第12話 相棒
先に動いたのは、上空で鉄板に乗って浮かぶシティだった。
右腕を振り上げると、上空に三つのテトラポッドが出現する。 それらは全て、落ちる事なくフワフワと浮いている。
シティ「『コンクリートUFO』」
シティが右手をゆっくり回すと、それに呼応するように三つのテトラポッドも回転する。
一回転、ニ回転、三回転と一回転する度に速度を増し、だんだん回転するテトラポッドはまるで回転しながら飛び回るUFOのように見える。
シティ「行け!」
シティが右腕を振り下ろすと同時に、
三つのテトラポッドが高速回転しながらケシゴ目指して突進していく。
自分に向かい飛んでくる岩にケシゴはフッと笑うと小さく呟いた。
ケシゴ「馬よ、俺を守れ」
ヒヒイイィィン!
ケシゴの後ろから馬の鳴き声が聞こえたかと思うと、 二メートルはある茶色い馬がケシゴの襟首をくわえて走り出した。
シティ「う、馬!?」
そしてケシゴが立っていた場所に三つのテトラポッドが次々と刺さり、それを確認してからケシゴは笑みを深くしていく。
ケシゴ「攻撃が甘いな。
もっと殺す気で来いよ」
馬の背に乗ったケシゴが呟くと、上空を睨む。シティもまた鉄板の上で笑みを深くする。
ケシゴ「鴉(カラス)よ!梟(フクロウ)よ! 貴様等の領地を荒らす者に罰を与えよ!!」
大量の羽音が聞こえてシティが上を見上げると、闇夜の中から数千数万の鴉や梟が現れ、自分を取り囲んでいるのが見え、目を丸くする。
シティ「!」
ケシゴ「ヒッチコックの映画を体験するんだな」
鳥達がギャアギャアと濁った声を上げながら一斉にシティ目掛けて突進する。
シティは舌打ちした後右腕を振り上げる。
シティ「『コンクリートUFO』、私を守護せよ!」
シティが右腕を振り下ろすと、地面に刺さった三つのテトラポッドが浮かび上がる。
三つのテトラポッドは再び回転を始めUFO化すると、シティの周りを取り囲む。
鳥「ピィ!」
目の前に突然現れた鳥達がテトラポッドに驚き突進を中断し、UFOの周りをぐるぐると飛び回る。
シティ「詰めが甘いわね、猛獣使いさん」
シティはフッと笑い、ケシゴは無言でシティを睨み付ける。
その戦いの様子をダンクとノリの二人は遠くから見ていた。
ダンク「すごい戦いだなー」
ノリ「僕たちの存在無しッス」
ダンク「お前ら警察だろ、増援とか呼ばないのかよ」
ノリ「いやー、オタクら相手じゃ被害が増えそうッスからねぇ」
ダンク「いや、そんな事はないぞノリ君。
俺達だって節度は守るさ」
ノリ「そうッスか?
でもボクはあんな化け物同士の戦いは参加したくないッスよ」
ダンク「……確かに、あれに参加出来るのは化け物と呼ばれる奴等だけだろうな」
ダンクはフッと笑った。
しかしその笑みは何故か寂しそうな
馬が地上を走り、背に乗ったケシゴが上空を睨みつける。
シティは上空で愉快に笑っていた。
シティ「アハハハハハハ!
あんた、凄く楽しいわ!
他のヌルい奴らとは違う。
最高よ!」
ケシゴ「…」
シティの周りではコンクリートUFOが円運動でシティを守護し、更にその周りでは鳥達がシティを狙いながら飛び交っている。
そんな状況で彼女は高笑いし、
右腕を下に、ケシゴに向けて伸ばす。
ケシゴ「?」
シティ「気に入った。
あんた、警察なんかやめて私と一緒に来ない?」
ケシゴ「なに?」
シティ「私と来ないかと言ってるの。
貴方と一緒ならもっと楽しい事が出来そうじゃない」
シティがフフ、と笑う。
その瞳は本当に楽しそうで、何の策略も裏もなく誘っているのがケシゴには分かった。
彼には純粋に遊び相手を欲している目にしか見えなかった。
ケシゴは獣の笑みを浮かべたまま答える。
ケシゴ「嬉しい申し出だが、遠慮しておこう。俺は平和のために警察に入ったのだからな」
シティ「平和ぁ?」
今度はシティが聞き返した。
ケシゴは笑みを浮かべたまま話を続ける。
ケシゴ「人は…いや、生き物は皆一人では生きられない。
全ての者がこの美しい地球で生きるために手を取り合っている。
貴様はそれを潰そうとする悪者だ。
それに手を貸す事はできないな」
ケシゴが手にした鞭を奮い、地面を叩く。
馬が立ち止まり、ケシゴはシティを確実に睨みつけた。
ケシゴ「貴様と手を取る気はない。
震えて死ね、悪者が」
シティ「は、何を言って・・が!?」
ケシゴの睨みがシティを襲う。
『恐怖の魔眼』で見た者の体を固めるケシゴの睨み。
また先程のように体が動けなくなる…そうケシゴは考えていた。
そして、その考えの通りシティは体を震わして・・笑みを浮かべる。
シティ「う…う……ウ………。
ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!
アーーーーーーハハハハハハハァァ!!」
そして一気に高笑いし、ケシゴを睨み返した。
ケシゴ「!!?」
シティ「平和ァ?手を取り合うぅ?
馬鹿じゃないの、あなた?」
シティが右腕を振り上げる。
シティ「私は楽しむ為にここにいるの!
楽しみがあるからこそ、生き物は手を取り合い、争いあい、高めあった!!
貴方の言う平和は、一人じゃ生きられない愚か物が言う台詞よ!
生きる事しか出来ない馬鹿者め!!」
そして、激しい怒りをケシゴに見せ、ケシゴの上空に電柱が現れる。
シティ「天誅一本!」
それは真っすぐケシゴめがけて落下する。
このままではケシゴは潰れるだろう。
そうシティが思った瞬間、ケシゴはフッと笑った。
ケシゴ「だから、俺は一人じゃないんだよ」シティ「!?」
ズドン!!
全く不意にシティの右側頭部に重い衝撃が走る。
シティの体がぐらつくと同時に、ケシゴの頭上にある電柱が消滅した。
ケシゴ「紹介しよう。
彼女の名はペンシ・ミトーリ。
俺の相棒だ」
ケシゴの声が頭の中を流れながら、シティは倒れそうになる。
ぎりぎりで自分の体を支え、鈍く痛む頭を抑えて後ろを向くと、白いスーツを着た女性が立っていた。
彼女がケシゴの言う相棒、ペンシ・ミズーリなんだろう。
シティ「な……!?」
シティは殴られた事より、ペンシという女性が存在する事に驚愕する。
ここは上空十メートルの鉄板の上、普通の人がどうやったらここまで来れるのか?
その問いに答えるように、ペンシは語り始める。
ペンシ「ケシゴが貴方に対して出した鴉達」
シティがぐるりと辺りを見渡す。
ギャアギャアと喚きながら辺りを飛び交う鴉の姿が瞳に映った。
ペンシ「こいつらの背に飛び乗って来ただけの事だ」
シティ「そんな……馬鹿な!?」
(鳥の背から背へ飛び乗ってここまで来たというの…… そんな漫画みたいな事が)
ドゴン!
シティの肩に拳が入る。
まるでゴルフクラブで直接殴られたような痛みがシティの肩に響いた。
シティ「痛っ!」
ペンシ「貴様の敗因は一人で戦った事」
痛みを必死に抑えるシティをペンシは睨む。
ペンシ「最初に貴様が動き出した時、もしダンクを救っていれば、こうはならなかった。
この失態は、貴様が起こしたのだよ?シティ」
シティ「う……」
ケシゴ「ペンシ!ソイツを縛っとけ」
ペンシ「了解!」
ペンシはポケットから手錠を取り出しシティの手首にかける。
ガチャン!
ケシゴ「よし、後は……」
「我は汝に問う。
汝、名は何と言う?汝は静かに答える」
不意に、誰かの歌声がケシゴの耳に入る。
見ると包帯だらけの男、ダンクが変な歌を歌っていた。
ケシゴ「?」
ダンク「我が名は軍勢(レギオン)、大勢いるのですから」
ダンクの体に不思議な現象が起きていた。
包帯が鈍い光を放っているのだ。
まるで彼自身が輝いているかのように
ダンク「肉欲を求める者よ聞け。
大勢を求める者よ知れ。
これが汝の末路なり」
ノリ「ダンク?」
そばにいたノリが離れる。
ダンクの包帯から奇妙な文字が現れたからだ。
ダンク「桃色魔法。
ピンクレギオン!!」
ボワッ!
突然、ダンクの隣の地面から魔法陣が現れる。 その中から現れたのはピンク色の豚。
ケシゴ「何?」
豚「ぶー」
豚は一匹だけではない。
大量の豚が魔法陣から飛び出してきたのだ。 その数は百以上。 それが狭い道路に敷き詰められている。
ケシゴ「!?」
ダンク「お前らの敗因は、俺を『捕まえた』と勘違いしてることだ。
豚共よ、大地を踏み鳴らし愚か者を潰せ!」
豚「ぶー」(はははははは!
久々のシャバだああ!)
豚「ぶー」(進め進め進めえええ!!)
豚「ぶー」(ピンクレギオン、だいこうし〜ん!!)
豚の軍隊がケシゴ目掛けて走り出す。
ケシゴ「笑わせるな!俺は動物使いの天才だぞ!こんな豚ごとき、操れない訳がない!」
ケシゴはこちらにむかってくる豚に対して、恐怖の魔眼を使う。
豚「ぶー」(うお!!なんかあの兄ちゃん怖いぜ!)
豚「ぶー」(慌てるな!
我らの信条を思い出せ!)
豚「ぶー」(我らの信条?)
豚「ぶー」(赤信号、皆で渡れば、怖くない!)
豚「ぶー」(そうだ…逃げちゃダメだ!)
豚達は更に加速した!
ケシゴ「な!
俺のカリスマが、こんな豚共に通用しないだと!?」
ぶーぶーぶー!!
ケシゴは豚の軍隊に呑まれた。
ケシゴ「うおおおおおおおお!!!」
ペンシ「ケシゴ!」
それを見たペンシは思わずシティから離れ、鉄板の端に寄る。
シティ(今だ!)
突如、二人を乗せた鉄板が消える。
二人は重力に従い、バラバラに落ちていく。
そしてシティは自分のすぐ下にもう一度鉄板を出現させて鉄板に乗り、ペンシは豚の軍隊が走り続ける地面に落下した!
シティ「豚の海に落ちろ!」
ペンシ「なんの、この程度!」
ペンシは空中で一回転して体勢を整え、何とか豚の背に乗った。
そしてペンシはケシゴを探す。
だがケシゴの姿が見つからない。
見えるのは豚の群れだけだ。
ペンシ「ケシゴぉ!!」
ペンシは何度も辺りを見渡す。
相棒はいないかと探し回る。
が、実際はペンシが乗っている豚の足元に転がっているのだが、それにペンシは気付かない。
ペンシ「ケェェシゴォォォ!!」
シティ「ありがとうダンク!
おかげで助かったわ!」
ダンクの頭上まで移動したシティが手を伸ばす。ダンクも手を伸ばそうとして…手を止める。
何故なら、すぐ近くで拳銃を構えるノリがいたから…。
ダンク「何のつもりだ?」
ノリ「こっちの台詞ッス。
何故あんな馬鹿な真似をしたッスか?
少なくとも貴方は物分かりの良い人に見えるッスけどね」
ノリはちらっと豚の群れを見た。
ペンシが豚に呑まれながらケシゴを必死に探している。
ダンク「…そうだな。
奴は俺の仲間を捕まえようとしたからだ。
それに、」
ノリ「それに?」
ダンク「それに、俺も化物だからな」
ガチャン!
ノリ「!?」
気が付くと、ダンクにかけたはずの手錠がノリの手首にかけられていた。
ノリ「な!?」
ダンク「じゃあな。アドモアゼル(お嬢さん)」
気が付くと、ダンクは鉄板に乗っていた。
ノリ「ま、待て」ぶーぶーぶー!!!
気が付くと、
自分も豚の軍隊に囲まれていた。
ノリ「…ち……畜生オオオ!!」
気が付くと、ノリはたった一人で叫んでいた…。
シティ「あー、びっくりした!
後少しでやられるかと思ったわ。
もっと早く私を助けなさいよ!」
ダンク「おや、誰よりも高みを目指す高鬼さんのセリフとは思えませんな」
ダンクは紳士ぶった台詞でシティの怒りを茶化す。 シティは言い返さない代わりに頬を膨らましている。
シティ「むー・・・」
ダンク「冗談だよ。
本当はペンシが出てくるのを待ってたんだ。それに、これで『あっち』に行ける」
ダンクは苦笑した後、家の方を睨み付ける。 シティもハッとして家を見つめた。
シティ「あっ・・」
ダンク「後はあいつらを救出するだけだな」
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