第11話 ハサギが秘密にしたかった事。

ドリーム・メロディゴート邸

?????

 

 ガチャ、と音を立ててドアのノブが周り、一人の人間が部屋に入る。

何故か全身を真っ白な粉まみれにして。


スス「う……ウフフ……ウフフフフフフフフフフ。

 私達、生きて帰れた。

 帰ったぞーーーーー!」


 何を体験したの分からないが、小麦色の肌を真っ白にしたススが歓喜の声を上げる。

よほど怖い思いをしたのだろう。

 その後ろから真っ黒になった人物が部屋に入る。


アイ「ア?アア……ア?

アアア、アーーーーー!

アーーーーーーーーーー!」


 全身を真っ黒にしたアイが叫んだ。

 何を経験したのが分からないが、よほど恐ろしい目に遭ったのだろう。

 二人はただただ生きてる事に感謝し続け、しばらくの間、この不可思議な光景が続いた。




スス「さて、と」

アイ「ここは何処だ?」


 さっきとは打って変わって妙にスッキリした二人が部屋の中をキョロキョロと見渡す。

 どうやら誰かの部屋らしいが、暗闇で良く見えない。

 カチ、コチ、と時計が時間を刻む音だけがハッキリと聞こえる。


アイ「この部屋に窓は…」

スス「無いわね。他の扉も無し」


 壁を手に当てて歩くススが話す。

 だが、窓らしい窓はどこにも無い。


スス「こんな事ならあそこでライトを落とすんじゃなかった」

アイ「ススは悪くない。悪いのはこの家だ」


 アイが部屋の中心を睨みつけながら喋る。

 だが、その眼に先程とは違う輝きが見えていた。


スス「アイ?」

アイ「俺はまた、ヤバいのを見つけたらしいな。」

スス「また!?

どうせまた変なボタンとか虎とか鰐皮バッグとかラーメンとかそんなもんでしょ?

そんなのもう見飽きたわ!」

アイ「いや、違う。

これはそんな理解不能なモノじゃない。

 ……人間だ」

スス「!?」


ススがびくっと後ずさる。

 アイは左の義腕を操作すると、掌がライトのように発光した。

 そして、ライトを『それ』に向けた。

影が取り除かれ、光にさらされたそれを見て、ススは目を丸くする。


スス「……人間?これが?」


 ススは思わず目を疑う。

 何故なら目の前にいるのは、安楽椅子に座った金髪の少年。

 ライトに照らされ王冠のように輝く金髪。 まるで作り物のように綺麗な肌。

 海のように青い目はカッと見開いている。

 とても人間のようには見えない。


スス「人形じゃないの?」

アイ「違う。脈を測ってみな」


 アイに言われた通り、ススは少年の手首に指を当てる。

 僅かな熱と、脈の振動を感じた。


スス「……脈がある!生きているの、これ…じゃない、この人、誰なの・・」

アイ「さあな。

 だがハサギが中に入れたくなかった理由が分かったぜ」


 アイは通信のスイッチを入れた。

 通信相手はハサギだ。


ハサギ「誰?」

アイ『俺だよ俺、わかんねえかな?』


 ワゴンの中で沈んでいたハサギが飛び上がる。


ハサギ「アイ!?生きてたんだな!」

アイ『おいおいそこは「オレオレ詐欺かよ」とツッコミを入れるシーンだろ?』

ハサギ「このボケたセリフは間違いなくアイだ!ははは」


 ハサギは笑いながらスピーカーのボタンを押す。 これで声が全体に聞こえるはずだ。



シティ「ケシゴ… !

あんたは潰す!」

ケシゴ「やってみろ小娘。

だが貴様の仲間は死んで……」

アイ『ハロハロケシゴく〜ん』

ケシゴ「何!?」


 ケシゴは突然入った通信に思わず後ろを向いた。 だがアイ達の姿は見えない。


アイ『さっきはよくも虎を放り込んでくれたな〜!後で借りを帰すから首を長くして待ってろ!』

ケシゴ「チッ、死に損ないが・・」


ガシャ


 ケシゴの目の前に何か黒い物体が落ちた。

 見るとそれは通信機だった。


シティ「今は私との戦いに集中しましょう。

こいつらの会話なんて邪魔でしかないわ」


 見上げると、シティがニッコリと笑って見下ろしていた。

ケシゴもフッと笑い、 拳に力を込める。


ケシゴ「そうだな。

今は、邪魔な騒音だ」


 そう言うとケシゴもまた、通信機を外して地面に落とした。


シティ「あんたを潰してあげる」

ケシゴ「やって見ろ小娘……!」


 シティは鬼のように愉快に笑い、

 ケシゴは獣のように獰猛に笑い、

 化け物同士の戦いを再開した。




ダンク(あの馬鹿……)

「しかし、ま、無事でなにより…あれ?」


 ダンクはハッと気が付く。

 いつの間に自分の体が動かせる事に。

 どうやらケシゴの呪縛が解けたようだ。


ダンク「やった、今なら行ける!

待ってろアイ、スス。

助けてやるから」


ガチャン!


ダンク「な?」


 変な金属音にダンクが下を向くと、いつのまにかノリがダンクの両手に手錠をかけていた。


ダンク「あれ?」

ノリ「悪いけど、捕まえられる奴は捕まえられる時に捕まえるのが僕の主義ッス 。 

 さ、こっち行くッスよ」


 そういってノリはダンクを引きずっていく。 驚く程簡単に引きずられ、ダンクはせめてもの抵抗に叫んだ。


ダンク「え?ちょっと待って

俺の出番、これからなのに!」

ノリ「僕の出番もこれくらいッス」

ダンク「クウゥッ!

こんなのありか〜!!」


しかしダンクの叫びは、誰の耳にも届く事はなかった。




アイ『少年を見つけたぜ』

ハサギ「!」

アイ『何故か人形みたいな状態だが、こいつだな? お前が家に入れたくなかった理由は』

ハサギ「そうだ。

彼はメルヘン・メロディ・ゴート。

人形になった少年さ」

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