第10話 コンクリート・ロード

 ケシゴの号令と共に、蛇の軍団がダンク達目掛けて襲い掛かる。


ダンクは思わずシティを庇おうと動き始めたが、


『何をしているんだケシゴ!!』


 右耳に付けた通信機からハサギの声を聞いて動きを止める。

 すると蛇達もまたダンクの目の前で動きが止まった。


ケシゴ「…何だ?」


 その通信はケシゴにも届いたらしい。

通信機に指を当てて話している。

 しかし目線はダンク達を睨みつけていた。


ハサギ『何だじゃない!さっきから計画を無視した行動ばかりするな!

 俺達は奴らが獲物を捕まえるまで大人しくしている手筈だったろ!?』

ケシゴ「だが奴らは我々の話しに耳を聞かずに家に侵入しようとした。

 だからこれ以上侵入しないよう邪魔をしているだけだ」

ハサギ『邪魔!?

 虎や蛇を使い、必要以上に恐怖を与える事の何処が邪魔だ!奴等を殺す気か!?』

ケシゴ「だがおかげで奴らを拘束できた。

 今までお前達がどれ程頑張っても一度も掴まらなかった奴等が、だぞ?」

ハサギ『く・・っ!』


 言葉がつまるハサギの僅かなうめきを聞いて、ケシゴはフッと笑った。


ケシゴ「話しは終わりか?なら切るぞ」

ハサギ『待てケシゴ!話しはまだ…』

ケシゴ「現場の指揮を俺に任せたのはあんただ。なら黙って貰おう」

ハサギ『ケシ…』


プツン!


 ケシゴは通信スイッチを切り、もう一度スイッチを入れた。 今度の通信先はペンシだ。


ケシゴ「ペンシ」

ペンシ『何?』

ケシゴ「あの二人に手錠を。

 あの馬鹿がこれ以上騒ぐと面倒だ」

ペンシ『了解』


プツン


ケシゴ「さて…」


ケシゴは今だ動けない二人を見て獣のような獰猛な笑みを見せた。




アイ「何てこった」

スス「あの二人が捕まるなんて」


 アイとススは通信機で今のやり取りを聴いていた。 アイは顔を青くしている。


スス「今すぐここをでましょう。

急いで二人を助けなきゃ」

アイ「異議なし。

 こうなったのも俺達のせいだしな。

やべ、空気読まなきゃ良かった・・・」


 そして二人は部屋の中を見渡す。

 暗くて部屋の様子が分からないのでライトを付けると、

 四人は座れそうなソファと小さなテーブルが明かりに照らされる。


アイ「ここは居間のようだな」

スス「でも窓が無いわ。

明かりは何処かしら?」


 ススがライトで壁を照らすが、明かりのスイッチは見当たらないが、木製の茶色い扉を見つけた。


スス「あ、扉!」


ススは急いで扉を開けようと駆け寄る。

 だがドアノブを回しても、扉は開かない。


スス「鍵がかかってるわ。

 どういう事?入る時は鍵なんてかかってなかったのに」

アイ「大丈夫大丈夫…こういう時は大抵出るための仕掛がどこかに…ん?」


 アイがふと机に目を向けると、赤いボタンが一つ置いてあった。

 そしてその横には「おすな」と書かれた文字が書いてある。

 それはアイの子ども心がうずくには、充分すぎる誘い文句だった。


アイ「……」

スス「アイ?どうしたの?」

アイ「ゴメン、スス」

スス「?」

アイ「俺は…やるなと言われた事を、やっちゃう性格なんだ」


 そして、アイは右腕を伸ばす。

 視線の先にある赤いボタンに気付き、スス止めようと手を伸ばす。

 だがもう遅かった。


スス「えっ!?ちょ、ま」

アイ「えい!」


 アイがボタンを押すと同時に居間の床が二つに割れ、大きな穴が現れる。

 そして二人は当然のように重力に引っ張られ、当然のように落っこちた。


スス「バカー!!

こんなベタな罠に引っ掛かってどうすんのよー!!」

アイ「ゴメーーン!!」

スス「空気読めバカリーダーーっ!!」






ケシゴ「さて」


 ケシゴは蛇の軍団に囲まれたダンクとシティを冷たい目で見下した後、


ケシゴ「貴様ら、どう調理しようか?」

ダンク「…」


 ケシゴは獣のような獰猛な笑みを見せた。

 このまま無傷で捕まえる気はないらしい。

 それを察したダンクは自問自答を始める。


ダンク(どうする?

 ここで俺の力を使えば、宝を奪い俺達は逃げる事は出来る)


 ダンクの拳に力がこもっていくが、目線はケシゴからアイ達が侵入した家に向けられる。


ダンク(しかしそれだとアイ達が虎に喰われる。

 さっき侵入したあの虎が何するか分からない今、こいつに『虎を戻させる』よう命令させないといけない)


 ダンクはケシゴを睨みつける。

 ケシゴは相変わらず獣のように獰猛な笑みを浮かべている。


ダンク(しかしこのS野郎がそれを命令するとは思えないし……。

一体どうすれば)「ダンク」


 ダンクの思考に誰かが割って入る。

ハッと気づくと、シティがダンクを見ていた。 どうやら先程の幻覚からは抜け出したらしい。


ダンク「シティ…」

シティ「あいつ、許せない」

ダンク「ああ、確かに」

シティ「私を見下しやがった」

ダンク「……え?」


 ダンクは目を丸くする。

 その目線の先でシティの瞳にギラギラと輝く炎が灯っていく。


シティ「私を、高鬼であるこの私を!

あいつは見下しやがった!」


 シティが怒りの勢いのままに起き上がる。

 完全に『恐怖』で抑えられたと信じていたケシゴは眉を潜める。



ケシゴ(む?

 催眠がとけたか?)

シティ「私を見下した奴は、許せない!!」


シティは右腕をバッと上げる。

だが、ケシゴは余裕の表情だった。


ケシゴ(だが、それならまたかけ直せば済むだけの話しだ)


 ケシゴがギラッとシティを睨みつけようとしたその瞬間、何かが落ちてくる音をケシゴは聞いた。

 思わず見上げると、大きな灰色の杭が自分目掛けて落ちてきた。


ケシゴ「!?」

シティ「能力発動、コンクリート・ロード!」


ケシゴの目が丸くなり、灰色の杭…電柱が地面に深々と突き刺さる。


シティ「!?」


 今度はシティは目を丸くした。

 そう、電柱は地面に刺さったのだ。

 ケシゴには刺さってない。


 そしてケシゴは、電柱のすぐ横で何事もないように立っていた。


ケシゴ「……。

これが貴様の能力か」シティ「ええ」


 シティは微笑む。

 それを見たケシゴは一瞬だけ目線をシティから逸らし、

 周囲に取り囲んでいる蛇に目を向け、シティに分からないよう命令を送る。

 そしてまたシティに目線を戻した。


シティ「私の能力は2メートル以上ある単純な素材の単純な物体を自由に操る事が出来る」


 シティが笑い、その背後から命令を受けた数匹の蛇が飛び掛かる。

 だがシティは笑みを崩さない。


シティ「こんな風に」


ボゴボゴォ!


 シティが立っている地面が盛り上がり、それはシティを支える柱に変わる。

 そして柱はシティを乗せて10メートル近くまで高くそびえたった。


蛇「!」


 飛び掛かった蛇は、柱に頭を激突させて気絶していく。ケシゴの目線はシティに向けられていく。


シティ「名付けてコンクリート・ロード!

私の持つ最強の力!!」


 柱に乗ったシティは、小さくなったケシゴを睨みつけた。


シティ「ケシゴ。

あんたは、私が絶対潰してあげる」


 ケシゴはニヤリと笑みを浮かべる。

 その表情はまさに獲物を見つけた獣のそれだった。


ケシゴ(高所に避難して俺のカリスマから逃げたか)

「確かに、退屈は潰せそうだ」


 ケシゴは腰から何かを取り出す。

 それは茶色い鞭だった。

 30センチに丸められたそれを広げると、3メートル程にも長くなる。 

 ケシゴはその鞭で地面をピシリと叩く。


ケシゴ「賢い蛇よ!」


 ダンクと柱を取り囲む蛇が一斉にケシゴの方に顔を向ける。 大量の黄色の目がこちらを向く中笑みを浮かべたままケシゴは命令を送る。


ケシゴ「あの無知な女に知恵を与えさせろ。『己は弱い』と思い知らせてやれ!」


 シャーと蛇が鳴いた後、数百の蛇がに柱に巻き付き、スルスルと上がっていく。

 それを見たシティは笑みをたまま電柱から飛び降りる。


ケシゴ「!?」

シティ「ふふふ、私は高鬼!

はいつくばるだけの畜生が、私に触れる事など」


 シティの足元に2メートルはある鉄板が現れる。

 シティがそれに乗ると同時に、柱の真上からテトラポッドが現れ、 蛇の集まる柱目掛けて落下した。


シティ「永遠にない!」


バキャガキドオン!!


 バキャでテトラポッドが柱に命中し

 ガキで柱が折れ、

 ドオンで柱が蛇ごと地上に落下した。


 そしてシティは鬼のように楽しく笑う。

 愉快に、残酷に、笑った。

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