第30話 太陽パート 戦場に降る奇蹟の雨
スミーは両脚を前に出して三輪の車椅子に座っていた。
体中にベルトを巻き付け、足首は前輪のすぐ上に乗っかっている。
スミー「能力発動!
栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)!!」
スミーは両腕で有らん限りの力を使って車椅子の車輪を握り締める。
すると両腕の筋肉が膨張し、まるで怪物のように姿を変える。その腕で車輪を一漕ぎすると、一気に10メートルほど進んだ。
その瞬間、メルの体がスミーに引っ張られる。
メル「うわ、まさか、今度はスミーについていけって事?」
スミー「なめるなよ、軍隊共!!
私の仲間を殺させるものか!!」
スミーが一漕ぎすると、今度は20メートル進み、更に一漕ぎすると、40メートルも進む。 そしてメルも勢い良く引っ張られる。
メル「……何か、凄く嫌な予感がする」
スミー「見るがいい!
私の丸い足は、誰よりも速い事を!!」
そして、思いっ切り車輪を漕ぎだした!
▽ ▲ ▽
空中戦艦、『モーセのステッキ号』
内部・司令室
ズドオオォォォン!!!
兵士1「敵、破壊しました!」
兵士2「残り車両、4!!」
兵士3「高射砲再装填、発射可能まであと30秒!!」
ヘイガー「ごくろうごくろう!
後少しで奴らを殲滅出来るな。
あひゃひゃひゃひゃ!」
兵士たちの報告に、この戦艦の艦長でもあるジョン・ヘイガー二等兵はハンバーガーを食べながら上機嫌に答えた。
ヘイガー「あひゃひゃひゃひゃ!
あ〜、一時はどうなるかと思ったけどこれで月の宮殿(チャンドラ・マハド)プロジェクトの奴らに実験結果を報告出来るな 」
ヘイガーはニンマリ笑いながら、ハンバーガーの包み紙をまるめ、「TRUSH」と書いてあるゴミ箱に向かって紙を投げる。
しかしその時、一人の兵士の声が聞こえてきた。
兵士4「艦長!!
後方より、正体不明の機体が高速で我々の方に向かって走り出しています!」
ヘイガー「何!?」
兵士4「時速、100オーバー!!
サイズは小型で…どうやら一人乗りのようです!!」
ヘイガー「映像で見せられないか?」
兵士4「映像、回します!」
ヘイガーの目の前の映像がレーダー画面から、カメラ映像に変わる。
そこに映し出されていたのは、時速100キロ以上の速度で走る、三輪の車椅子だった。
後部には武器を大量に積んだトロッコのようなものが連結されている。
ヘイガー「な、なに!?
なんだあいつは!!
化け物か!!?」
思わず立ち上がって映像にくいつくように見入るヘイガー二等兵。
そのすぐ下に、ゴミ箱に入れなかった包み紙が転がっていた。
▽ ▲ ▽
スミー「アアアアアアアアアアアア!!!」
スミーは車椅子を必死に漕いでいた。
彼女の能力は『上半身の筋力を強化させる能力』である。
その力により、本来の何十、何百倍の力で車椅子を漕ぐ事が可能となったのだ。
その時速は120キロ。
バイクが走る速度と同じ速度で、三輪の車椅子はスミーを乗せて走り続けていた。
当然、メルも全く同じ速度で引っ張られ続けている。
メル「ギャアアアアアアアアアアア!!」
スミーは顔を右に動かし、肩にあるスイッチを押す。
すると後方に連結されているトロッコのような車の中から一つの武器が出て来た。
それはレールを通り、スミーの右腕に収まる。
携帯型地対空ミサイル…FIMー92スティンガー。
1メートル近い黒い砲身に、高性能のレーダーが搭載されたミサイル兵器だ。
只一つ不思議なのは、そのミサイルの発射口と噴射口に、木の板で栓をしているという事だけ。
スミーは両腕を車輪から放し、スティンガーを持ち、巨大な雲に…敵の空中戦艦に向ける。
スミー「受け取りなよ、死の軍団」
スミーはニコリと笑う。
車椅子の速度は未だ同じ速度で走り続けていた。
スミー「受け取れ!!
私の火薬いっぱいのラブレター!!」
思いっ切り、携帯型地対空ミサイル兵器を敵の空中戦艦目掛けて投げ飛ばした!
▽ ▲ ▽
空中戦艦内部
兵士4「正体不明の機体が、我々に向けてスティンガーを投げてきました!!」
ヘイガー「はあ?
どの世界にミサイル砲を投げる馬鹿がいるんだよ!! こんな上空に浮いている空中戦艦に当たるわけ…」
兵士4「凄い速度です!
回避不可能!!」
ヘイガー「・・は?」
確かに普通なら、ミサイル砲を投げた所で何の意味もないだろう。
しかし、時速120キロ上の速度と、それを可能にした両腕で勢い良く投げ飛ばされたスティンガーは、自分のエンジンを使うより遥かに速い速度で飛行する事を可能にしたのだ。
そしてその中にはミサイルの代わりに大量の火薬が詰め込んである。
その爆発力は、ミサイルの比ではない。
ズウゥドオオォォォオオオンンン!!!
ヘイガー「な、何だぁ!?」
兵士1「敵の投擲物、戦艦の底部に命中!」
兵士2「貴艦へのダメージ、中!
ステルス機能、消失!!」
兵士3「エンジン一部破損!
平行機能、維持できません!」
兵士4「急いで修理部隊を出動させます!!」
次々とヘイガーに伝えられる現実に、へなへなと座り込む。
ヘイガー「そんな、馬鹿な…?
これは、無敵のステルス戦艦、『モーセのステッキ号』だぞ?
部隊を一撃で壊滅出来る力を持つ、最新鋭の兵器だぞ!?
それがバズーカ一発で、崩れるなんて…!
ありえない」
ヘイガーはコントロール・ルームの中央で叫ぶ。
ヘイガー「ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないアアアアリイイイイエエエエナアアアイイイイイイイイイ!!!!!!」
▽ ▲ ▽
8888番隊・サイモン隊長、車内
車内は大騒ぎだった。
何せ先程まで自分達を襲っていた巨大な戦艦が何かに襲われているのだから、当然といえば当然である。
サイモン「何だ!?」
エッグ「あの雲、爆発したぞ!?
何が起きたんだ!?」
ズパル「見ろ!
誰かが走ってるぞ!」
セキタ「あ、あれはまさか…」
その時、通信が入った。
サイモンがスイッチを押す。声はスピーカーで、全車両に聞こえるようになった。
『聞こえる、皆?』
その声は、スミーであった。
サイモンを含め、全員の表情が明るくなる。
サイモン「スミー隊員!?
生きて」セキタ「スミイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
サイモン隊長を押しのけて、セキタは通信機に向けて叫ぶ。
スミー『ちょ、セキタ!?
声でかすぎ、耳が痛い…』
セキタ「スミー、スミーなんだな!?
あああ、無事で良かった…!
ススは!?今の爆発はスミーの仕業か?」
矢継ぎ早にセキタはスミーに尋ねる。
そのすぐ横でサイモン隊長が睨み付けているが、気にしない。
スミー『あーもー!
そんな一気に答えら…れるか。
答えはYESよ。ススも無事だし、さっきの爆発は私の仕業』
セキタ「ススも生きてる…良かった…」
ほろりと泣きそうになるセキタを押しのけ、サイモンが尋ねる。
サイモン「ちょ、ちょっと待って下さい!!
爆発はあなたの仕業?
それはどういう事ですか!?」
スミー『…さっきも言っただろ?私が囮になる作戦。
あれを今やってるんだ』
その一言で、車内の暖かくなりかけた雰囲気が音を立てて凍りつく。
サイモン「なん…ですって?」
スミー『あーもー!
飲み込みの遅い隊長だな!
私が、囮になってあなた達が逃げるんだよ!』
セキタ「ば、馬鹿!!
止めるんだ、スミー!!」
スミー『もう無理よ。
さっきアイツ等の尻を思いっ切り蹴飛ばしてやったから。 カンカンに怒ってこっちに向かってくるわ』
セキタ「な、に…!?
スミー、バカな事は止めろ、止めてくれ!」
セキタの声が震える。
対してスミーの声は異様に明るい。
スミー『アハハ、セキタは優しいねぇ。
まだ私を助けてくれようとしている。
でももういいのよ』
セキタ「スミー…!」
スミー『私は、弱いの。
この部隊の中で、いや、この世界の中で一番弱い。
弱い私は、泣くしかなかった。助けを願う事しか出来なかった。
その私を助けてくれたのはセキタとスス』
スピーカーの向こう側でスミーは笑っていた。とても楽しそうな女の子の顔で笑っていた。
スミー『セキタは弱い私を励ましてくれたし、 ススは弱い私に楽しいサーカスを思い出してくれた。
あの拍手の雨は、忘れたくても忘れられないわ。私の大切な宝物…』
セキタ「そうだ…そうだよスミー!
だから、戻って来い!
俺達と一緒に逃げよう!」
スミー『だから、私は行かないといけない。
アイツと、戦わないと行けない。
私は、皆に助けて貰った。
私は、皆を助けたいの。
私に生きる強さをくれた皆を。
私に生きる楽しさを教えてくれた皆を。
私に笑顔をくれた皆を。
私は、助けたいの』
スミーは笑っていた。
しかしその頬には、一筋の涙が流れていた。
セキタ「頼む、スミー…!
戻って来てくれ、死なないでくれ!
いかないで………」
スミー『大好きだよ、お兄ちゃん。
プツッ、ツー、ツー、ツー、ツー、ツー』
ツー、ツー、ツー、ツー。
連絡が切れた事を知らせる無機質な音が車内に響く。全員黙っていたが、サイモン隊長が一言「逃げるぞ」と言うと、他の仲間は「了解(サー・イエッサー)」と小さく、弱々しく答えた。
ただ、セキタだけは、違う言葉を答えた。
セキタ「………スミー…………!!」
▽ ▲ ▽
スミー(ごめん、ごめんね!
セキタ!こんな弱い私で、ごめんなさい!)
スミーは泣いていた。
泣きながら、戦艦に向けて車輪を漕ぎ続ける。走り続ける道の遥か先に、戦艦が浮いている。
そしてそれより更に先に、ススが乗っている小さな車が、スミーの目に止まる。
スミー(スス…。
辛かったよね、恐ろしかったよね…。
あなたをこんな危険な場所に引きずり込んだのは、この私よ…)
スミーの脳裏に、ススの笑顔が写る。
楽しい歌を歌って皆を楽しませようと練習する、ススの姿が思い出される。
スミー(私を恨んでいるだろうね。
私を嫌っているだろうね。
私を憎んでいるかもしれないわ)
スミーはギュッと、一瞬だけ目を閉じた。
しかしそれは、本当に一瞬…。
すぐに目を見開き、悠々と空を飛ぶ空中戦艦を睨み付ける。
スミー(それでも構わない!!
あなたが生きて、この地獄から出られるならば、私は鬼にも悪魔にもなる!)
「さあ、いくよ!」
スミーは足首を少し右に曲げる。
するとすぐ下の前輪も連動し、結果として車椅子全体が右に曲がった。
そして、初めて対面する事になる。
雲を作る装置で姿を隠した新型空中戦艦。
『モーセのステッキ号』。
今まで仲間を殺し続けた死の軍団の、正体。
スミー「やっと顔を会わせられたわね、殺人者さん。私と一緒に地獄の底まで踊りましょ」
コントロール・ルームではヘイガー艦長が画面越しにスミーを睨みつけている。
ヘイガー「化け物め…!
この艦は貴様のような化け物を殺すためにあるんだ……踏みつぶしてやる!」
ヘイグ「対地空装備の準備をしろ!
高射砲、発射準備は!?」
兵士1「準備、出来ています!いつでも撃てます!」
ヘイグ「よろしい!
ああ、あと『CBU-87/B』の準備をしておけ!」
兵士2「了か…し、失礼、
今何と言いました?CBU-87/B!?
『クラスター爆弾』を使う気ですか!?」
CBU-87/B…かつてアメリカ軍がイラクなどの紛争地域に使用した爆弾である。
ミサイルの中には小さな爆弾が大量に詰め込まれている。
その数、202発。
クラスター爆弾がミサイルとして一度発射されると、一度空中で小さな爆発を起こす。
そして202発の子爆弾が広範囲に大地に降り注ぎ、人間や車両や建物を容赦なく『破壊』するのだ。
しかも破壊されない子爆弾はまるで地雷のように地面の中に潜り、その上を通ったら爆発を引き起こす。
その殺傷能力の高さと後処理にかかる莫大な費用から、世界は一度クラスター爆弾を使用する事を禁止した。
しかし今は能力戦争の真っ只中。
強力な能力者に対抗するため、政府は天才軍に一発だけ装備する事を許可したのだ。
兵士2「たかが人間1人のためにその一発を使う気ですか!?
い、幾らなんでも無茶苦茶です!」
ヘイグ「奴は人間じゃない化け物だ!!
いいから黙ってやれ!!」
兵士「り…了解!」
兵士は大急ぎで機械を動かし、爆弾の準備を始める。それを見たジョン・ヘイグは軽く舌打ちした。
ヘイグ「…ったく、これだから殺し慣れしてない奴は使えないんだ。
俺みたいに殺人者からの軍人上がりなんて、他にいないのかね?」
▲ ▽ ▲
メル(なんだ…これ?
何が、起きているの?)
メルは両手で両耳を塞ぎ、両目を瞼を閉じて塞いでいた。
何の声も聞こえる訳がない。
誰の姿も見える訳がない。
だけど、敵の兵士の声やセキタの姿が、否応無しに頭に飛び込んでくる。
メル(皆の声や嘆きが全部頭の中に入ってくる!一体どうして…?
この悪夢の世界は、どこまで僕に見せたがっているのさ!)
メルは歯を食いしばる。
逃げたい…やめたい…!
この悪夢から、早く脱出したい…!
そんな考えが、何度も何度も頭の中に語りかけてくる。
しかし、そんな弱々しい声を全て吹き飛ばすように、悪夢の世界の住人であるスミーの声が聞こえてくる。
▲ ▽ ▲
スミー「アアアアアアアアアアアア!!」
スミーは全力で空中戦艦に向かっていた。
既に空中戦艦はステルス機能が失われ、白い雲の間に黒い無機質な姿を晒し始めていた。
もう、姿の見えない敵からの高射砲に怯えなくて良い。
スミーが晒された部分を見ると、そこには高射砲があった。
それはしっかりスミーに狙いを付けている。
ボォン、と何かが爆発した音が聞こえた。
スミー「チッ!!」
スミーは急いで足首を左に曲げる。
車椅子全体も左に曲がり、すぐ近くで大きな爆発が起きた。
スミーの体を砂埃が覆い隠す。
兵士1「!!
敵の姿が、砂埃に隠れ消失しました!」
ヘイガー「まずい!」
ズドオオオォォォオオオン!!!
兵士2「被弾しました!!
今度は戦艦上部!!」
兵士3「ダメージ中!!
住居区大破!!」
兵士1「艦全体のダメージ、70%!!」
兵士5「これは、もう退いた方が…」
ヘイガーは何も言わず、ポケットに入ってる試験管を取り出した。そしてそれを兵士5に投げつける。
パシャン!
試験管が割れ、中身の液体が兵士5にかかる。
兵士5「うわ、一体何を…」
ヘイガー「溶けろ、敗残兵」
兵士5「ひっ!!なにこれ…髪!?皮膚!?
目、目が見えな…アアアアア!!!
た、たすめててて…あつい、あついあついあつううい!!」
兵士5は、頭からドロドロに溶けていく。
ヘイガーはそんな兵士を見ることなく、周りの兵士を睨み付ける。
ヘイガー「次に弱音を吐きたい奴は誰だ?」
全員が何も言わず、次の兵器の準備を始めた。そんな中、1人の兵士がヘイグに声をかける。
兵士4「クラスター爆弾の発射準備が出来ました!いつでも撃てます!」
ヘイガー「よし!
奴に地獄の恐ろしさを教えてやる…」
ヘイガーはニヤリと笑った。
その後ろで、頭を無くした兵士が首の部分から嫌な匂いのする煙を噴き出し続けながら、崩れ落ちていった。
▲ ▽ ▲
メル「凄い、あの巨大戦艦がたった二発で崩れ落ちちるなんて…。
スミーは弱くなんかない、とても強い人だ!」
高速移動する車椅子の横でメルは飛びながら呟く。スミーもまた、ニヤリと笑みを浮かべる。しかしその笑みは何故か苦しそうだ。
スミー「よし!
あと一発……ぐ!」
メル「スミー、あ!!」
突如スミーが呻き声を上げて車輪の手を放す。 メルが様子を見ようと体をかがめると、スミーの腕が目に映った。
傷だらけでボロボロの腕が、そこにあった。 血は血管にそって噴き出しており、筋肉や皮膚が酷く痛めつけられてるのが見ただけでわかる。
メル「な、なんだこれは…!?
一体どうして…!!」
スミー「……やっぱりダメだね。
身体強化能力者は皆、力は強力だけどその分代償も大きいんだ」
スミーは自分の腕を見ながら呟く。
腕はビクビクと勝手に動き、まるで別の生き物のようになっていた。
少しだけ、車椅子の速度が遅くなる。
スミー「後一回能力を使えば、私の指が吹き飛ぶね。
アハハ、ハハ、ハハハ」
メル「そ、そんな…今なら敵も弱まってる、囮なんてやめて皆で戦えば勝てるんじゃ…」
スミー「皆で戦えば何とか…。
無理だね、誰かが死んじゃう。
私、そんなのやだよ。絶対いやだ」
メル「スミー…」
スミーはフッと笑う。その瞳は、太陽のように爛々と輝いていた。
スミー「私は、守りたい!
皆を!皆の笑顔を!皆の幸せを!!
私は全て、守りたいんだ!!
能力、発動!!
栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)!」
ボコボコボコ!!
腕が再度、異常に膨れ上がる。
また時速120キロ以上の速度で走ろうと、敵を倒そうと強く力を込める。
しかし、その強力な力は確実にスミーの体を壊していく。
血が、腕のあちこちから吹き出てきた。
スミー「きゃあああああ!!!!」
メル「スミー!
やめてよ!もう止めようよ!死ぬんだよ!?
そこまでしたって、誰も喜ばないよ…」
メルはスミーの体を抱き締めて止めようとする。しかし夢の中の彼は、只のマボロシ。
誰にも触る事も、聞こえる事も出来ないのだ。
その法則に逆らう事が出来ず、彼の体は虚しくスミーを通り抜けていく。
メル「あ、あああ…!」
スミー「これでも、喰らえ…化け物め!」
レールの中の武器が動き出し、またスミーの腕にスティンガーが握られる。
メルは涙を流しながらスミーに懇願する。
メル「やめて、
スミーやめてよぅ!!」
スミー「失せろ、化け物めえええ!!!」
スティンガーは発射された。
スミーの腕をグシャグシャに壊して、発射された。
それと同時に、空中戦艦の下部ハッチが開き、CBU-87/B、クラスター爆弾が落とされる。
スミーの思いが詰まったスティンガーは、今まで一番早く…速く空を飛んだ。
対してクラスター爆弾はゆっくりと地面に向かって落ちていく。
2つのミサイルは軌道線上にあったが、大量に爆弾を積んだクラスター爆弾は少しずつ速度を増す。
結果、2つの爆弾はすれ違うだけでその殺意を止める事は出来なかった。
スティンガーはクラスター爆弾が発射されたハッチに向かって、
クラスター爆弾はスティンガーを投げたスミーへ、真っ直ぐ落ちていく。
ぼん!とクラスター爆弾は空中で爆発した、
そして中にある202発の子爆弾が、地上に降り注ぐ。
スティンガーはハッチの中に消えていった。
ズドオオオォォォオオオン!!ズドオオオォォォオオオン!!ズドオオオォォォオオオン!!!
ヘイガー「な、なにイイイ!!!」
兵士1「敵ミサイル、発射ハッチ内で爆発!!」
兵士2「他の弾薬に連鎖爆発を引き起こしています!!
戦艦が内部から破壊されて…うわあ!
艦内中で爆発が誘発されています!」
兵士3「平行機能、上昇機能、全停止!!」
兵士4「落下します!!
『モーセのステッキ号』は、落下します!!」
兵士6「全員落下衝撃準備!」
ヘイガー「あ、あ、バカな!?
バカなバカなバカな…嘘だ!!
ウソだああああああ!!!!!!」
ヘイグはワナワナと体を震わして叫ぶ。
その声は、爆発の音に飲まれて消えていった。
ぼん! ぼん! ぼん!
ボボボボボボボボボボボボボボボ!!!
大地のあちこちでクラスター爆弾の子爆弾が爆発していく。
それはまさに爆弾の雨だった。
爆弾の雨が真っ直ぐスミーに向かってくる!
メル「スミー!
急いで逃げないと危な…。
スミー?」
メルは急いでスミーに逃げるよう声をかける。
しかしスミーは動かなかった。
動けなかった。
何故なら、彼女は今、激痛のショックで気を失っていたのだから…。
メル「スミー!スミー!?
目を覚まして、スミー!!」
メルは大声で叫ぶ。
爆発はすぐ近くまで来ており、バラバラと砂埃が彼女の体を容赦なく痛めつける。
メル「起きて!ねえおきてよ!
お願いだから目を、目を覚まして!!」
メルは必死にスミーの体を揺すろうとする。 しかし爆弾の雨はすぐ近くまで来ており、 そして、
世界はひっくり返った。
メル「…………ここはどこ………」
メルは目を凝らして辺りを見渡す。
そこは、サーカスの舞台だった。
恐らく入り口だろう天幕の上には、『ネクストラウンドサーカス』と書いてある
ザワアアア
メル「雨が降っている…
いや、違う、この音は……歓声?」
ワアアアアアアアアァァァァァ!!!
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
嵐のような歓声に紛れて雨のように激しい拍手が聞こえる。
その歓声と拍手の中で、メルは見た。
メル「スミー!」
サーカスの舞台の中央で、笑顔で拍手に応えるスミーの姿を見た。
彼女は人生最高の笑顔を浮かべて、両足でしっかりと立っている。
スミーの側には、セキタとススが同じ様に笑顔で笑っている。
その時メルの頭にスミーの声が響いた。
スミー(ああ、何て素晴らしい奇跡だろう!
小さなテントの中に、嵐のような拍手の雨が降り注いでいる…。
全ての痛みも疲れも汚れも洗い流してくれる、綺麗な雨が、私達を祝福している…)
そして次の瞬間、世界はまたひっくり返る。
あの恐ろしい雨が降る世界に。
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ!!!!!!
スミーの小さな体は、あっと言う間に爆発に巻き込まれていった。
しかしメルはその時たしかに聞いた。
スミーの最後の声が。
そしてその声は、メルの心に生涯残る事になる。
スミー(生きている、
それはなんて素晴らしいんだろう。
この雨を浴びて私は初めてそれを実感出来たんだ!)
これが、ススが「分からない」と言った二人の死の内の1人の、死である。
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