスボムで作った氷山がありますからね。
溶岩の前に熱で焼け死ぬ事はないでしょう」
現古とサイモンが教室の中心を見ると、そこには4メートルもある氷山が設置されていた。
しかし氷山もだらだらと汗を流し続け、すぐにちいさくなってしまいそうだ。
現古「逃げるならこっちギョ!!
窓側か外に…」
アイ「だが窓の外にはパワーアップした怪物がうろついているぞ?」
アイが窓の方を見ると、現古先生より魚人のような怪物が数十匹もうろついていた。
出れば確実に餌食になる。
アイ「ダメだ、窓は逃げられない…他に、他に逃げ場はないのか!?」
現古「何だギョ〜〜!?
お前逃げるエキスパート自称してるくせに逃げ道もわかんね〜のかうお〜〜!」
アイ「現古先生は逃げ道が分かるのか?」
現古「ゲパパパパパ…。
まあ、半魚人に任せなさいギョ」
アイ(笑い方おかしい…。)
「…どうするつもりなんだ?」
半魚人はそれに答えず、扉の鍵を開けて外へ出る。
アイ「!?」
現古「ここは学校だギョ。
学校に溶岩があるわけないウオ。
だからあれはただの幻…」
外へ出た瞬間、異様な熱気と硫黄の匂いが全身の感覚をふるわせる。
溶岩はすぐそこまできていた。
現古「幻なら、怖くないギョ!」
現古は真っ直ぐ溶岩に向かって歩き出した。
しかし…じゅうう、と痛みが全身を襲う。
余りに熱すぎて、体のあちこちに低温やけどをおこしているのだ。
アイが急いで現古の体を掴み、強引に部屋の中な引きずり込む。
現古「いて〜〜ギョ!
いて〜〜ギョ!
あれは、幻じゃないウオ!!」
アイ「当たり前だ、バカヤロウ!」
全身をかきむしる半魚人をアイは殴り飛ばす。
しかし半魚人は倒れず、アイに向かって襲いかかってきた!
現古「ふざけんなギョ!あいつら、本気でワシ等を殺す気なのかウオ!?」
アイ「だから溶岩使って俺達溶かそうとしてるんじゃねぇか!バカな事すんな!」
現古「じゃあどうすればいいギョ!?
四方は壁に囲まれ、外には敵がウヨウヨ。
このまま溶岩に溶かされるのを待つしかないのかギョ!」
アイ「だからってあれを幻扱いしてどうすんだ!死ぬとこだったぞ!」
現古「だってあんな馬鹿げたモノ信じられないギョ!!
ワシら普通に生活していただけなのに、なんで生徒は怪物にされ、溶岩流されなきゃいけないんだウオ!」
ギャーギャーワーワー!
二人はとうとう喧嘩を始め…
サイモン「うるさい!!!」
両者「「!!」」
サイモンの一声で止まる。
サイモン「今は喧嘩なんかしてる場合じゃないでしょう!!
逃げ道を探さないと…」
そう言ってサイモンは辺りを見回した後、ハッと気付いて上を見る。
サイモン「そうだ…天井!
ここの天井を破壊すれば、この部屋から脱出する事が出来ます!!」
アイ「ならさっさとやれ!」
現古「これで失敗したら承知しないギョ!」
サイモンの提案を、怒声混じりで返す二人。
サイモンは自分の右腕に力を込める。
サイモン「…能力発動、
膨張(パンプアップ)!!」
ぶくん、ぶくん、とサイモンの右腕だけが巨大化する。
そして3メートルまで成長した所で巨大化を止めた。
サイモン「ハアァッ!!」
サイモンは筋肉をフルに動かして、天井を殴りつける!!
ズドオォォン!!!
巨大化した拳が天井を殴る。
…しかし、天井は少し凹んだだけで全く壊れてはいない。
サイモン「ち!」
アイ「くそ、凹んだだけか…だが連続で殴ればいけそうだぞ!」
現古「ギョ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?
わ、ワシ等の学校が壊れていく〜〜!!」
サイモン「もう一度!!」
ズドオォォン!!!
ズドオォォン!!!
ズドオォォン!!!
サイモンは天井を殴ると、少しずつ天井の凹みが大きくなっていく。
しかし、それと同時に扉が壊れ、部屋の中に溶岩が侵入して来た。
ガシャアン!!
アイ「ああ、溶岩が部屋に…!早くしろサイモン!!」
サイモン「く、これで、砕け!」
(ズパル!!拍手部隊の皆!!
私に、力を……!!)
サイモンは目を閉じて、集中する。
右腕に力が籠もり、圧縮される。
サイモン(………………今だ!)
サイモンはカッと目を見開き、勢い良く拳を振り上げた!!
ズドオォォン!!!
ドゴオォォン!!!
バゴオォォン!!!!!
三度目の攻撃で天井が破壊され、二階への入り口が開いた。
アイ「よし、後は俺に任せろ!
二人とも、俺につかまるんだ!」
現古とサイモンはアイの体にしがみつく。
アイ「不成者格闘術(ナラズモノコマンド)
天の邪鬼飛角(アマノジャクジャンパー)!」
バウン!
アイは二人を掴んだまま床を蹴って空を飛ぶ。
そして、空中でもう一度空(くう)を蹴って空を飛んだ。
現古「何!?」
アイ「届け!!!」
バウン!バウン!バウン!
三回程空を飛ぶと、穴を通して二階の教室へ飛ぶ事が出来た。
アイ「やった………。
助かったぞおおおおお!!!」
ルトー「な…?
なんで、助かっているの…?」
ルトーはフラフラと後ずさる。
ルトーの正面には、ナイフが胸に刺さった果心林檎が立っていた。
果心「意外ね。
あなたこんな事が出来たの。
さすがゴブリンズの一人、といった所かしら」
果心は微笑みながら、自分の胸に刺さったナイフの柄を掴む。
果心「でも残念。
私を殺してでもあの溶岩を止めたかったみたいですけど、生憎ナイフじゃ私は死ねません」
果心林檎は笑った。
そして、ナイフを引き抜く。
ズプリ、と音を立ててナイフが引き抜かれ、血が吹き出る。
…しかし果心は笑みを崩さない。逆に刺した方のルトーの顔面が蒼白になっていく。
ルトー「あ……あ………あ…………!?
な、なんで…………?」
果心「何で?決まってるじゃない」
果心林檎は口元を下弦の月のように歪ませながら答えた。
果心「私はもう、不老不死だからよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます