第16話 大罪計画
ルトーは現古先生の授業を眺めながらまだ過去の記憶を探っていた。
ルトー(アレは僕たちがオーケストラの資料を漁っていた時だった。)
現古「いいかお前ら、諺(ことわざ)と言う漢字の書き方だが・・」
ルトーは黒板の前に立つ現古を眺めながら、記憶の中のアイを思い出していく。
ルトー(あの時のアイも、あんな風に僕たちの事をお前らとか言って偉そうにしてたっけ)
1ヶ月前。
ルトー「発表をやめる!?」
アイ「ああ」
ルトー「ああ、じゃないよ!
何考えているのさバカ首領!」
僕は驚きの余りアイの首根っこを掴んでグラグラと揺する。 僕が怒るのは予想外だったのか、アイは目を白黒させながら首を揺すられている。
アイ「い、今その説明を、おお」 ルトー「いいかいバカリーダー!今から1ヶ月前にオーケストラ邸に侵入してその資料を得る事が出来たよね! そん時どれだけ皆が苦労」アイ「く、首がしま」「してるかわかってるのかバカ首領!そりゃ僕はあの時出番はなかったけど、皆の声とか状況とか全部通信機を通し」アイ「シ、シヌ、あ、お花ばた」「て見てたんだ!皆凄い大変な思いして、ひどい目にあってよ〜やく手に入れた超貴重な資料だぞ!ここで発表しないでどうすんだよ!
バカリーダー黙ってないで答えてみろ!」
アイ「・・・・」
返事はない。
ただのしかばねのようだ。
スス「ア〜〜〜イ!!
しっかりしてーー!!」
アイ「ハハハ・・花畑の向こうに何か見えるよ、ジョセフィーヌ・・」
ススが懸命に蘇生活動している間、ダンクが代わりに説明してくれた。
ダンク「いいか、あいつは資料を調べている途中に恐ろしい事実を発見したんだ」
ルトー「恐ろしい事実?」
ダンク「こいつを見ろ。その事実をコピーした奴だ・・俺が説明するより、そっちの方が早いだろ」
2009年×月×日
今日世界が大きく変わった。
あの裏切り者、ゴルゾネス・トオルが我々が魂を込めて作り上げたGチップの資料を自分の発表として世界に放り出してしまったのだ。
もうあれを公に研究する事は出来ないだろう。だが少しも残念とは思わない。
むしろよかった。 これでよかったのだ。
これで我々は思う存分自分の研究に人生を捧げられる。
これで我々の研究は何段階も進んだのだ。
我々の研究は昔から「欲を希望に変える」研究をしていた。
それにGチップの真の資料はこちらにある。 研究は幾らでも出来るのだ。
だがあまりにも素晴らしく恐ろしいこの研究を誰かに知られてはいけない。
そこで我々は科学者の服を捨て、別の服を着て生活し、裏でこっそりとこの研究を進めるとしよう。
K・K・パーは怠惰の欲を実現するために
「人間を不死に変える研究」をーーー
ジャン・グールは強欲を実現するために
「他者の力をいただく研究」をーー
果心林檎は色欲を実現させるために
「世界中の人間が何も考えずに幸せになれる研究」をーー
ナンテ・メンドールが憤怒を実現するために
「世界中の人間が同じ事を考える」研究をーー
そして私、オーケストラ・メロディ・ゴートが傲慢を実現するために「人間と同一の能力を持つ新たな存在を生み出す」研究をーー
これからは思う存分研究出来るのだ!
そして全ての計画、『大罪計画』は2080年4月1日を持って完成する。
あいつが盗んだGチップは粗悪品。
2080年には全て失せる。
そしてその時こそ。 我々の真の研究が表舞台にたてる時だ。
小さな教室の小さな椅子に腰かけたルトーは他の誰にも気づかれないように腕をワナワナと震わせ、拳を強く握りしめていた。
ルトー(あの時の怒りは今も忘れられない)
ルトーは何も書いてない机を見つめていた。 皆が皆真剣に授業を受けている姿を見ていた。Gチップによる才能が開花するのは丁度中学生の時だ。
ルトー(皆、Gチップのせいで凄い苦労をして、ようやく平和に生活出来るようになったんだ。
あの昔の資料はそれを全て嘲笑うような内容だ。
バカリーダーが発表したくないのは、皆がようやく平和になった生活を自分の手で壊したく無かったから・・)
それは臆病と言えば臆病な選択。
だけどおかげで、あの研究者の仲間達に自分の存在を悟られずに侵入する事が出来た。
ルトー(それがこの学校。K・K・パーが創立させ、校長と言う立場で今なお学校に居座っている。
だがその裏ではGチップの研究が進められているにちがいない)
僕は自分の壁に付けた黒い盗聴器を見つめた。 盗聴器の赤いボタンを押すと、ステルス機能が作動して他者には見つからなくなる。
僕の名はルトー。仲間からは「隠れ鬼のルトー」と呼ばれている。
それは僕が・・機械いじりの天才で隠れるのが上手いから、だと思う。
ルトー(でも僕達の作戦K・K・パーの学校に忍び込んで、奴の資料を見つける事。)
僕らが発表しなかったおかげでなんなく奴らの牙城に侵入出来た。
あとは、資料を探すだけだ。
ルトー(それにしても・・)
ルトーはチラッと目線を上げる。
アイ「え〜この諺は『身からでたエビ』と言って」
現古「身からでたサビじゃ馬鹿者!」
ゴツ〜ン!
痛そうな音が教室に響く。現古がアイの頭を殴ったのだ。
アイ「痛てえ!」
ルトー(駄目だこのバカリーダー・・ていうか、なんでリーダーは学校の先生に変装しているんだよ・・)
ルトーは大きな溜め息をついた。 本来は自分一人だけで良かったのだが、アイが『学校の先生面白そう!俺やる俺やる!』と軽いノリで先生に変装したのだ。
しかし授業は間違えてばかり。ダンクが教えた勉強も間違えてばかり。ルトーは正直この学校に潜む悪よりも、目の前の仲間の方が心配で仕方なかった。
ルトー(バカがバカバカしすぎる行動してどうするんだよ・・頼むからボロはださないでくれ・・)
▽ ▲ ▽
アイ(くそ〜!あのジジイめ〜!!)
授業を終えたアイは怒りながらトイレで用も足さず愚痴を溢していた。
アイ(悪の組織のリーダーである俺をポカポカ殴りやがって!後で痛い目に・・ん?)
「では次の授業を見に行くアル。このクラスある。」
「ありがとうございます」
トイレの外で二人の話し声が聞こえてきた。
一人は女性で、おそらくここの教師なのだろう。だがもう一人は何処かで聞き覚えのある声だ。
アイがトイレからこっそり顔を出し声の主を確認する。 そして大急ぎで扉を閉めた。
アイ「な、なななな!なんでハサギがいるんだ!?」
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