第2話 作戦開始
『ゼロォ!!』
観客達が叫んだ瞬間、ビル内では凄く派手な音が響き渡る。
ハサギ「うお!何だこの音は!?」
ノリ「周りが聞こえないッス!!」
スーツ姿の男性、ハサギは思わず耳を塞いだ。喧しい音が突然近くで鳴り響き、すぐとなりにいる人の声も聞こえない。
その爆音を聞いて、ゴブリンズは動き出す。小鬼達の仕事がはじまった。
商社ビル前。
「今、今12時になりました!
その瞬間ビルから大きな音が聞こえて来ました!」
ビルから少し離れた大勢の人達はこの音を聞いて更に歓喜した。
リポーターが実況を続ける。
そして十階建てのビルの窓全体に大きな言葉が英語で浮かんだ。
言葉はまるで手書きのようにイビツだが、突然現れた文字に皆の目線が集中する。
『我らはゴブリンズ!!
おまえらに安眠はさせない。
今日からおまえらの枕は俺達の物だ』
「「「ウオオオーーーーーーーーー!!!!」」」
内容を読んだ観客達が嬉しそうに声を上げていく。
その声を聞いて、ビルの屋上に立っていた全身にミイラのように包帯を巻いた人物が笑みを浮かべる。良く見ると包帯の内側にある筈の目や口が無い。
しかしその包帯人間は嬉しそうに声を上げる。
ダンク「成功!
宣伝は上手くいったぜ!」
壁一面に大きなコンピュータが設置されたコントロールルームにまで人々の喚声が聞こえる。
だが絶えずエアコンがゴンゴンと音を鳴らして作動しているので彼等の耳には僅かにしか聞こえなかった。
アイ「歓声が聞こえたな?成功だ」
スス「次は私達ね」
コントロールルームにいた二人組の内、アイと呼ばれた黒い服を着た二十歳前半の男性が通信端末機を取り出す。
アイ「シティ。逃げるぞ」
シティ「了解。ポイント9で待ってるわ」
通信を切るとアイと同時に黒い服を着た褐色の肌の十代後半の女性、ススがポケットからナイフを取り出し、壁のコンピュータを切り裂く。斬、という音のすぐ後、やかましいエアコンの作動音が消えた。
ハサギ「わっ何だ?急に暗くなったぞ!」
ノリ「ハサギさん、どうやらこの会社のシステムが落ちたみたいッス!」
ハサギ「システムだと?
そうか、あいつらはコントロールルームにいるんだな!行くぞノリ!」
ノリ「了解ッス!」
ゴン、ガン!
ハサギ「痛い!」ノリ「ちゃんと前見るッスよ!」
ハサギ「暗くて前がわからないんだ!」
アイ「お、よく見える」
スス「明るい明るい」
二人が暗視ゴーグルを作動させると暗い室内が薄緑色の世界が映し出される。
互いの姿を確認して頷いた後、二人は鉄の扉の前まで移動する。
アイ「さあて」
スス「行きましょうか!もういっちょう斬るわよ!」
ザン! ザン! ガラララ!!
鉄で出来た扉が一瞬で四分割され、中からススとアイが出て来た。
アイ「ポイント9まで走るぞ!」
スス「了解!」
ノリ「ハサギさん!あの音は」
ハサギ「奴等が動いたんだ!行くぞノリ、こうなりゃ暗闇なんて関係あるか!」
ハサギはカンだけを頼りに部屋を飛び出した。ノリも続いて走り出す。
ハサギ「今日こそ捕まえてやる・・ゴブリンズ!」
ダン!ダダダダダダ!!
暗闇に包まれた廊下の中で何かが走る音が響き渡る。
爆音や歓声があちこちで聞こえる中、二人は必死に走り出した。
その後ろで誰かが走る音が同じ様に響き渡った。
しかし前を走る者達はそれが誰なのか確認する余裕はない。
ダダダダダダダダダダダダ!!
ダダダダダダダダダダダ!!
長い暗闇の中、四つの足音が響き渡る。
だが後ろの足音の方が少し早い。
やがて彼等の走る先にガラス張りの壁が見えた。
左右に道は無く、ガラスの向こうには輝く夜の街を見下ろす事ができる。
(捕らえた!)「今だ!」
誰かの声が響くと同時に暗闇の廊下に変化が発生した。
ピシリ、と何かが割れる音。
そのすぐ後にバリイイイインと窓ガラスが割れ、破片が廊下に散乱した。
ハサギ「ウワッ!!」ノリ「何スか!?」
ハサギとノリは思わず立ち止まり、ガラスから守るため顔を手で覆う。
そのすぐ後ろから、
ヒュン、ヒュンと二人の影が通り抜けていった。
ハサギ「しまった!」
アイ&スス「「どりゃあああああああ!!!!」」
二人は暗闇の廊下きから思い切り飛び出した。
外の世界は夜の街が輝いて見える。
アイ「ポイント9到着!!」
スス「シティー!今よー!」
闇の中で二人が叫ぶと、何処からか太い柱が何の動力も使わず二人の足元まで飛んで来た。
ハサギ「何っ!?」
タン、タタンと二人は柱に乗る。
柱は良く見ると電柱だった。
何でそんなものが一人でに浮いているのか、ハサギには理解できなかった。
ハサギに理解出来るのは、ただ一つ。
ハサギ「逃げられた!畜生!」
ノリ「ハサギさん…」
怒りでワナワナと震えるハサギを尻目に、アイとススは夜の街に飛んでいった。
ビルの足元では観客達が相変わらずゴブリンズ・コールを叫んでいたが、
その人達の所に雨が……紙で出来た雨が降り始める。
「何だ?」「脱税?この会社が!」「こっちは不良債権に脅迫に…」「何て会社なんだ!」「最悪!」
人々が叫ぶ中、最後尾の初老の男性がへなへなと倒れた。
その男性はこの会社の社長だった。
彼は蒼白な顔でただひとこと、こう呟くしかできなかった。
「お、終わった。
ワシの会社は、人生は、もう終わった・・」
そう呟く社長を、黒いスーツを着た男達が何処かへ連行していく。そして現場では、相変わらずゴブリンズ・コールが鳴り響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます