第23話 セキタとサイモン。

ルトー&男子達「かんぱ〜い!」


ルトーと男子達は牛乳カップで乾杯した。

四時間目の体育ではいがみ合っていた彼等だが、走っている内に友情がめばえたようだ。

彼等は一つの班にあつまり、楽しそうにはなしあっていた。


ルトー「いやあ、凄いね皆!あんなに早く走るなんて後少しで追いつかれる所だったよ」

男子1「ルトーこそ、俺達が仕掛けた罠をあんなに早く解除するなんて、おみそれしたぜ」

男子2「そうそう、俺なんかチェーンソーを振り回していたのに、ひょいひょい避けるし」

男子3「あの素早さ、あの身軽さ…あたい好きになりそうだわん(は」

ルトー「!?」

男子3「冗談よじょ〜だん。

 お〜〜ほっほっほっほっほ!」


 そんなやり取りを別のグループで聞いていたアイは、半ば呆れながら呟いた。


アイ「これが中学の給食風景…なんてカオスなんだ。何処から突っ込めばいいかわからん。 これだから最近の若い奴はヘンテコだと」

女子1「あれ先生、ピーマンだめなんですか?」

アイ「はっはっは。

 大人はピーマン食べなくても大きく育つから食べなくてもいいんだよ。

 そうだ、折角だから君たちが食べなさい。大きく育つから」

女子1「これだから最近のオヤジ共は・・」(ボソッ)

アイ「ん?」


 その様子を、更に別のグループで聴いていたサイモン先生は、フッと笑った。  

 その笑みは楽しそうで、しかし哀しみも少し乗せた複雑な笑みだった。


サイモン「やはり、給食はいいな。スス達が来た時も、確かこんなに賑やかだったね」


 そして、サイモンはポケットから在る物を取りだした。それは黒い小さな機械だった。

まるで小さな棒のようだが、その中には小さな小さな回線や電子版がびっしり詰まっている。


サイモン「君もそうだろう?

 セキタ、スミー、ススよ。」

 (あの時もそう、こんな楽しい食事を楽しんでいた時の事だったね。

 あの時は、三人の得意な歌を聴かせてくれたな。

 とても、いい歌だった)







数年前、第8888(拍手)部隊、食堂。

午後10時


普段は会議室だが、夜は食堂に変わるこの部屋は今、スス、スミー、セキタのライブ会場に代わっていた。

 セキタとスミーはジャグリングをして、観客を沸かせ、ススはフランスの古い歌(シャンソン)を唄っている。

 若い女性なのにその歌声は低く、優しさと強さを絡ませた歌声に兵士達は魅了されていく。

 その兵士達の奥、即ち入り口の手前では、サイモン隊長が壁に寄りかかりながら歌を聴いていた。

 やがて、歌が終わる。

歌い終えた三人が恭しく一礼すると、全ての兵士達が沢山の拍手という音楽で返してくれた。


兵士1「最高だー!」

兵士2「もっと聞かせてくれー!」

兵士3「いいぞー!!」

兵士4「アンコールー!!!」

兵士5「ススちゃーん、こっち向いてーー!

 今晩俺と一緒に」

兵士6〜20「ああん?」


兵士5は他の兵士に何処かに連れ去られたが、スス達は気付かなかった。


スス「皆ー!!

 今日は音楽を聞いてくれて、ありがとー!」

セキタ「また次回もよろしくー!」

スミー「ネクストラウンドサーカスを、宜しくなー!」


スス達は満面の笑みで、皆の拍手に応えた。


ワアアアアアアアア!!

パチパチパチパチパチパチパチパチ !


こうして拍手の嵐の中、第12回出張ネクストラウンドサーカスは終わりを告げた。




 午前3時頃、サイモンは、部隊テントの外に出た。

 曇り空の夜は暗く、赤土で覆われ、草一本生えてない大地は、まるで他の星に来たような錯覚を覚える。

 自然に出来た風景ではなく、半世紀近い戦争が作り上げた、殺戮の景色だ。

 その土が何故赤いかと問われれば、薬物の影響や兵士の血が染み込んでいるからだと憶測が幾つも飛び交うが、真実は解ってはいない。

 只一つ言える事は、この戦争で汚れた大地が元に戻るには、長い年月が必要だと言う事だけだ。

 サイモンは外を見張る兵士に話し掛けた。


兵士1「あ、隊長。

 今の所異常ナシです」

サイモン「ありがとうございます。

 今日は私が代わりましょう。君はもう寝てていいですよ」

兵士1「はっ!あ、ありがとうございます!

 私はこれで・・」


 兵士1はテントに戻り、サイモン以外誰もいなくなった・・ハズだった。

 サイモンは見張りを続けたまま、後ろに立っているセキタに声をかける。


サイモン「何故、君がここに? セキタ副隊長」

セキタ「貴方と話がしたかったからですよ。

 誰の声も聞こえない場所で・・誰の目も気にしない場所で・・」


 舞台の上と殆ど同じ笑みを浮かべて、セキタは一歩サイモンに歩み寄る。


セキタ「今日は誰にも言えない何かを話したくて、自分はここに隠れていたでしょう。

 ・・隊長こそ何故ここに? 」


サイモンはセキタに振り返らないまま、答える。


サイモン「それはおそらく、誰にも言えない何かがここにいれば聞けると思ったから、私はここに立っているのでしょう」


サイモンはセキタの方に振り返る。


サイモン「当ててみましょうか?

 ススの事でしょう。

 貴方は、彼女を部隊に引き込んだ事を後悔しているのでは?」

セキタ「 流石は、最強の能力者と唱われた能力者、『シンプル(お人好しな)・サイモン』。

 見抜いてましたか」

サイモン「亡くなった医療班の代わりにススを呼ぶよう提案したのは貴方だ。

 しかし、彼女が来て以来部隊の仕事には参加させず、見回りと医術の勉強、そしてサーカスの修行ばかりさせている。

 貴方が彼女を部隊に引き寄せたのは、部隊のためではなく、自分の気持ちの為だと」

セキタ「・・隊長には悪いが、ススは兵士としては使えない。

 あいつは一時間に一度、弾丸より早く走る力を持っているが、それは人殺しとして使うにはあまりに強大過ぎます。

 そしてそれに半比例するように、彼女は人に優し過ぎるのです」


 セキタは自分の拳を握り締める。

 サイモンは何も語らず、セキタの話しに耳を傾けていた。


セキタ「あいつはその力を使う事を無闇に恐れ、医術を学んだ。俺はそれを知ってたが、

 どうしてもあいつに会いたくて隊長にススを呼ぶよう提案しました。

 今では後悔しているんです。あいつを戦場に呼んだ事を・・。

 あいつが武器を持ち、人を殺す姿を・・」


 そこまで言って、セキタは言葉を詰まらせた。

セキタは少しずつ心の中で何かを決意し、それを口に出そうとしていた。

 しかし、それより早くサイモンが口を開いた。


サイモン「落ち着きなさい、セキタ上級軍曹。

 貴方は妹をとても大事にしている。

 だからこそ、戦争で他の部隊に移され、何処かの誰かに彼女を利用されるのを嫌がったのでしょう。

 その妹思いな性格を、ススは良く知っているみたいですね」

セキタ「え?」


サイモンはセキタに向かって静かに歩み寄る。


サイモン「私が彼女をここに来るよう電話で呼んだ時、彼女はとても喜んでいました。

 また姉とサーカスが出来る、また兄と家族について話し合える・・とね。

 貴方が妹思いであるように、彼女もまた、兄弟思いな性格だったんですね」

セキタ「スス・・」


 セキタは目を丸くし、サイモンは表情を柔らかくしながら、されども景色を見ながらサイモンは話を続ける。


サイモン「それに、私は彼女を呼んだ事を少しも後悔していません。

 彼女が来たお陰で、我々8888番隊、通称拍手部隊はその名に負けない陽気な部隊に変わりました。

 もし彼女が来なければ、この部隊は拍手の素晴らしさを忘れたまま、死んでいたでしょう。

 彼等の笑顔を取り戻すのは強い敵を倒す事では出来ません。

 これはあなたの手柄ですよ、セキタ。

 あなたは恥じる事など、何一つないのです」

セキタ「・・・・!

 隊長! 本当にありがとうございます!!」


 セキタはサイモンの背中に向かい、頭を下げる。サイモンは少しだけセキタに顔を向け、笑みを見せる。


サイモン「礼は私達こそ貴方に言わねばなりません。

 さあ今日はもう寝なさい。歌を歌って、少し疲れたでしょう。

 また明日からは沢山働かなければいけませんからね」

セキタ「はい!失礼します!」


 セキタは敬礼すると、大急ぎで自分のテントに戻っていった。



▲   ▽   ▲


現在、中学校教室、給食の時間。


サイモン(彼等はとても仲のよい兄弟だ。

 私があの記憶を何度も思い出せるのは、彼等の優しさがあったからこそです)


 サイモンはフッと笑った。

 しかしその笑みは、何処か悲しみを秘めた笑みだった。


サイモン(だから、私は、許せない。

 私自身を。この『シンプル・サイモン』を許す事はない)




 学校の給食時間はまもなく終わる。

次は昼休み。生徒の気が一番安らぐ時であり、また、一番事故を起こしやすい時間でもある。

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