第8話 対峙
カチ。コチ。カチ。コチ。カチ。コチ。
暗い部屋の中、壁にかけてある時計が規則正しく動き、二つの針が9時55分を指し示していた。
壁の時計を確認した白山羊は視線を下ろして安楽椅子に座っている人影に目を向ける。
明かりのない部屋の中、椅子に座っている人影は何を見ているのか分からない。
白山羊は人影に向かって一礼した。
白山羊「主。そろそろ時間です。
警察には話しをつけました。
この家に誰かが入る事がないよう、厳重に警備をさせて貰っています。
彼等が欲する物も、外に出しておきました」
白山羊はちらっと窓を睨んだ。
白いカーテンで覆われた窓の向こうには、姿こそ見えないが気配がする。
白山羊「それに、もしもの時に備えて『防衛装置』を発動させています。
故に、今日は安心してお休み下さい」
人影は何も言わず語らず、ただ椅子に座っていた。まるで人形のように、静かに座っていた。
カチ。コチ。カチ。コチ。カチ。コチ。
ハサギ「全員、準備は出来てるか?」
全員『OK』
通信設備が整ったワゴンの中、通信機を前にハサギが喋ると、
G対策課全員の声が帰って来た。
ハサギ「あと5分で時間だ。
全員、大丈夫か?」
ノリ『大丈夫ッス。
ハサギさんは?』
暗闇の中、段ボールに隠れたノリが通信端末に答える。
ハサギ「俺は大丈夫だ。
しかし奴らめ、一体何処から現れるつもりだ?」
ノリ『そして何が狙いなんだろ?
』
ハサギ「奴らが資料を狙う理由は分からないが、今夜必ずここに来るから気を抜くな」
ノリ『了解ッス』
ペンシ「ノリという馬鹿者、何をノンビリと話しているんだ。ハサギが凄腕の部下だと言うから連れてきたのに、ただのガキじゃないか」
ワゴンから離れた、ゴート邸の庭の茂みの中。
ペンシは一人愚痴をこぼしていた。
オーケストラ邸から少し離れた電柱の近くで、ケシゴは何も言わずに家を睨んでいた。
カチ。コチ。カチ。コチ。カチ。コチ。
ポーン。
ハサギ「10時だ。点呼する」
その一言で全員が辺りを見渡す。
だが、暗闇の中で動く物は無い。
ノリ『大丈夫』ペンシ『異常なし』ケシゴ『大丈夫』
ハサギ「了解。
何だ、やはりあれはただのイタズラか?」
その時、ハサギの通信機に連絡が入った。
『そんな訳ないぜ、ハサギ』
ハサギ「な!?
その声……アイか!?」
ワゴンの中で思わず立ち上がるハサギ。
その時座っていた椅子が勢い良く後ろに下がった。
アイ『そうだよ。ゴブリンズリーダー、氷鬼のアイだ!約束通り来てやったぜ!』
通信機の向こうから何故かビュウビュウという音が聞こえる。
ハサギは通信機の向こうの敵に向かい叫んだ。
ハサギ「何処にいるんだ!」
アイ『目の前だ!』
ハサギは急いで窓から外を覗いた。
目の前の道路には何もない。
道は封鎖してあるので、車も自転車も来ないのは当然だ。
ハサギは思わず眉をひそめた。
窓の向こうでノリがキョロキョロと辺りを見回し、首を傾げる。
ノリ「目の前? 誰もいないッスよ?」
ズドオオォォン!!
ノリの疑問を押し潰すようにノリの目の前に10メートルはある電柱が一本、落下した。
その衝撃でノリが後ろに吹き飛ぶ。
電柱の後ろから灰色の服を着た二十代前半の女性が現れ、電柱の右側に立つ。
「高鬼シティ、参上ってね」
その後ろから全身を放題で巻いたミイラ男が現れる。
ミイラ男は大きい声を上げる。
「色鬼ダンク、参上!」
その後ろから褐色の肌の十代後半の女性がふらふらと現れ、のそのそと電柱の左側に立つ……というより寄り掛かる。
「ご……ごっこ鬼、スス……うぇ」
「おいおい大丈夫かスス」
その後ろから男性が現れる。銀色の義腕でススの背中をさすり、心配そうな目を向けるがススはそれを制した。
スス「アイ……自己紹介」
アイ「あ、そうだった。
ゴブリンズリーダー、氷鬼アイだ!」
アイは何故か両腕を振り回し、ビシッとポーズを付ける。
ビュウ、と強い風が吹いた。
その頃、遥か300メートル上空、飛行船内部。
コックピット。
ルトー「皆すごいなー。
あいつらを驚かせる為だけに300メートル上空から電柱にしがみついて落下なんて、僕には無理」
機械に包まれた部屋の中で十代前半の少年、隠れ鬼ルトーが呟いた。
ハサギはしばらく呆然としていたが、意識を取り戻し通信機のスイッチを入れる。
ハサギ「ゴブリンズが現れた!
各員、作戦通りにうご」アイ『了解』
しかし聞こえて来たのはゴブリンズの声。
ハサギ「な!?」
アイ『ああ、通信に細工をして、お前らの通信が俺達に聞こえるようにしたから。
ま、俺達の通信も聞こえるんだからフェアなイタズラだろ?』
小鬼達のリーダーはククッと笑う。
ゴブリンズとG対策課が、初めて対峙した瞬間だった。
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