第28話 悪人達の交渉

理科室 午後2時43分


 明るい生徒達とちょっと変な性格だけど生徒思いの教師達が過ごす大切な1日。

 本来ならこの時間は皆が『ああ、そろそろ終わる』と思い、これからどうしようか考える時間。

 それは部活だったり遊びだったり塾だったり家事だったりバイトだったり…とても様々だ。  

 しかし今、それら全ては消えていた。

 空に浮かぶ皆既日食と、学校に潜む二匹の怪物の手によって。


 一匹の怪物は皆既日食を作り出し、生徒を化け物に変えてしまう。これでもう生徒は日常には戻れない。みんなみんな仲良く地獄の中で暮らさねばいけないのだ。

 そしてもう一匹の怪物は、化け物に変えた生徒を利用し、ある実験をしていた。

 しかしまだその実験がどんなものか、まだ語れない。

何故なら今回の話は、皆既日食を作り出した美しくも恐ろしい怪物の話だからだ。



校庭


サイモン「よくも…よくも私の生徒を化け物に変えてくれたな!!

 この巨大化する拳で、貴様を潰してやる!」

アイ「誤解を解こうかと思ったけど…やめた。あんたをその考えごと潰してやる!」




 アイとサイモン先生が誤解から始まった激闘を繰り広げている時、学校の理科室ではとても不気味な出来事がおきていた。


 教室2つ分の広さを持つ理科室。

 本来なら無機質な機材や人体模型で不気味なその部屋は、更に不気味になっていた。

 白い壁が剥げ落ち、茶色い木材が露わになった理科室。天井には何故かフジの木が青々と茂り、 蔦の屋根が教室の天井を覆い尽くしている。

 まるで荒廃した花園だ。

 そしてその不気味な理科室の中心にある机の周りを三人が座っている。

 赤いグロキシニアの花の絵が装飾されたカップを手に取りながら、三人の内の一人、果心林檎はもう一人に話しかけた。


果心「ふむ、アイとサイモンが戦い始めましたね。何故かは知らないけど都合がいいわ。

 そのまま苦しみ続けなさい」


 果心はそう言って、窓の外にある黒い太陽を見る。

 Yシャツの上に白衣を羽織り、まるで研究者のような姿をした彼女は、カップの中の紅茶を傾け、優雅に飲み干す。  

 太陽の端が金色に輝いている。それは彼女の作り上げた偽物の月が日の光を溜め込んでいる証拠だ。


果心「苦しめ苦しめ、苦しみ抜いた者が磨かれる。そして磨かれた美しい物は私の飾りに丁度いいでしょうね。

 なんてすばらしい」


 果心は恍惚の笑みを浮かべる。そしてちら、と窓の外に目を向けた。


果心「そして、月が完全に金色に輝く時、月は竜に姿を変えこの学校と怪物に姿を変えた生徒を食らいつくすでしょう。

 しかし不老不死の研究が完成していれば、生徒は死なず研究は完成…」


果心は妖艶に微笑み、二人に話しかける。


果心「全ては私の為に動いてるわ。

 植物が養分を吸って花を咲かせるように、暗闇と共に月が空に浮かぶように。

 素晴らしい事だと思わない?」

ルトー「…そ、そんな訳…ないだろ…」

ハサギ「ふ、ふざけるな貴様…」


 もう一人…ルトーはオドオドしながら、ハサギは果心を睨み付けながら反論している。

 しかし縄で体が縛られている訳でもないのに、両腕は動かない。


ルトー(こ、これがバカアイが午前に出会ったという果心林檎。

 魔法をダンク以外で使える人がいるなんて)

ハサギ(ダンクの他に、魔法を使える人間がいたなんて…しくじった!

 こんな事ならサイモンにゴブリンズの事を教えるんじゃなかった!)

果心「あら、化け物化してないあなた達は危険だと思うからここに避難させたのに…。

 紅茶を飲まない?飲めばあなたの震えが止まるわよ」

ルトー「い、いらない。ていうか欲しくても飲めない…」

ハサギ「貴様…我々をこんなふざけた椅子に縛り上げて、何が目的だ」


 ハサギは果心を睨み付ける。

 果心はしばらくハサギを見つめていたが、微笑みながら答えた。


果心「ふふ、要求?

 そんなの無いわよ。私の要求は叶えたもの」

ルトー「叶えた…?」

果心「私の要求は『K・K・パーの要求を叶える事』。そのためにこの邪悪な世界を作り上げた」

ルトー「K・K・パー…!」


 K・K・パー。

 ルトーはその名に覚えがある。

 彼はGチップを作り上げた科学者、『オーケストラ・メロディ・ゴート』の仲間であり、『怠惰』を希望に変える研究をしている科学者。

…そしてこの中学校の校長でもある。



ダンク「パーの要求がこの学校を邪悪な世界に作り上げる事だと? あいつはこの学校の校長だぞ… 何でそんなふざけた要求をするんだ?」

果心「では説明してあげるわ。まずこれを見なさい」


 果心がパチンと指を鳴らす。

 すると、ルトーの目の前に半魚人が現れる。


ルトー「うわ!」

果心「彼は私達が生まれる遥か数千年前にこの世を生きていた種族よ。

 巨大な怪物と一緒に暮らしていたんだけど、それが深い眠りに着く際、海底深くに沈んでしまった。

 …しかし種族の中には地上で暮らし、人と一緒に暮らす輩もいた。

 それがこの地に暮らす者達の祖先よ」


半魚人がぐにゃりと姿を変え、人の姿に変える。


ハサギ「そ、そんな馬鹿な…。

 有り得ない。普通に考えて、そんな馬鹿げた話があり得る訳がない!」

果心「あなたは今目の前に魔法使いが立っているのに、随分寝ぼけた事を言うのね。

 全世界のほんの一部にそんな種族がいたって何にもおかしくないわ」

ハサギ「だが、それがどうしたんだ!?

 仮に彼等の先祖が魚人だったとして、このふざけた状況と何の関係があるんだ!?」


 ハサギが立ち上がって反論しようとするが、彼の体は椅子に縛られ動けない。


果心「まだまだ説明は終わってないわ。

 彼等が地上に残った理由は、ある事実を後世に伝えるため」

ルトー「ある事実?」

果心「それは彼等のボスを再び呼び戻し、その力を得る方法。それを知るためには生徒を魚人に戻させる必要があった。…そうでもしないと彼等の言葉を理解することは出来ないからね」

ハサギ「…ボス?

 この種族のボスが、なんの力を持っているというのだ?」


ハサギが睨み、果心が笑う。


果心「彼等は時の神とも呼ばれているわ。

 召喚前に周囲の時間を急激に進ませる危険な神だから、召喚には細心の注意を払わないといけない。

 しかしその力は召喚者を不老長寿にする力を持つ。私達はこの力がほしいのよ」

ルトー「そんな…」


怯えるルトーに、ハサギが話し掛ける。


ハサギ「ルトー、あまり間に受けない方がいい。こいつは頭がおかしいんだ」

果心「やれやれ、警察のハサギは頭が固いわね」


果心はフフと笑い、ハサギはじろりと果心を睨む。


ハサギ「警察?俺はただの教師」

果心「教師のフリして学校に潜入した、警察でしょう?知っているわよ。

 なにせ、ゴブリンズがこの学校を狙っているという情報を警察に流したのは、この私だからね」

ハサギ「…!」

果心「騙せたと思った?残念だけど騙されていたのよ。私達に。

 それに警察は必要なのよ、ゴブリンズの動きを牽制するのにとっても必要なの」


 果心は涼しい顔でハサギを見つめる。対してハサギは冷や汗を垂らしながら再三、果心を見つめる。


ハサギ「必要…?

 さっきお前、もう心配ない、全て私達の為に動いていると言ったじゃないか。これ以上何が起きるんだ?」

果心「あれよ」


 果心は窓の外にある太陽を指差す。

 太陽は漆黒の竜に姿を隠され、まるで皆既日食のようだ。


ハサギ「あれがどうした? 」

果心「あなたにはこれからゴブリンズを誘導し、化け物から守らせて貰う。

 そうでもしないと危険だからね」

ハサギ「は?何を…うわ!」


 不意にハサギが悲鳴を残して姿を消す。

 ハサギのいた所には椅子が一つあるだけだ。この二人は終始対極の表情をしていた。しかし今、その顔がルトーに向けられる。


果心「…さて。次はあなたね。『ゴブリンズ』のルトー君」

ルトー「う、やっぱり僕の正体も知ってる…」


 ルトーは冷や汗を垂らす。

 果心はニコリと優しく笑う。


果心「そう。私は何でも知っている。

 あなたの強さも、能力もね」

ルトー「ハサギの前で僕がゴブリンズである事を知らせたくないという事も、分かってるんだ。

 …なんで僕達の事をそんなに?」

果心「それは教えない。それより私はあなたに聞きたい事があるからね」


「聞きたい事?」と呟くルトーの前まで、果心は歩き出す。そして少し屈んで顔をルトーに近付けさせる。

 あと数センチ近付けば唇が触れ合いそうだ。

 目、鼻、口、全てが整ったその顔は、事情を知らない男性なら一目見ただけで魅力されてしまうだろう。

 ルトーは思わず顔を背けようとするが、何故か体が動かない。


果心「残念。逃げられないわ。

 私が聞きたい事はね、あなた自身の事」

ルトー「ぼ、僕自身の事!?」


 ルトーは顔を真っ赤にしながら聞き返す。

 言葉に余裕がぜんぜんない。

 それを知ってか知らずか、果心は妙に艶のある声で囁いた。


果心「そう、あなたの事。

 あなたはこれから、どうしたいの?」

ルトー「そ、それは…」


 ルトーは顔を真っ赤に染めながら目を横に逸らす。果心はまたニコリと笑うと、

 立ち上がって聞き返す。


果心「どうしたいの?

 皆の平安を取り戻すために私と戦う?

 それは男らしくてとても素晴らしい。私も全力で応えてあげる」


 轟々轟々轟々轟々……。

 ニコリと笑う果心の後ろで闇が今か今かと渦巻いている。

 それを見たルトーの表情がサッと青くなる。


果心「自分の平安のために、ここから逃げる? それはとても懸命よ。誰だって恐ろしい目にわざわざあう必要はないもの。

 しっかり逃げ道を作ってあげる」


 果心はニコリと笑みを浮かべたたまま、右手を差し伸べる。もし掴めば一生、アイも学校の皆もゴブリンズも助ける事は出来なくなるだろう。


果心「もし、逃げるのも戦うのも出来ないのであれば、いつものように何処かに隠れる?

 それは普段のあなたらしくて一番いいかもしれないわ。 いい隠れ場所があるから案内してあげる」


 果心林檎はニコリニコリと笑いながら左手の掌を広げる。 掌の上には丸い闇があり、その中に数人の生徒や先生の姿が見えた。


ルトー「ひっ!?」

果心「さあ、あなたはどれを選ぶ?

 好きなのを選びなさい」


 果心は歌うように、楽しく話し掛ける。

しかし、そのどれか一つを選んでも、果心林檎の毒からは逃げられないのだ。

ルトーはゴクリ、と唾を飲んだ。




そして、時は現在に戻る。




果心『久しぶりねアイ!

 覚えていてくれて嬉しいわぁ!』


 校庭のマイクから、果心の声が校庭中に響く。 アイはギリッと歯を噛み締める。

どうやらこのマイク、相手の声が聞こえるようだ。


アイ「果心、何のつもりだ!?

 学園の奴らにこんな酷い仕打ちをしやがって何をしたいんだ!?」


アイは目線を一瞬だけ、凍りついた生徒達に向ける。


果心『あら、そんなの決まってるじゃない。

 不老』「不老不死のためじゃろう?」


 果心のマイクによる大きな台詞を、誰かが遮る。アイが急いで振り返ると、そけには半魚人の姿をした現古文々斎が立っていた。


アイ「現古先生…?

 先生は、この現象の正体を知っているんですか?」

現古「儂も知ったのはつい先程じゃ。

 急に頭の中に様々な情報が入り込んできたんじゃよ。儂等の正体、本来仕えていた主の正体、この魔術の正体がな」

アイ「正体…だって?」

果心『あらぁ?半魚人の癖に随分ペラペラ喋るわね。現古文々斎』

現古「げぱぱぱぱぱぱぱ!

 わしも初めてじゃよ、生徒以外でこんなに怒りを感じるのは!」


現古はマイクを睨み付ける。


現古「わしはお主が何を謀っておるのかも知っとるわい!

 不老不死が目的なんじゃろ!?」

果心「あら、何故私の目的が…?

 そうか、そう言えばあなた随分の高齢ね。

だから『先祖の本能』が弱まり、体を半魚人化しても意識を奪われなかったのか…」


 マイク越しにしみじみと果心は納得する。

 反対に現古は怒りを露わにした。


現古「なんじゃその言い草!

 人をモノみたいに扱いおって!」

果心『だってあなたは私から見れば実験動物の一匹だし』

現古「なんじゃと!?」

果心『私は今、アイに話しがあるの。

 黙ってくれない、若造(ボーイ)』

現古「な…!?」

アイ「話だと?なんの話だ?」


 興奮する現古を引き止め、話を進めさせようとするアイ。


果心『あなたにあげた『色欲の研究資料』を私に返しなさい』

アイ「は…?ああ、これか?」


 果心にいきなり突拍子もない事を言われ、思わず口を開け…閉める。

そしてスーツの内側のポケットに右手を伸ばし、何かを取り出す。

それは分厚い紙の束だった。


アイ「…これの事か」

果心『そうそれよ。大事に持ってくれるなんて最高ね!』

現古「なんじゃそれは?」

アイ「これは果心林檎が俺に渡したものだ。

 内容は…今回の計画が書いてある」

現古「!?」


現古が顔をしかめる。


アイ「それだけじゃない。今回の計画を含め、4つの計画がこの資料には書いてあるんだ」

現古「よ、4つ!?

 奴ら、こんな馬鹿げた事をそんなに考えていたのか!?」

アイ「ああ…これはもう馬鹿げてるとか、狂ってるなんてレベルじゃない」


アイは顔を上げ、放送マイクを…その向こうにいるだろう果心林檎を睨みつける。


アイ「狂気もまた才能の1つだ」

果心『お褒めの言葉、有り難く承るわ。

さて、話を戻しましょう。

 その資料、有るものと交換したいのよ。

 まずはこれを聞きなさい。

 …ささ、言われた通りに言うのよ』


アイ「…?」


アイは顔をしかめる。

そして放送マイクから聞こえたのは、最も有り得ない声だった。


『や、ヤッホー、アイ…現古先生…

 僕、じゃなかった、ルトーは……』

アイ(ルトー!?)

現古「ルトー!?

 あの転校生じゃないかギョ!?」


アイとルトーは同時に驚きの声をあげる。

しかし、アイの胸中にはザワザワと何かが震えていた。


アイ(何だ?

 凄く、嫌な予感がする……!)


アイは思わずゴクリと唾を飲み、言葉を待つ。

やがて放送マイクからルトーの声が流れる。




ルトー『ルトーは……ルトーは……!

 果心林檎の仲間になっちゃいました』

アイ「…………………………………………は?」



長い沈黙の後、ようやく出てきた言葉が「は?」

しかしマイクは容赦なく言葉を紡ぐ。


ルトー『ち、違うんだよ!

 僕は本当はこんな事したくなかったんだ!

 だけど、果心に捕まっちゃって、『戦うか逃げるか捕虜になるかえらべ』なんて言われて、でもどれを選んでもアイ達を助ける事なんて出来ないから、だから、だから僕は』アイ「ルトー」

ルトー『そ、それにさ。僕、弱いじゃん!

 機械いじりや情報操作くらいしか僕は出来ないし、皆みたいに様々な過去を持ってない、ただ金が欲しいために』アイ「ルトー」

ルトー『あ、アイ!早くここから逃げて!果心が罠を』

アイ「ルトー!!!」

ルトー『!!!』


アイの怒声が聞こえたのか、ルトーの声が止まる。アイはふぅ、と一息つくと、こう言った。


アイ「…いいから、果心に言われた事だけを喋ろ。仲間になったなら、役にたたなきゃ殺されるぞ」

ルトー『…………。

 うん、わかった………』

現古「………」


 ルトーはやがて語り始める。

 内容はアイ達が今、どれだけ絶望的な状況にあるかと言うことだった。

 まずはこの皆既日食。この日食は竜が作り出した影であり、その中にある物は邪悪な力を増加させ、それは時間と共に強化されていくという事。

 そしてその結界から先に出るには、あの竜をなんとかしないといけない事。

 更にこの学校にアイ達以外にまともな人間は存在せず、『運良く』半魚人にならなかった者達は全て果心の特製結界に閉じ込められている、

 という説明だった。

 そしてその話を現古もアイも黙って聞いていた。

 アイの心の中は、ザワザワと騒いでいたようで何かをじっとこらえながら聞いていたが。


全てを語り終えた時、マイクから出た声は果心に変わっていた。


果心『おわかりいただけたかしら?

 あなたの状況が。そして私の言いたい事が』

アイ「ああ、だいたい分かった。

 つまり俺はこの資料を渡さないと貴様の結界に無理矢理閉じ込められる。しかし資料を渡せばルトーを解放しここから出る方法を教てやる。

 ……つまりはそういう事だろ?」

果心『正解。あなたの仲間を返して欲しければ、それをよこしなさい。

 どうせ資料の中身は把握したのでしょう?

 それならあなたにとってその紙はもう不要。

 その資料を私に返し、私はあなたにルトーを返す。…シンプルな取引ね』

アイ「どこがだ。

 この資料は貴様が俺に渡した物。貴様にとっても不要な筈だ。

 裏があるなんて…誰にだってわかるぞ」

果心『しかしあなた達は動かねばならない。 …大切な仲間のために、ね』


 果心の笑みを含んだ声が聞こえる。

 それを聞いたアイは…笑った。


アイ「く、ククク… !

 フハハハハハハハハハハハ!」

現古「!?」

アイ「馬鹿馬鹿しい!!

 貴様の考えはその程度か、果心林檎!?」

果心『…何を言ってるの?』


アイは右手を横に振り下ろす。


アイ「貴様は実に馬鹿だな!!

 こうは考えられないのか!?

 不老不死になる方法を貴様は知り、それを俺に教えた。

 犯罪者である俺がそれを聞いて、悪人である俺がそれを知って、

 仲間を気にするより貴様を倒すより先に俺が不老不死になる、なんて考えてなかったのか!?」


現古「な!?

 小悪党、何を言っている!?」


 現古はアイをにらみ、制止させようと近付く。 だがアイはそれを掌を突き出して止める。


アイ「黙ってな先生!!

 今、悪党として喋ってるんだ!」


果心『…。あなたに最初にあった時、あなたの罪深さをテストしたわ。

その結果、あなたは自分で決めた事には決して逆らわない人間だと知っている』

アイ「テスト?結果?何だそりゃ?

 『初めて』は人生平等に存在するんだ!

 『初めて』自分の考えを破って欲に走るなんて事、誰にだってある!」

果心『あなたにとってルトーは必要な存在よ。なにせこの子は』

アイ「ゴブリンズの一員、『隠れ鬼』ルトー! それならば、喜んで俺の野望の為の礎になるだろうよ!」

現古「な!?

 あの少年、小悪党の仲間じゃったのか!?

 知らなかった…知りたくなかった…」

果心『馬鹿ね。

 不老不死にどうやってなるか、あなたが知っている訳無いじゃない。あなたの考えは向こう見ずの愚か者がする事よ」

アイ「馬鹿め。

 俺には貴様がくれた資料がある。そこにちゃんと書いてあるぜ。『不老不死の研究者、K・K・パー』の名前が!」

果心『…まさか、校長を襲って不老不死の方法を知る気なの!?』


 アイは右足に思い切り力を入れて地面を踏み込んだ。ドンと大きな音が鳴り、砂埃が舞う。


アイ「当・然・だ!

 何故なら俺は、義賊ゴブリンズのリーダー、氷鬼のアイだからな!!

 宝を見つけて盗まないなんて、勿体ない事するかぁ!!」


現古「な…」

ルトー『な…』

果心『な…』


三人「なんだってええええええええええ

エエエエエ!!!???」

 

アイ「果心!!

 そこで待ってろ!今に俺が不老不死になっててめえの所に行ってやる!

 ルトー!!

 てめえもそこでまって…」

果心『残念。

 時間切れよ』

アイ「…あ?」



キ〜〜ンコ〜〜ンカ〜〜ンコ〜〜ン



 突然、チャイムが鳴り響く。

 怪物しかいないこの学校に。

 全ての希望がたたれた学校に。

 あまりに間抜けな、チャイムの音が鳴り響く。


アイ「!!

な、なんだ!?」

現古「アイ、太陽を見ろ!」

アイ「太陽…?

 な、なんだあれは!?」


 アイが見たその先には、皆既日食の右下が金色に輝いており、まるで三日月のようになっていた。


アイ「三日月…?」

現古「奴の呪法は時間と共に強化されていくんだギョ!そしたら影響下に有る我らも強化されるんだウオ!

 …わ〜、なんだギョ!この変な言葉はウオ!」

アイ「…強化される? という事は…」


 アイはちらっと後ろの校庭を見る。

 そこには氷漬けにしたはずの半魚人が、氷の殻を壊し始めていた。


アイ「ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバい!! 先生!!早く逃げるぞ!」

現古「待つギョ!

 サイモン先生を連れて行かないといけないウオ!」

アイ「…そうだな。

 あいつ、胸に馬鹿でかいペースメーカーを埋め込んでいるから、起こしても早く走れない… ちっ、背負うしかないか」


アイは急いでサイモンを背負い、校舎に駆け込む。その先に何が待っていても、アイは進むだろう。

 

己の信念を曲げないために。

己の怒りを誰かにぶつけるために。

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